第8話 水分創成と火事

 リーナといったん別れた僕は、工場施設の正面入り口前にてスキルプレート(エレニア)に思いついた案を話していた。火災の勢いは強くなっており、地上からの侵入が難しい。


「そうだ! エレニア! 【風力創成】で空を飛べないかな!」


『熱っ! え? どうなんでしょう…前のように付与効果のような使い方で、マキアス様の真下に風を放出できれば…いや、でも空を飛ぶとか無茶すぎるんですけど…』


「なるほど! 真下に放出か! いけそうだ! 【風力創成】発動!」


『ちょっ、マキアス様! まって! なんで今のでいけるになったんで―――』


 僕の足元に風が巻き起こり、体を上に押し上げ始める。よし、これで一気に勢いをつければ!

 うお! 体が浮いたぞ! 飛んだ! 飛んだぞ! というか吹っ飛んだ! 

 僕は一瞬にして施設より高く飛び上がっていた。


「うわわわわ! 速すぎた!」

『ちょ、マキアス様! パンツ見えちゃう! 見えちゃう!』


 若干情けない声が漏れたが、しょうがない。だって人生においてこんなに高く飛んだことなんてないんだから。あとスキルプレートがどうやらスカート装備設定のようだが、ここは我慢してくれ。言ってるだけで誰にも見えないし、パンツより人命優先だ。

 施設を見下ろすと、建物の中庭らしき場所に人影がみえた。おそらく逃げ遅れた人たちだ。あそこに着地しよう。


『す、凄い! マキアス様! 飛んでる! これすごい! 天才ですね!』


「なんとか施設内にいけそうだ! ところでエレニア! これどうやって着地するの?」


『…え? それ私に聞くんですか? えと、左右上下に風力を微調整しつつ、ふんわりと降りるとかかしら? えと、うまいことして!』


 風力を微調整しつつ、うまいこと―――


 ―――ぐっ! うまいこといかない! 空中での微調整が激ムズだ! 


『マキアス様! このままだと地面に激突します! もっと微調整して!』


 やってます! それとっくにやってますよエレニアさん! こうなったら多少の痛みはしょうがない、僕は施設の壁にぶつかりつつ勢いを少しでも減らして、中庭に着地した。尻もちをつきながら。


「ふう、なんとか着地できた。」


『はぁ…死ぬかと思いました。さすがマキアス様! 頭から落ちなくて幸運でした…でも私はパンツが…もうお嫁にいけません、マキアス様責任取ってください!』


 たしかにやばかった、尻が痛いだけで済んだのは奇跡的だな…飛ぶのはちょっと難しいか。でも大ジャンプなら練習すればできるようになるかも。


 お嫁がどうとか言っているエレニアを慰めていると、ふと気配を感じたので後ろを振り向く。

 目の前に棒立ちの女性がいた、口をあんぐりあけて。


「な、ななな、なんだお前は! なぜ空から落ちてくる!」


 その女性は自警団の隊長アエルだった、いきなり空から僕が落ちてきたので少し混乱していたが、すぐに立ち直り状況を教えてくれた。そしてマーサの父親もそこにいた。


「施設内に取り残された人員はここに集まっている。我々自警団と施設関係者だ。脱出経路を確保していたのだが、想像以上に火のまわりが早くて逃げ道を塞がれてしまったんだ」


 その後は、いったん中庭に避難後、アエル隊長がマジックシールドを展開して、しのいでいたのだそうだ。


「となると、なんとか脱出経路を見つけないと」


「そうだな、私の展開しているマジックシールドでは本格的に火の手が迫れば防ぎきれない、さらに私の魔力にも限りがある。マキアス殿、あなたの飛んできたスキルは使えないのか?」


「すいません、あのスキル制御が難しくて。人を抱えるのは厳しいんです」


 1人抱えるどころか、再度ジャンプするのも命がけになりそうだからな。今回はなんとか中庭に着地できたけど。次は火の海に突っ込んでしまうかもしれない。


「わかった、こうなったら外部からの消火に期待して待つしか―――」


 その時凄まじい爆発音が施設中に響いた。地面も揺れるぐらい大きい。一気に火の回りが強くなり、僕らのまわりも火の海と化していた。


「う…ぐ…」


 アエルさんから苦悶の声が漏れる。彼女のマジックシールドも限界が近づいている。相当きつそうだ。


『ご安心を! マキアス様! わたしが超絶サポートすると言ったこと、お忘れですか?』


「え? いや、まあ覚えてはいるけど。エレニア、ふさげている場合じゃないんだ。」


 そう、なにかしら早く打開策をみつけなければ僕らは丸焦げ確定だ。


『じゃ~ん、マキアス様! 新しいコード! 獲得してますよ! やったね!』


 え!? そうなの! 「じゃ~ん」じゃない!! そういうことは早く言ってくれ。僕はすぐにスキルプレートを確認する。するとこの場面にもってこいの新コードが目に入ってきた。


 □-------------------------------


【万物創成コード】


 使用可能コード


 ・「隕石創成」

 ☆空から石が飛んでくる


 ・「風力創成」

 ☆風をおこす


 ・「水分創成」

 ☆水を作る


 □-------------------------------


「おお! これだ! 【万物創成コード 水分創成】! 発動!」


 掲げた僕の手から水があふれ出た。じゃぶじゃぶと。ものすごい勢いで僕のまわりに水たまりができていく。


「…エレニア! これは水魔法みたいに遠方に飛ばすかできないの?」


『え? 【水分創成】はその名のごとく水を作り出すコードですから』


「ですから?」


『ですから、飛ばすとかないんです!』


 スキルプレートから若干泣きそうな叫びが聞こえたが、水が出せるようになったんだ。状況は良くなっているはずだ。あとは使い手の僕がなんとかすればいいんだ。


 ―――まてよ、コードを二重で使用できるなら…


「【水分創成】!×【風力創成】!」


 スキルを発動した瞬間、直径1メートルほどの水の塊が前方に勢いよく飛んでいった。やった成功だ!


『す、凄いマキアス様! 創成した水分に風力を付与したんですね!』


「よしいける! アエル隊長! 僕のスキルで道を切り開きます! みんなに移動準備をしてもらってください!」


「わかったマキアス殿! 脱出するなら裏門につながるあの通路を直進しよう!」


 僕はいったん全員に水をかけたのち、アエル隊長が指示した通路に水の塊を連射する。完全な消火はできないが、なんとか火の勢いをおさえることができた。


「おお、これならなんとか行けるぞ、全員1列にて前進する! マキアス殿に続け!」


 アエル隊長の指示に従い、全員脱出経路を進む。僕は先頭にて片手で水の塊を連射しつつ、もう一方の手で水をじゃぶじゃぶと出す。


「しかし凄いな、ここまで大量の水をだせる奴ははじめてみるぞ。マキアス殿」


 アエル隊長は、僕がバンバン水の塊を乱射するのをみながら感心していた。どうやら僕の【水分創成】は通常の水魔法とは容量が違うようだ。


 しばらく進むと前方に施設の出口がみえたてきた。みんなへとへとだが死者はいない。良かった。

 ようやく火の海から脱出した僕は、ケガ人を隊員さんたちに任せて、急いで施設正門方面に向かう。


 正門付近にはすでに水魔法の使い手たちが魔法を詠唱して消火活動にあたっているようだ、そして。


「マキアス~!」 


 遠くから正門前で救護活動をしているリーナの声が聞こえた。ぼくも手を振ろうとしたその瞬間だった―――


 再び施設内で大爆発がおこった、さっきの大爆発よりさらに大きい。


「いかん施設が崩れる! 総員退避! 施設から離れろ! 急げ!」


 現場指揮をしていた副隊長ギアスの声が響いたが、突然のことに周囲は混乱していた。


「リーナ!」


 考えるより先に体が動く、僕は【風力創成】を全力使用して彼女の元へ駆け出していた。

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