第9話 今日の三面
『腰抜けの噂は嘘か誠か。
ミカエル・ムーランがS級冒険者パーティー【鷹】の守護神・アルフォード・フォックスに判定勝ちをもぎ取った。
昨日、西区ギルド模擬戦場。アルフォード・フォックス(23)対ミカエル・ムーラン(13)の戦いだ。
女神・ミーティアの名の下に行われた試合で剣を交え、ムーランが判定勝ち。ムーランは「強かった。守る者がいるとさらに強くなるんだろ、久々に本気になった」と戦い抜いたフォックスへ敬意を示した。
試合は終始、フォックスが一方的に攻撃を行うも、ムーランは足を使いペースを握り続けた。勝負が動いたのは一瞬。ムーランが木剣に木剣を絡めた奪い取り競り勝った。
勝利の宣言を聞くとムーランは、年相応の笑みを見せた。
勇者パーティー解散後、腰抜けと噂されていたムーランであるが、その噂に疑問が浮上した。幼少時代から魔人討伐の暗殺者一族として頭角を表し、箱の魔人戦を辛くも討伐。「ここぞ」というところでの離れ業を行う胆力は魅力だ。
相手のフォックスは「(手は)抜いてない。あの子は強い。クーラが魔法をまとって戦っても五分五分なんじゃないかな?」と讃えた。』
「この三面の記事マジかよ!」
新聞を熱心に読んでいた男が声をあげた。赤ら顔の男と禿げ上がった頭の俺が、三面に目を通す。
「ああ、マジだぜ。マジ。あの腰抜けが勝ったよ」
「なんだ、お前は試合を見たのか」
「ありゃ見事な勝利だったな。お、このシャシン、剣を奪う瞬間をとっているのか……俺には何が起きたかまるでわからなかったのに、スゲェな」
赤ら顔と禿頭はゲラゲラ笑い、ワインを飲む。新聞を熱心に読んでいた男は、血の気が失せた顔で呟いた。
「あのアルフォードに勝つやつだろ? 腰抜けとか言っていたらぶちのめされるかも」
「お前、怖いこと言うなよー」
「そ、そうだぜ。怖いことは言うなや」
三人はブルっと震えた。赤ら顔が露骨に話題を変えるために一面の記事に目を通す。
「一面の記事は勇者を讃える文言しか書いてねぇな」
「吟遊詩人でも雇ったんだろ」
熱心に新聞を読んでいた男はつまらなさそうに答えた。
「金を出して吟遊詩人を雇えば、これくらい書いてもらえるのかな?」
禿げ上がった頭の俺は呟くと、二人は涙を浮かべて笑った。
「そうすりゃあ、俺も勇者様か? あっはっはっは」
ギルドに併設されていた酒場の扉が軋んだ音を立て開かれた。フミとミカがやってきたのだ。三人はミカを認めると目を逸らした。ミカはつまらなさそうに舌打ちをする。
「ミカくんミカくん。今日の新聞見ました?」
「見てない」
フミの質問にミカはそっけなく答える。フミは「アリアさんに買って行こう」と言って、一部購入してきた。
「写真、うまく撮れていると思いませんか?」
「あ、ああ。これが僕か……」
「かっこいいですよ」
三面の記事をミカに見せると、フミは楽しそうに尋ねた。ミカは少し恥ずかしそうに頷く。
異世界で新聞記者をしているフミと申します! 宮本宮 @zamaba
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