砂の城 前編
令和元年発売のメガヒットスイーツ、ロー○ンのどらもっ○シリーズ。
もちもちの薄皮にローソ〇開発部こだわりの餡子とふわふわのホイップクリーム。
そんなスタンダードなあんこ&ホイップから最新のお抹茶味まで驚異のハズレ知らずな激ウマスイーツだった。
ちなみに俺は昨年発売されたバニラ&バニラに、一時期ハマってしまった。
俺と絹ちゃんにスマホの画面を見せながら、紬ちゃんが新作どらもっ〇催促をしてきた。
「姉さん、どらもっ○かすたーど&塩キャラメル味は夏発売になってる」
絹ちゃんがスマホの画面を拡大して、紬ちゃんへ見せている。
「嘘、でしょ……じゃあ、私は何の為に日本へ帰って来たの……」
そんな姉妹の会話に俺が「えっ!紬ちゃん、どらもっ〇食べたいから日本へ帰って来たの?」と驚くと、絹ちゃんが「そんな訳ないだろう。姉さんが面倒だからと先延ばしにしていたメディアの出演依頼が事務所の社長に見つかって、強制的に帰国させられているだけだ」と溜息を吐いた。
「紬ちゃん……」
「だって仕方ないじゃない。日本のテレビに出る時は、なぜかすごーく派手な衣装を用意されるんだもん。ほぼ背中が出てるドレスとか……む、胸元が開いたドレスとか……」
「それは紬ちゃんがすげー綺麗だからだと思うけど」
「は、にゃ…………」
「紬ちゃん?」
「遥はすぐにそういうことを言うから……も、もう彼女いるくせに……」
「本当のことを言っただけだけど。それより悠月先輩の事は天から聞いたの?」
「フーンだ!さあ、誰から聞いたでしょう。(悠月って誰よ……絹と付き合わないんだったら私でよかったじゃん……)」
紬ちゃんは不貞腐れたように俯きながら、ごにょごにょとよく聞き取れない声で呟いた。
それから少しの間、ブツブツ呟いていたけど、その後、気を取り直すように両手でパシンと頬を叩くと「遥、耳貸して」と俺に向かって手招きをする。
「どうしたの?」
「さっきね……急に蒼がこんな時間から友達の家に遊びに行くって言い出してね、梅ちゃんと口論になってるの。蒼のあの様子だと、多分……絹に告白したんでしょ?遥、しばらくあの子と買い出し行っててよ。その間に私が何とかするつもりだから」
そう言うと紬ちゃんは俺に向かって軽いウィンクを送ってきた。
……紬ちゃんには敵わないなと思いながら頷く。
そんな俺たちのやり取りを静かに見ていた絹ちゃんも何かを察したようだった。
「他の新作でいいなら、今から買って来るよ」
「うん、お願いね~」
紬ちゃんは絹ちゃんにお金を渡すと、手をひらひらと振りながら居間へと戻って行った。
それから俺と絹ちゃんは玄関を出て、近所にある二丁目のロー〇ンではなく、一駅分先にある五丁目のロー〇ンへと向かう。
言葉をかわした訳じゃないけど、お互いにそうした方がいいと思ったのだと思う。
ゆっくりと見慣れた道を歩きながら、隣を歩く絹ちゃんを見た。
肩口にかかる黒髪が、春の終わりの夜風に吹かれて靡いた。
……とても綺麗だな、と思う。
その思いと、夏のはじまりの匂いが夜へと混じった。
「今夜は月が明るいな」
絹ちゃんの声ににつられるように夜空を見上げる。
夜空には星明かりを消してしまうほど、大きな月が浮かんでいた。
◇
ごめんなさい。
後編は……明日の夜に更新します。
久遠さん視点からはじまります。
応援や評価ありがとうございます。
がんばれます。
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