トワイライト

 俺と春川さんはマ○クから十分程歩いた場所にある大型ゲームセンターに来ていた。


 そして、現在、大人気海外ドラマ「THE WALKING DE○D」のガンシューティングゲームを二人でプレイしている。 


 ここには専用の筐体ボックスがあり、TWDが好きな俺は感動していた。

 春川さんもTWDが好きだったらしく、二人掛けの椅子にちょこんと座りながら、ロード中に足をパタパタさせていた。


 ゲーム自体はクロスボウガンをリロードしながら撃っていく、臨場感たっぷりの仕様で、ゾンビウォーカーはヘッドショットでしか倒せない。

 その上で生存者ヘルスを助けていくのだが、ウォーカーの短いモーションからの速攻も多く、冷静に対処しなければならなかった。


「陰キャ、ヘルスがウォーカーに囲まれてるよ!」

「了解!」

「陰キャ、美雨も囲まれた……」

「今、助ける!」

「陰キャ、間違ってヘルス撃っちゃった……」

「ド、ドンマイ……あとでごめんなさい、しような……」

「陰キャ……」

「大丈夫!」

「美雨、まだ何も言ってないじゃん!」

「…………」


 こんな風に紆余曲折有りながらも、最終ステージへ進む頃には、


「あっ!燃料タンク上がったよ」

「俺、硬いヤツ中ボスやってるから、そっちで撃ち抜いて欲しい!」

「りょ!」


 シュパンッ、ズドーーーーン!!


「やったー爆発させたよ!!」

「すげーナイスショット!」

「えへへ」


 春川さんのシューティング精度は随分と高くなっていた。


 ううっ、子供の成長って早いな、と父親になった気分になってしまう。

 実際はなったことがないから知らんけど。


 そして、エンディングを迎えるのだが、TWDらしく何とも救いのないラストだった。


 体感時間、ハリウッド映画並み。

 実際は約四十分ほどのウォーカー集団との戦闘を終え、俺達は無力感と脱力感で抜け殻になっていた。


「あのね、陰キャ……美雨ね、今日のことどーでもよくなったかも……」

「それなら、よかった……」

「うん。でも……でもね、本当にこれでよかったのかな?」

「今さ、どっちの話をしてる?」

「そんなの決まってるじゃん!」

「駄目だ。もう自分達を責めるのはやめよう……俺達は全員助けようとした。精一杯、戦ったよ……」

「うん……そうだね……」


 こうして、俺と春川さんは……

 遠い目をしながら、次の戦場マリ○カートへ向かうのだった。



 ◆



[春川美雨視点]



 ジュースを買いに行ってくれた陰キャをベンチに座って待っていた。


『大丈夫?』


 待っている間、嵐ちゃんからメッセージが届いた。

 今日のことを心配してくれてる。

 優しい……大好き。


『大丈夫だよー』


 嵐ちゃんにソッコーで返信する。

 でも、陰キャといるって言わない方がいいよね?

 言ったら、急に合流することになるかもだし。

 陰キャに、悪いよね……?


 そんなことを考えていると、


『E班、けっこー居心地いーよね』


 美加理ちゃんからもメッセージが届いた。

 

『それ思ったー』

 

 美加理ちゃんにも返信すると、すぐに既読がつく。

 返信も早い。

 

『だよね。村正とか頼れる感じじゃん?長谷はまだよく分かんないけど。五十嵐さんは優しそうだし、それから深瀬って何気によくない?』


 えっ……⁈


 それって、どーいう意味?


 な、何で、陰キャ?

 

 美加理ちゃん……

 

 もしかして、気になってるってこと?


 そう考えているうちに、思わず通話をタップしてしまう……


「美雨、どしたー?」

「美加理ちゃん、急にごめんね」

「いいよ。あー、もしかして……さっきのアレ?」

「う、うん……」

「あーね。自分でもどうかと思ったんだけど、今日、深瀬が美雨を庇った時あったじゃん?なんかいいな、って思ったんだよね。それにアタシね、男は顔じゃないっていうか……どっちかっていうとアリっていうか……あはは……」

「えっとね……美加理ちゃんが言ってるの、何となくわかるよ」

「いいよ〜美雨。無理して、アタシの話に合わせなくても……美雨が好きなのは戸村っちじゃん?深瀬とは全然タイプ違うし」


 どうしてかな?

 言葉に詰まってしまう。


 トム君の事は好きだけど……

 正直、美加理ちゃんの話に心の奥がモヤモヤして……


 陰キャ……


 マリ○ーでバナナを投げて邪魔して来たりするけど、クレーンゲームで美雨の好きなお菓子を取ってくれたり、音ゲーが何気に上手かったり……陰キャといると楽しくて、久しぶりにいっぱい笑えた気がした。


「美雨、話聞いてる?」

「美加理ちゃん、ごめんね。聞いてるよ」

「でもさ……」

「何?」

「深瀬ね、実は……松島先輩と付き合ってるっぽい。お姉ちゃん、松島先輩と仲良いから、特別に教えてくれたんだよね。アタシ、秒で失恋したし!あはは」

「…………」

「でも、まだ気になってるし、陸部の先輩から聞いたけど、松島先輩って男関係で良い噂を聞かないからさ。キャンプでワンチャン狙おうかなーって。美雨?ありゃ、みーうー?」

「う、うん、聞いてるよ。で、でも、もうすぐ友達が戻ってくるかも……。ごめん!また連絡するねー」

「そかそか、オケ。じゃーまた明日、学校でねー」

「ごめんね。また明日ねー」


 電話を切った後、ちょうど陰キャが戻って来るのが見えた。


 今さら……

 松島先輩と付き合ってることや志倉絹あの女とちゅーしてるところを思い出した。


 今まで何とも思わなかったのに、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。


 松島先輩……


 志倉絹……


 美加理ちゃん……


 制服の上から自分の胸に手を当てた。


 この胸の痛みが、


 気のせいだったらいいのに。


 そう、何度も何度も……思った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る