ラザー・ビー

 生徒で賑わう食堂の左奥にある購買スペース。

 ケースの中には惣菜パンや菓子パン、サンドイッチ、おにぎりや揚げたてのコロッケが並んでいた。

 その中で一際目を引く商品があった。

 

「キャラメルバナナサンド……初めて見た……」

「金曜日限定の商品みたいね」


 隣にいる山川さんがポスターを指差して、にっこりと笑う。

 ポスターには、月曜日から金曜日までの限定商品がそれぞれ掲載されていた。

 俺は金曜日限定のキャラメルバナナサンドを恭しく両手でレジへと運ぶ。

 普段、糖質は控えているのだが……

 どうしてもバナナの誘惑に負けてしまった。

 あとは鮭のおにぎりとミネラルウォーターを追加で購入する。

 ちなみに山川さんはミックスサンドと紅茶をセレクトしていた。

 教室へ向かいながら、自然と球技大会の話題になった。


「今朝、美加理ミカリちゃんから絹ちゃんの活躍でバレー組が優勝したって聞いたよ」

「うん、めずらしく本気モードだった」

「そうなんだ。中学最後の体育祭でのリレー以来かな?」

「あー、あったね。リレーも凄かった」

「ふふっ、そっか……」

「どうしたの?」

「ううん、って思っただけだよ」


 口元近くで両手の指先を合わせながら、山川さんは俺を見てニコニコと笑っている。

 俺はその笑顔の意味が分からなくて困っていると「私と絹ちゃんの話だから、深瀬君は気にしないでね」と今度は悪戯な表情で笑った。

 そして、話題を変えるように中間考査の話になる。

 

「深瀬君は、もうテスト勉強を始めてるの?」

「正直……まだ手付かずかな。山川さんは?」

「少しずつだけど始めてるよ」

「俺、やばいな」

「ふふっ、中間考査は範囲も狭いから慌てなくても大丈夫だよ。そうだ〜!今日の放課後、村正君のお家でテスト勉強をする予定だけど深瀬君も来ない?絹ちゃんも誘って四人で勉強なんて楽しそうじゃない?」

「俺はめちゃくちゃ助かる。でも、二人の邪魔だったりしないかな?」

「気を遣ってくれてありがとう。でも大丈夫だよ。実はね、以前から村正君が深瀬君と仲良く出来たらいいな、って言ってたの。ほら、私と絹ちゃんが仲良いでしょう?だからね、仲間が欲しいんじゃないかな」


 なに、それ。

 村正君…………好きです…………

 俺は嬉しさを通り越して、好きが溢れてしまう。


「是非、宜しくお願いします!」

「ふふふ、こちらこそ宜しくお願いします。村正君と絹ちゃんには、私から声を掛けておくね」

「ありがとう!」


 廊下には他の生徒も歩いていたので喜びを表現出来なかったけど、俺は内心でスーパーマリ○のスピンジャンプ並みに喜んでいた。


 教室に戻ると陽キャグループとの話が終わったのか、俺の席に絹ちゃんが座っていた。

 さっきの渋々な感じが嘘のように、隣の村正君と和やかに話をしている。

 俺と山川さんが戻ると絹ちゃんと村正君が立ち上がった。


「志倉さんと話していて、今日は天気も良いし、二人ともお昼を中庭で食べないか?」

「それいいわね〜」

「…………」


 村正君の提案に俺は固まってしまう。

 こんなに嬉しい事が続いてもいいのだろうか?

 そんな風に思っていると……絹ちゃんに制服の袖を引っ張られた。


「深瀬、行くぞ」

「き、絹ちゃん……」

 

 そのまま……四人で廊下に出た時だった。


「俺達も一緒にいいかな?」


 爽やかな声が聞こえて振り返ると戸村君と春川さん、それに久遠さんが「フカちゃん〜」と小さく手を振っていた。

 

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