ランドスケープ
午時三時、Aクラスの教室は盛り上がりに盛り上がっていた。
何故なら、球技大会で総合一位を獲得したからだ。
担任の黒沼先生も嬉しそうだ。
「ジュースは全員に行き渡ったかな?」
戸村君の明るい声が教室に響いた。
「うーす」
「貰ったよ〜」
「
「さっき俺コーラ貰った」
「全員、貰ったと思うぞー」
陽キャグループのテンションもかなり高い。
俺も手に午○の紅茶を持っている。
ちなみに無糖派だ。
後味スッキリに目がない。
俺はクラスメイトに囲まれている久遠さんと絹ちゃんを見ながら、さっきまでの事を思い返していた。
あの後、何とか準決勝を勝ち上がったバレー組はDクラスと決勝戦を戦っていた。
試合途中で、期待されていたバスケ組が決勝で敗れたという情報が入り、総合一位の行方がバレー組の勝敗に託されてしまった。
その結果……
久遠さんと絹ちゃんは、ほぼクラスの全員から懇願される形で決勝の試合に臨んだのだった。
そして、見事に優勝を勝ち取ったのだった。
余談だけど、再び二人がバレーコートに立った時の体育館はエグいほどの騒ぎになっていた。
「じゃあ、みんなジュースを手に持ってくれ」
「オケまる〜」
「持ったー」
「トム君、準備出来たよ」
「俺も」
「それでは、総合一位おめでとう!!!!」
「「「「カンパーイ!!」」」」
戸村君の掛け声の後、クラスメイトは思い思いにジュースで乾杯をしていた。
絹ちゃんは……
他のクラスメイトに囲まれていたし、俺は特別、乾杯をする相手もいないので、頬杖を突きながら窓の外を眺めていた。
春に降る雨は白くて細い。
その白んだ世界をぼんやりと眺める。
今日は疲れた……
藤間先輩との一件や、佐久間との出来事を思い返すと解決していない問題ばかりの様な気がしてくる。
俺は……
このまま悠月先輩と付き合っていて、本当にいいのだろうか?
俺の見ているのは、悠月先輩の表面的な部分ばかりで……
実際は、悠月先輩の事を何も知らないんじゃないか?
それに考えたくはないが、まだ佐久間と悠月先輩の関係は続いているんじゃないのか?
それから佐久間は絹ちゃんにも声を掛けていた。
絹ちゃんは恋愛に興味がないから大丈夫だろうけど、なぜか心の中で何かが軋む音がした。
教室では、のんびりとジュースを飲みながらのHRが行われる中「悩むな!!今日はジムでひたすら筋トレをしよう」と心に決めて、俺は帰り支度を始めるのだった。
その時、急に制服のポケットに入れていたスマホが震えた。
『一緒に帰らない?』
タイムリーに悠月先輩からのメッセージだった。
……良い機会かもしれない。
藤間先輩や佐久間との一件を話してみよう。
それから悠月先輩は佐久間の事をどう思っているのか、を聞いてみよう。
多分、俺は初めにその事を聞くべきだった。
俺は誰かと付き合うのが初めてだから、分からない事も多いけれど……
少なくとも誰かと付き合うというのは、良い事ばかりじゃなくて、悪い事も多いのだろう。
ただ、悪い事が起こった時に相手はどう思っているのか、どうしたいのか。
そういう相手の想いを聞いて、俺は相手のために何が出来るのかを考えて行動する事が大切なのだろう。
俺は、クラスメイトに話し掛けられている絹ちゃんを目で追った。
ずっと、絹ちゃんが俺にしてくれたように。
『わかりました』
短いメッセージを返して、スマホをポケットに仕舞う。
ちょうど黒沼先生がHRを終えたので、俺は鞄を肩に掛けて教室を出ようとした時だった。
「フカちゃん、待って〜」
久遠さんに話し掛けられる。
「今さ〜大丈夫?」
「大丈夫だけど」
「よかった〜。あのね、これから球技大会の打ち上げをやろうって話が出てて、フカちゃんも来ないかな〜なんて」
「…………」
「ふぇ?フカちゃん?どうしてフリーズしてるん?私、変なこと言ったかな?」
「も、もう一回言って貰っていい?」
「んん?」
「い、いや、何でもない」
嘘、だろ……
ボッチの俺が
「で、来れそう?駅前のカラオケボックスに五時なんだけど?」
小首を傾げながら、目を細めて笑う。
クリーム色に近い茶色の髪がさらさらと揺れていた。
地上に舞い降りた天使……
俺は聖浄化されながら首肯いた。
「遅れるかもしれないけど、必ず行くよ」
「お〜フカちゃんが行くならキヌキヌもゲットだぜ〜」
「うん?」
「んーん、フカちゃんは気にしなくていいから。こっちの話だよ〜」
そう言いながら、満面の笑みになっている。
あとで部屋番号を送るからと、その後メッセージのアドレスも交換した。
まさに捨てる神あれば拾う神ありだ。
俺はスマホを宝物のように眺めながら教室を後にした。
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