オン・ザ・エッジ
「ゲホッ……はぁ……」
胸を押さえながら、胃の中のモノを全て吐き出した。
それからトイレを出て、フラフラしながら中庭にある自販機コーナーに向かう。
到着して直ぐにミネラルウォーターを買って口を漱いだ。
「お前はメンタルが弱すぎる。卓越した才能が有っても、そのままだとプロでは難しいかもしれん」
ずっとコーチから言われて来たことだ。
まさか恋愛面でも、その弱点を発揮するとは思わなかった。
それでも、一発勝負の試合とは違って、今回の件は時間が解決してくれるはずだ。
悠月先輩は、俺と付き合ってからは佐久間と関係を持っていないと言っていた。
佐久間が
そう思いながら、もう一度、水を口に含んだ。
それと同時にジャージのポケットに入れていたスマホが震えた。
『勝ったぞ』
それは絹ちゃんからのメッセージだった。
俺は胸の前で小さくガッツポーズをする。
しかし、その後すぐに……
パンダが横たわっているだけのスタンプが送られて来た。
あっ……!
絹ちゃん……体力ないもんな……
俺は絹ちゃんのエマージェンシーコールに応えるべく、急いでポ○リを買って体育館へ向かうのだった。
◆
雨が激しさを増して来た。
土砂降りの雨に周囲の空気が白く染っていく。
視界が悪くなる中、体育館の入口が僅かに見えて来た。
それに続く渡り廊下を緑のジャージを着た三年生がたむろして道を塞いでいた。
その間を縫うように歩いていると、突然ジャージの裾を引っ張られて声をかけられる。
「あれ〜悠月ちゃんの彼氏君だ〜」
「藤間先輩?」
「あら?私の事を覚えててくれたの?嬉しいわ。ところで悠月ちゃんを探しているのかしら?」
「あっ、いえ……」
俺は藤間先輩の質問に口籠もってしまう。
そういえば、悠月先輩もバレーボールに出ると言っていた。
クラスの応援や佐久間の事で頭がいっぱいになっていたから気が回らなかった。
もしかして、応援に行くべきだったのだろうか?
俺が悩んでいると、藤間先輩が顔を覗き込むように見つめてくる。
近い……
それに甘い香りに頭がクラクラした。
「ねぇ、少しだけ時間は空いているかしら?」
「えっ?」
「実はバレー用のネットがもう一枚必要になってね。だけど、私一人では重くて運べそうにないから手伝ってもらえないかしら?」
「わかりました」
「ありがとう。すぐ近くの備品室だから行きましょう」
そう言うと、藤間先輩は優雅に歩き始めるのだった。
◆
私、藤間累は……
幼い頃から他人が何を考えているのか、すぐに分かった。
藤間家という特殊な環境で育ったのが影響しているのだろう。
あの家の闇に飲み込まれないようにするには、常に神経を張り巡らせる必要があった。
だから、私は……
気の許せる場所が欲しかった。
でも、許嫁のいる私にとって恋愛は許されなかった。
だから、後腐れなく女の子とエッチする事しか考えていない友也君は、私にとって都合の良い相手だった。
だけど、最近、私に気になる人が出来た。
悠月ちゃん……
まるで天使のような顔をしているのに……悠月ちゃんの心は複雑だった。
私は悠月ちゃんを知りたくて仕方がなかった。
だから、悠月ちゃんが選んだ男の子にも興味があった。
そして、それは私の悪い癖だと知りながら備品室の鍵をかけた。
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