リアル妖精
東校舎の端にある第二音楽室。
これって地味に嫌がらせだよな。
そう思いながら一気に階段を駆け上がる。
予想外にHRが長引いてしまったから、
案の定、第二音楽室の扉の前で悠月先輩は佇んでいた。
俺を見つけると微笑みながら手を振ってくれる。
自分の顔に熱が集まるのを感じながら、急いで駆け寄ると更に笑顔で迎えてくれた。
「お待たせしました!」
「ふふっ、そんなに待ってないよ。でも、急いで来てくれたのかな?」
「いや、あの……うっす」
先輩の笑顔には何かのエフェクトがかかっているのか周囲がキラキラしていた。
そのせいで緊張から謎の体育会系になってしまう。
ダメだ、ちゃんと気を引き締めないと。
佐久間の出方次第では、俺が先輩を守らないといけないのだから。
◆
第二音楽室に入ると佐久間は平らなピアノチェアに腰を下ろしていた。
輝くような金髪にジ○ニーズ顔負けのイケメンだった。
もしかしたらクラスメイトの戸村君でさえ、佐久間と比べたら分が悪いのかもしれない。
その佐久間の膝の上には見知らぬナイスバティなお姉さんが座っていた。
「やっと来たのかよ、待ちくたびれたわ」
「佐久間君に
「あら、悠月ちゃん。ご機嫌よう」
ナイスバティのお姉さんは、ヒラヒラと優雅に手を振っている。
「もう、悠月ちゃんたら、こんなに面白そうなこと内緒にしているなんて人が悪いわ」
「…………」
「クックックッ……悠月、そんな顔すんなよ。可愛い顔が台無しじゃねぇか」
「……調子が狂うだけよ」
「お前、
大丈夫だろうか……悠月先輩の手が震えている。
俺は先輩を庇うように前に出て、佐久間を睨みつけた。
「チッ、雑魚がいきがんなよ。ボコボコにすんぞ!」
そう言うと、佐久間は「シュッシュッ」とシャドーの素振りをする。
頭に血が上りそうになるが、熱くなるな、と自分に言い聞かせる。
それでも体は正直で激しく拳を握り込んでいた。
その一連の動作に、隣の悠月先輩は心配そうな表情で俺の事を見つめていた。
「あら、ふふっ、この感じだと
「あん?」
「ふふふ」
「ところで雑魚っ、写真は見たのかよ?」
「あの合成……」
「佐久間!あんた何が目的なの?」
俺が話始めようとした時、隣で聞こえて来た大きな声に驚いて先輩の方を見る。
……悠月先輩?
「佐久間!」
「悠月が……」
「私が何?」
「そいつばっかり……」
「だから、何?はっきり言いなさいよ!」
ビリビリと音楽室の空気が変わる。
悠月先輩の迫力に、さっきまでの佐久間の威勢の良さも鳴りを潜めた。
「ふふふ、友也君は悠月ちゃんにまた遊んで貰いたかったのよね?」
「私は迷惑よ!」
「あらあら、お邪魔虫さんらしいわ」
「そいつと知り合う前は、お前も……」
「佐久間、黙って!」
「はい、今回は友也君の負け。悠月ちゃんに謝って。それに彼氏君もごめんなさいね〜」
「いえ……」
俺は……悠月先輩の態度に驚きながらも、申し訳無さそうにする藤間先輩を見ながら首を振った。
「ほらほら、友也君。もう気が済んだでしょ?行きましょう」
「チッ、覚えてろ!俺は諦めないからな!」
三流の悪役並みの捨て台詞を残して、佐久間は第二音楽室を出て行った。
……途中から何の話し合いか分からなくなったけど。
多分……
佐久間の話や悠月先輩の態度、藤間先輩の言葉から、佐久間と悠月先輩の関係は黒なのだろう。
それも脅されたとかではなくて、合意の上なのか……凹むな……
そう思いながら、悠月先輩を見ると暗い表情のまま俯いていた。
はぁ……仕方ないな……
「俺、気にしてませんから」
「えっ?」
「大丈夫ですから」
「……嘘よ」
「…………」
「私に幻滅したでしょ?」
俺は、首を左右に振る。
「無理矢理ではないんですよね?」
「うん……」
「それならよかったです」
「えっ……」
「悠月先輩が怖い思いをしてなくて」
俺の言葉に反応して、見開いた瞳から涙が溢れた。
俺は……
いつもスポーツタオルしか常備していないので、その涙を指先で拭う。
それからしばらくして、悠月先輩は佐久間との事を俺に話してくれたのだった。
◆
その日の夜。
ジム内のベンチプレスに座りながら、
フレアの付いた白いシャツに、デニムのショートパンツ。
すらりと伸びた手足にジムの面々は釘付けになっていた。
絹ちゃんにしてはラフな格好だが、俺の急なヘルプ要請に応えてくれたのだから感謝しかない。
「で、許したのか?」
「……佐久間との関係は付き合う前だったから」
無意識にサンドバッグを打つパンチに力が入る。
「そんな話を信じるのか?」
「……半分は」
「お人好しめ……」
「気にしていない。そう言ったから」
「…………」
「絹ちゃん?」
「……バカには付き合ってられんな」
「バカかな?」
「バカじゃなければ、アホだな」
「うっ……」
「まあ、深瀬がそれでいいなら仕方ないけどな」
「悠月先輩はさ……」
「…………」
「俺なんかに告白してくれた人だから、先輩の事を信じてみたいのかも」
「ふーん。まっ、二度は騙されないように気をつけろ。じゃあ、私はもう行く」
「絹ちゃん!」
「何だ?」
「話を聞いてくれてありがとう!めちゃくちゃ気が楽になった」
「ん」
軽く相槌を打つと、絹ちゃんは手を振りながらジムを出て行った。
その後「遥!
そのスパーリングの様子を……
「あら〜あれって悠月ちゃんの彼氏君じゃない?」
偶然、藤間先輩に見られていて、まさかあんな事になるなんて、その時の俺は思いもしなかった……
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