クラスメイト

 春の嵐。

 別名、メイストーム。

 

 五月の雨は気性が荒く、雨の匂いが教室まで立ち込めていた。

 雨の日は屋上が閉鎖される為、待ち合わせ場所が変更になった事を悠月先輩に連絡してスマホを閉じた。

 現在、HR中の教室では、担任の黒沼先生が明日の球技大会に向けての注意事項を読み上げている。

 ……雨天の場合はバスケとバレーボールだけなのか。

 他の野球とサッカー組はクラスの応援をするか、教室で自習になるらしい。

 明日の降水確率は80%。

 このまま雨だと、野球に出る俺は暇確だな、と頬杖をつきながら思っていた。

 

「何か質問はあるか?」

「先生、質問ではないのですが……」

 

 真夏の太陽のような明るい声が教室に響いた。


「俺からクラスのみんなに提案があるんです」

「わかった。戸村、話していいぞ」

「ありがとうございます!みんな!今回の球技大会、Aクラスの親睦を深める意味でも、野球とサッカー組は全員参加で応援に行かないか?」


 そう言って、爽やかに笑うこのイケメンは戸村大地トムラダイチ

 このクラスの中心人物の一人で、そう陽キャと呼ばれる人達の筆頭格だ。

 バスケ部所属で背がすらりと高く、清涼感に溢れている黒髪イケメンだ。

 

「えっー!体育館、蒸し暑いしダルいじゃん。美雨ミウ、トム君と教室にいたいかも〜」

「美雨、そう言わずにさ」


 舌足らずで、甘い綿菓子のような声を出しているのは春川美雨ハルカワミウ

 こちらは陽キャグループの女子筆頭格だ。

 やや赤みがかった髪をツインテールにしている。

 ダンス部に所属していて、今年の一年生の中では断トツに可愛いと言われている。


「てゆーか、バスケって、何気にメンバー揃ってない?だから美雨、応援いこーよー」

「そうなの嵐ちゃん?」


 次に話し始めたのは久遠嵐クドウアラシ

 こちらも陽キャグループの一人で、春川さんとは幼馴染らしい。

 クリーム色に近い茶色のセミロング。

 スレンダーでかなりオシャレだ。

 目は垂れていて、優しそうに見えるが極○空手の有段者らしい。

 人は見かけに寄らないを地で行く人だ。

 

 ……春川さん、久遠さん、そして絹ちゃん。

 Aクラスには学年の三大美人が集まっていた。


「バスケ期待大っしょ!」

「俺らのクラス、まさか一位狙えるんじゃね」

「あるある」

「みんなで行こうよ」

「いいじゃん!」

「楽しみ!」


 戸村君達の影響か、他のクラスメイトも盛り上がり始めた。

 黒沼先生も「一位だったらジュース奢ってやるぞ」とか言ってるし。

 Aクラス全体でやる気になっている。

 しかし……

 俺も応援に行かないといけないのだろうか?

 知り合い、皆無。

 当然、ボッチの俺は一人で憂鬱になるのだった。

 はぁ……みんなが盛り上がっている中、いそいそと帰り支度を始める。

 すると、コトリと机の上に消しゴムが置かれた。


「志倉さんから」

「ありがとう」


 隣の席の村正ムラマサ君から伝言を受け取り、消しゴムに挟まっている紙を開く。


『私はバレーに出るから、暇なら応援に来てくれると嬉しい』


 神……


 絹ちゃん、バレーだったのか。

 こうして、俺は絹ちゃんのおかげで明日が楽しみになるのだった。


 でも……

 まずは悠月先輩の問題を片付けないと。

 そう改めて気を引き締めるのだった。



 ◆


 改稿……メイストームでした。

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