009.船内探検隊帰還せり~無重力体験(ガチ)~
まえがき
いつもありがとうございます。
生きてる間に一度は宇宙に行ってみたいですねぇ……まだまだでしょうけれど。
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「つ……疲れた……」
フラフラと自室のベッドまでたどり着いたオレは、倒れ込むようにしてその柔らかさの上に身を投げだした。
オレの軽い体重を受けて心地よい反発力を感じることに、この上なく安心する。
「ふふっ、お疲れ様です、マスター」
シラユキはベッドの端に座ってそんなオレの様子を微笑ましそうに見ていた。
「ぅぅ、シラユキぃ……膝貸して……」
「はいマスター、喜んで」
オレはベッドの上をもぞもぞとゾンビのように這ってシラユキのもとまでたどり着き、しっとり柔らかで枕としても極上なその膝の上に頭を乗せ、愛しの嫁の顔を見上げた。
顔を見上げると自然と視界に入るシラユキのおっぱいは、重力を受けて僅かに下を向いている気がした。
「あぁ……癒される……。重力のありがたさを感じるぜ……」
「このお部屋は常に重力制御を行うようにしていますので、ご安心ください」
「頼むから制御を切らないでくれよぉ……」
「ふふっ、かしこまりました」
「はぁ……」
弱りきったオレを見て微笑みながら前髪を撫でてくれる手が心地よくて、オレは自然と目を閉じていた。
*****
『シラユキの身体の中を探検だっ!』なんてイキってたオレがこんなになっているのは、オレが色々とナメていた結果だから自業自得なんだけれど……。
シラユキの話を聞いて『中型艦』でも十分デカいのは理解してたが、実際にあちこち行こうとするととんでもない広さであることが分かった。
案内自体はシラユキがしてくれたのだが……まさか一周してくるだけで丸々半日かかるとは思わなかったぜ……。
確かにこの広さの船をたった2人で運用しようなんてのはムリな話だ。
今のオレの身体は肉体的な疲労とは無縁のようだが、精神的な疲労は別らしい。
時間がかかった原因の一部もオレにあって……とにかく移動が大変だった。
まず意気揚々とブリッジを出た瞬間に、オレは宙に放り出された。
そう、ここは宇宙。
省エネのために通路は重力制御が行われていなかったとのことで、ブリッジを一歩出ればそこは無重力空間。
カッコ悪いことこの上ないが、その時のオレにはワケが分からずパニックになりかけ、空中をジタバタもがくだけの哀れな男の娘に成り下がっていたことだろう。
そんなオレに対してシラユキは器用に壁を蹴って、暴れるオレを抱きとめて『大丈夫』だとまるで母親のようにあやしてくれていた。
妙に安心してその胸で半べそをかいてしまったのは、この宇宙でのオレの最初の黒歴史かもしれない。
そうして落ち着いた頃、身をもってここが宇宙であることを思い知ったオレは、シラユキの指導のもとで無重力空間での移動の仕方というのを教わった……のだが。
床や壁を蹴る力加減を間違えてはすっ飛んでピンボールのようにあちこちぶつけまわり、逆に力が足りずに宙でもがきスカートがめくれ上がって、それはもうあのシラユキの笑顔が引きつりそうになるほどの無様を晒してしまった。
オレ自身、運動神経が悪いというわけではないが……宇宙は勝手が違いすぎる。
最終的にはなんとか思った方向へ移動できるようにはなったものの、シラユキと比べれば赤ちゃんのハイハイレベルの拙さだったことだろう。
それじゃあ案内どころではないので、結局は通路にも重力制御をオンにしてもらって普通に歩いて回ることになった……のだが。
それはそれで時間がかかりすぎるので何かないのかという話になり、次に教えてもらったのが無重力化での船内移動手段……トラムだった。
宇宙世紀なロボットアニメの戦艦の中とかでよく出てきた、壁に移動する持ち手があるアレだ。
『何だ便利なものがあるんじゃ―ん』とホッとしたのもつかの間。
トラムを掴んだ状態で恐る恐る重力制御をカットしてもらって、トラムへ向けて脳内から移動の命令を出した瞬間……オレはジェットコースターよりも恐ろしいものを体験することになった。
考えても見てほしい。
無重力下で唯一掴んでいるトラムの持ち手が、それはもうものすごい勢いで移動するのだ。
ジェットコースターと違って座る椅子も身体を固定するベルトもなく、姿勢制御なんて意識する間もなかったオレは鉄棒にぶら下がったような状態で見知らぬ場所に連れ去られることになった。
しかも船内の通路は一本道というわけではなく、複雑に入り組んでいる。
目的の場所に行こうと思うと電車の『乗り継ぎ』のように途中で減速した上で別のトラムを掴む必要があるが、そんな余裕がなかったオレは1本1本のトラムの終着点で慣性の暴力によって見事に真っ直ぐすっ飛んだ。
頑丈になっているこの身体じゃなければその時点で骨の一本や二本は折れていただろう……というか心はもう折れそうだった。
しかし、またシラユキの胸に顔を埋めながらオレは考えた。
既に手遅れな気はしたが、嫁であるシラユキの前でこれ以上無様を晒したくないという無駄に高い自尊心が、最終的にある閃きをもたらしてくれた。
それはもう某新人類のように光が奔るかのような天才的な……というよりも原初的な閃きだ。
船内を上手く歩けないなら、飛んじゃえばいいじゃない、と。
この宇宙にはれっきとした技術をもとにしたフ●ースのような力がある。
これまでは家具とかシラユキの身体とかにしか使ってなかったが、もちろん自分自身にも使えるのだ……と気づいて、推進力もないのに無重力空間を飛び回るという力技で解決したのだ。
それからは快適なもんで、どうしてみんなこうしないんだと聞いたら『大型端末もなしに生身でこれほどの規模のMIM制御を自由に行うなんてマスターにしかできないことです』と言われてしまった。
シラユキ的には褒めてくれているようだったが……なんだか脳筋と言われた気分だった。
何はともあれ、移動の問題を解決したオレたちはそのままシラユキの案内で船内を見て回った。
見て回った結果としては……『すぅんごい』としか言いようがなかったな。
居住区にはタワーマンションなんて目じゃないほど多くの個室があり、多目的ホールのような吹き抜けになっている大きなスペースがいくつかあった。
今は誰もいないから寂しいものだったが……各部屋や共用スペースには通常仕様のMCがあって、将来的に家具や設備を整えれば1,000人だって暮らせそうなところだった。
左舷後方の格納庫はテンションが上った。
まんま、変形する時空要塞な船や人形機動兵器を扱う戦艦の格納庫のような雰囲気だったからだ。
今は収まるべき戦闘機や人型兵器などは無いからスッキリしたものだったが、人間の何倍もあるバカでかいドローンのお化けみたいなのがいくつもあって、シラユキによればちょっとした船外作業を行ったりする多目的ドローンらしい。
いつか動かしてみたいものだ。
右舷後方の格納庫はただデカいだけの空間を想像してたがそんなことはなく、保管する物別にいくつか区画分けがされていた。
明らかにヤバいものを隔離するための倉庫みたいなのもあって……シラユキが放射能除去のための場所だと教えてくれた。
そういえば……宇宙空間は『放射能ヤバい空間』でもあるんだったっけ。かじったくらいの知識だが。
そして最後に興味津々で入った機関部は……よくわからなかった。
こんなデカい船を動かすほどのエンジンやエネルギー発生装置やワープ制御装置なんてまったく未知のものを見られると思っていたのだが……当然と言えば当然だが装置がむき出しになっているわけでもなく。
メンテナンスをするわけでもないのに入れる場所には限りがあるらしい。
『み、見ますか……?』とシラユキはなぜか恥ずかしがっていたが。
うん、生身のシラユキのソコなら興味ありまくりだが、さすがにガチの機械を見て興奮する性癖をオレは持ち合わせていないからな。
*****
「んっ……ぁっ……あ、あの……んぅっ……マスター……?」
……あ、しまった。
オレがここ半日のことを思い返している間、ずっとシラユキの太ももを撫でていたらしい。
頬を紅潮させたシラユキが思わずピクリと身体を震わせて、オレはようやく我に返った。
「ん……? ああすまん、無意識だった……触り心地が良くてつい、な」
おかげでずいぶんと精神的な疲労が回復した気がする。
「はぁ……やっぱりシラユキはオレの癒やしだ」
「ぁぅ、んぁっ……! そ、その……お疲れのマスターを私が癒やして差し上げられるなら……ぁっ……いくらでも、触れてください……」
普通、こんなセクハラされたら小言の1つでも言っても良いと思うが……やはりオレにとってよく出来た嫁だ……。
そんな事を言われては、するしかないっしょ!
「……なぁシラユキ、全身メンテナンス……するか?」
「んぁっ……ぁっ……はぁっ……は、はいマスター……」
太ももから手を離してその熱くなった頬に手を添えれば、シラユキも察してくれたのか赤くなりながらも肯いてくれた。
「よし……特に機関部は念入りにメンテナンスしてやるからな」
「も、もぅマスター……! で、ではそうですね……私は、マスターの心のメンテナンスをさせていただきます……♡」
「ああ、たっぷりしてくれ……!」
……結局、半日ちょっとの間は頭の中がピンクになることを避けられたが、1日の終わりにはたっぷりしっぽりとシラユキとイチャイチャして過ごすのだった。
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あとがき
お読みいただき、ありがとうございます。
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ファンタジー世界を舞台にTS主人公が女学院で繰り広げる恋愛話もしっかりめのイチャラブも連載中ですので、合わせてお読みいただけると大変嬉しいです。
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https://kakuyomu.jp/works/16817139554967139368
次回、「レッツ・嫁イキング~2人目の嫁・ユミネ~」
9月22日(木)更新予定です。
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