第89話 ex. 学園の七不思議
俺が今いるのは真夜中の学園の廊下。
人は俺たち以外におらず、奥はひたすらに暗闇が続いている。
「日向くん・・・やっぱり帰ろうよ」
横には怖がって俺に抱きついている流星。
「俺だって帰りたいって・・・なんでこんなことになったんだ・・・」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それはある日の昼休み。
「大ニュースだぁぁぁ!」
そう言って英田が教室に飛び込んできた。
「なんだよ騒がしいな」
俺は流星と仙撃、尾藤、重山たちと昼飯を食っていた。
「聞いてくれ!」
英田が俺たちに近寄れ、とジェスチャーをする。
よくわからないが耳を寄せる。
「・・・七不思議だ!」
英田がぼそっと呟いた。
「はい?七不思議?」
何を言ってんだこいつは。
「七不思議ってよくある学校の怖い話だよね?」
流星が言う。
「そう!実はこの学園にもあるんだよ!」
「そんなの誰が信じるんだよ」
確かに。
そもそも俺たちが超自然的な存在なんだから。
「本当か!?」
純粋な仙撃が、心底驚いた声を上げる。
「そうなんだよ仙撃!信じてくれるか!」
「もちろん!これは大ニュースだ!」
ダメだこりゃ。
「七不思議は音楽室のピアノが鳴るとか階段が一段増えるとかなんだが、一つだけ気になるのがあるんだよ。それは・・・”図書室に出る美少女”って七不思議なんだ」
美少女?ちょっと気になるな。
それは他のメンバーも同じで、先ほどよりも耳を傾けている。
美少女というフレーズに釣られたバカな男たち。
「お、みんな気になり始めたな?その美少女ってのは金髪で、まるで天使みたいな可愛さらしいぞ!」
途端、全員がニヤニヤし始める。
「それって人間なのか?幽霊なのか?」「どっちでもいいだろ!可愛いんだから!」
男たちの下世話な話が始まる。
「ということで誰か確認に行ってくれ!」
え、行ってくれ?
英田、そう言ったよな?
「おい英田、行ってくれってどういうことだよ」
「いや・・・怖いじゃん。だから誰か確認してきて欲しいなー・・・って思って」
なんて人任せなやつだ。
「頼む鳴神!お前がまずは確認してきてくれ!」
「やだよ怖いし!尾藤と重山が行ってこい!」
「や、やだね!」「やめろ鳴神!」
指名した2人から攻撃を受ける。
「じゃあ仙撃が行けよ!」
尾藤が言う。
「俺は・・・用事があるからダメだ」
「嘘つくな!・・・じゃあ白川!」
「え!?僕は無理だよ〜」
誰が行くかの議論が始まる。
みんな行くのが嫌で譲らない。
「じゃあジャンケンで決めよう!」
英田が言う。
「よーしわかった!これで文句は言うなよ!せーの!」
掛け声とともにジャンケンが始まる。
結果は・・・
「なんでだよ!」
俺と流星の負けだった。
「最悪だ・・・」
流星の絶望の声が聞こえる。
「よし!じゃあ2人は今日の夜に確認してきてくれ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
時は戻り、
真夜中の学園の廊下。
「俺だって帰りたいよ・・・なんでこんなことになったんだ・・・」
2人でぴったりくっつきながら暗い廊下を進んでいく。
目的地は図書室。
七不思議によると図書室に金髪の可愛い天使が現れるらしい。
「ほんとにいるのかな?僕、怖いよ・・・別にその可愛い子に会いたいわけじゃないし・・・」
「まあ、行くだけ行ってみようぜ」
流星の言う通り、もう美少女はいいから帰りたい。
美少女に会いたい欲よりも、恐怖の方が勝っている。
その時、前の方でガタンッ!と音が聞こえた。
「わぁぁぁ!」
瞬間、流星が大きな叫び声をあげて廊下を戻っていった。
”速度変化”の能力を使ったのか、ものすごいスピードで走り去り、もう見えなくなった。
「え、まさか俺取り残されたの?」
静まり返った廊下にポツンと残される。
音の正体はなぜか廊下にあったほうきが倒れただけだった。
俺も流星の後を追って走り出そうと思ったが、
ここで帰っても英田たちに話すことがない。
それに怖気付いたってバカにされるだけだ。
嫌だが、とにかく確認だけしに行くか。
どうせ誰かの作り話だろうし。
さっさと終わらせて帰ろう。
半ば開き直った状態で暗い廊下を歩いていく。
ペタペタと歩く音が寂しく響く。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
図書室に到着する。
「ここにいるんだよな・・・」
図書館の扉をそーっと開ける。
キョロキョロと辺りを見渡すが、美少女はおろか、人の気配がない。
「やっぱりいねーじゃねーか!」
小さくそう呟いて帰ろうとした時、
図書室の中から風の流れを感じた。
もしかして窓でも空いてるのか?
なんとなく気になった俺は、図書室の中を風を感じる方に進んで行った。
本棚に挟まれた通路を歩いていく。
風と共に微かに感じる本の匂い。
気配を感じてピタッと立ち止まる。
この先に誰かいる。
王様ゴール、縦割りサバイバルで数多の能力者と対峙してきた経験から感じることがある。
奥にいるのはA組の強力な能力者だ。
良く考えれば、七不思議の美少女なんて言葉に踊らされていたが、
正体は能力者で、襲われる可能性なんて十分にある。
それにここは人のいない真夜中の図書室だ。
さっきまでの心霊的な恐怖から、
強者に感じる恐怖へと変化していく。
このまま帰るか?
今ならまだこの先の能力者にバレずに引き返せる。
英田たちには適当な理由をつければいい。
ちょっと待て、この先にいるのが強力な能力者だったら、
もう俺の存在に気づいているんじゃないか?
じゃあここでどうするかチンタラ考えてるのもやばいんじゃないか?
「さっきから誰よ。そんなに襲って来るオーラを出して」
向こうから話しかけられる。
やっぱりバレてたか、なら仕方ねぇ!
すぐにでもエネルギー砲を放てるように手を前に構え、
身を低くして本棚の影から一気に飛び出す。
どんな能力がきてもいいように身構えたが飛び出した先にいたのは、
窓に腰掛け手に本を持ち、月明かりに照らされ優雅にこちらを見ているA組の天使翼だった。
「天使!?」
戦闘体制から一気に脱力して元に戻る。
「七不思議の正体はお前だったのかよ」
「・・・いきなり来て何の話よ」
まあ確かに美少女で金髪の天使だけど。
「お前、ここで何してるんだよ」
「夜中、たまにここに来て本を読んでるのよ。静かで落ち着くの」
天使は本をパラパラとめくった。
暗い図書室の中、開いた窓に腰掛け、月の明かりを頼りに本を読んでいる。
「へー、なかなか粋なことしてるんだな」
「あんたは何をしにきたのよ」
七不思議のことは説明したらバカにされそうだから言うのはやめておこう。
「別に。俺も本を読みに来たんだよ」
「こんな夜中に?それもあんなに敵意剥き出しで?」
「いや、お前もだろ」
「それはそうね」
静かな図書館に互いの小さな笑い声が響く。
あれ、こいつってこんなに可愛かったっけ?雰囲気の効果か?
月に照らされて輝く金髪が綺麗で見惚れてしまう。
天使から先ほどのような強いオーラは全く感じられず、
逆に俺を優しく包み込むような雰囲気を醸し出している。
「じゃあ、私は帰るわ。いいところまで読み終わったし」
天使はそう言うと背中から美しい白い翼を出して飛んで行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日の昼休み。
「どうだった!?美少女はいたのか!?」
英田を先頭に詰め寄って来る。
「いや、図書室には誰もいなかったよ」
「まあそうだよなー、美少女なんているわけないもんなー」
みんな残念そうにしている。
天使が夜中の図書室で本を読んでいるのは俺だけが知っている特別な秘密にしておくことにした。
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