第86話 ex. 学長室
中間試験の縦割りサバイバルが終わった。
激動の6日間を終え、
やっと平和な学生生活が戻ってくると思ったが、
待ち構えていたのは筆記テストだった。
中間試験は「実技試験(縦割りサバイバル)+筆記試験」で構成されており、
まだ前半戦が終わっただけだった。
縦割りサバイバルが終わって筆記試験までは体を休めるのと勉強のために数日の猶予があり、
授業中寝てばかりだった俺はこの数日集中して勉強していた。
放課後も流星と神藤さんと街のファミレスで勉強会を開いていた。
そんな時の帰りのHRの時間。
今日も流星と神藤さんと勉強会の予定があり教室から出ようとすると、
「鳴神、ちょっと待て」
担任の三田寺先生に呼び止められた。
「え、なんですか?」
「お前に呼び出しがかかってる。一緒に来い」
「呼び出し?・・・俺何か悪いことしました?」
学園に入学してからの過去を振り返るが、
思い当たる節はない。
「とにかく行くぞ」
三田寺先生が教室を出てスタスタ歩いていく。
「ちょ、ちょっと!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
連れてこられたのは学長室だった。
プレートに印字してある学長室の3文字がとてつもない威圧を放っている。
「学長室?」
俺の戸惑いなど気にせずに三田寺先生が学長室のドアをノックする。
するとすぐに中から、
「はーい!」
と可愛い声が聞こえてきた。
そういえば学長って小さい男の子だったよな。
入学式の日の能力面談の時に会ったことを思い出す。
「失礼しまーす」
三田寺先生の気だるそうな声とともに学長室のドアが開かれる。
中に入ると、対面に設置してあるソファーにちょこんと学長が座っていた。
「よく来たね!」
「あ、はい」
本当に小さい男の子なんだな。
背丈も中間試験で同じチームだったしずくちゃんと変わらないぐらいだ。
「ごめんね散らかってて!」
学長が申し訳なさそうに言う。
見渡すと壁にはよく分からない絵が飾られていて、
反対側の本棚には分厚い本がびっしり敷き詰めてあった。
そして学長が座っているソファーの裏にはガラクタに見えるものが乱雑に置いてあった。
すると三田寺先生が無言で学長の前のソファーを指差した。
座れ、ということだろうか。
「し、失礼します」
学長の目の前のソファーに着席する。
学長は俺をニコニコとした笑顔で見つめている。
怒られると思っていたが、学長からそんな雰囲気は一切感じられない。
「あのー、今日はどういう?」
学長と三田寺先生の顔を交互に見つめる。
「今回、お前を呼び出したのは中間試験の縦割りサバイバルについてのことだ」
三田寺先生が説明する。
「心当たりないか?」
「え・・・」
心当たり?
中間試験で何か悪いことしたっけ。
縦割りサバイバルでの出来事を思い出す。
「いや、特に思い当たることは・・・」
「縦割りサバイバル3日目、お前たちのチームは丑影村付近の森で他のチームに遭遇した」
三田寺先生が説明を始める。
ミツカミサキに襲われている声が聞こえて助けに行ったことか。
「その時、お前らのチームの小鳥遊しずくが相手チームの”呪詛”の能力で呪いをかけられたな」
もちろん覚えてる。
腕輪と交換でミツカミサキに襲われてるそのチームを助けてやろうとしたら、
相手の一人が狂乱して、しずくちゃんが呪いにかけられた。
「それでお前、その呪いを解くために何をした?」
「え、何をしたって・・・あー」
三田寺先生が呆れたようにうなだれる。
「中間試験の架空世界を壊そうとしました・・・」
どうしてもしずくちゃんの呪いを解く方法がなくて、
最終的に中間試験の舞台である架空世界を壊して試験を強制的に終わらせようとした。
「今回呼び出したのはその件だ」
「あの、すみません・・・」
素直に謝る。
「まさか架空世界を壊そうとするなんて・・・こんなこと、前代未聞だぞ」
「す、すみません」
「もしこれが現実世界だったらどうするんだ」
確かに、今回は中間試験の架空世界という状況だったからなんとかなったが、
現実ならそのまましずくちゃんを死なせるしかなかった。
「現実なら誰も助けてくれないぞ。能力者は残忍で時には仲間を見捨てることだってある」
「まあまあ三田寺先生!」
三田寺先生が説教しようと思っているところを学長が止めた。
「大丈夫、気にしなくてもいいよ。でも厄介なことが一つあるんだ」
「え、なんですか?」
「実は、学園の先生で君の行動を問題視してる人もいてね。君を中間試験失格にするべきという意見が出てるんだ」
「えぇ!?」
嘘だろ!?中間試験失格!?
「ちょっと待ってください、失格は僕だけですか?それともチームの2人もですか?」
「うーん、それがなんとも言えないんだよね」
それを聞いて一気にテンションが下がる。
俺だけならまだいいが、國咲としずくちゃんには迷惑をかけたくない。
あまりのショックにソファーから崩れ落ちそうになる。
あんなに頑張ったのに・・・
「まあそんなに落ち込まないで!」
「はい・・・」
「学長の僕からすると、君の行動は許容範囲だと思うんだ!だから安心して!僕が否定派の先生たちは説得しておくよ!」
優しいっ!
なんとかなりそうだ・・・
「そんなことより、”擬似覚醒状態”の君とミツカミサキの戦闘の方が僕は賞賛すべきだと思うんだ!」
学長が前のめりになって目を輝かせている。
俺とは対照的に学長のテンションが一気にぶち上がった。
「あれはすごかったね!いくら腕輪の力を借りただけで、本来の”覚醒”ではないにしても、君の能力の可能性には驚いたよ!」
「え、そんなー!ありがとうございます」
中間試験が失格になりかけたことなど忘れ、
褒められたことに大喜びする。
「そこで相談なんだけど、良かったら君をA組に入れてあげようかなと思うんだ!」
学長がまさかの一言を言った。
「学長!それは・・・」
三田寺先生が止めに入る。
「君、王様ゴールのMVPに選ばれたにも関わらず、それを辞退したらしいね。先生たちの間でも話題になってるよ」
やっぱり学園の先生たちの耳にはそのことが入ってるのか。
「なんでも、C組全員で上のクラスにあがりたいから、らしいね。これは本当?」
さっきまでのおちゃらけた学長ではなく、
まるで俺を吟味するような目つきに変わった。
「はい」
「・・・そうか。じゃあさっきのA組に入れてあげるっていう僕の提案にはどう答える?」
「申し訳ないですけど、断ります」
「ふーん。何度も質問して申し訳ないけど、C組全員で本当に上のクラスに上がれると思ってるの?誰一人として欠けずに、誰一人として置いて行かずに」
学長は子供とは思えないほど俺に圧を与えている。
それに、これは核心に迫った質問だ。
嘘なんてつけないし、つくつもりもない。
「もちろん、誰一人欠けずC組35人全員で上のクラスにあがるつもりです。その実力と可能性が、C組のみんなにはあると思っています」
一瞬の静寂が流れる。
もしかして怒らせてしまったか?
「あはは!面白いね!」
学長が笑い出す。
「そこまで言うならやってみるといい。能力は可能性に満ち溢れている。君の体験した”覚醒”のようにね」
能力は可能性に満ち溢れている。
それは王様ゴールと縦割りサバイバルで俺が一番感じた。
「行くぞ、鳴神」
三田寺先生が催促する。
立ち上がって学長室を後にする。
学長室を出る瞬間、
学長に呼び止められた。
「楽しみにしているよ、鳴神日向くん」
その声は小さな男の子の声ではなく、
青年の男性の声だった。
「ん?・・・いや、気のせいか」
学長との対話により、
俺の決意はより強固なものとなった気がした。
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