第85話 試験終了


 意識のない世界で、

中間試験の縦割りサバイバルの思い出が蘇る。


 最初はいきなり砂漠から始まって、

3人ともまだ仲良くない中で永遠に続く砂漠を歩き続け、

挙げ句の果てにサソリに襲われた。


 それから敵チームと遭遇して腕輪を奪い合ったり、

騙されてしずくちゃんが呪いにかけられたり、

盗賊団と戦ったりした。


 そして最後はミツカミサキと戦って勝利した。

思い返すと楽しかったな。


 気づくと、何か拍手のようなものが聞こえる。

その音につられて意識が戻り、目を開けるとそこはスタートした闘技場だった。



「寅ノ四チーム、見事中間試験クリアだ!」



目の前では学園の先生たちが並んで拍手をしている。



「俺たち、戻ってきたみたいだな」


「どうやらそのようですね」


「せんせいたちありがとー!」



一人の先生が歩いてくる。



「お疲れ様。あそこで集めた3つの腕輪を渡してくれ、それで中間試験は終了だ」



 先生が指差す方ではクリアして帰還した生徒がおり、腕輪の回収が行われていた。

言われた通り歩いていき、腕輪を渡す。



「中間試験は終了です、お疲れ様でした。帰還者の点呼をしますので、各自担任の先生の所へ向かってください」



ついに終わったのか。



「・・・終わってしまいましたね」


「ああ、そうだな」



 どこか名残惜しい。

既にこの3人での冒険が恋しくなっていた。

それは俺以外の2人も同じように思っているだろう。



「それじゃあさよならです!」



俺たちに背中を向けたまま國咲が言った。



「おう、さよならだな」


「またね、みく!」



さよならと切り出した國咲はなかなかこの場を離れない。



「何か困ったことがあったら、あなたたちを頼ってもいいですか?」


「もちろん、いつでも俺が助けに行ってやるよ」


「・・・それが聞けてよかった」



國咲が振り向く。



「それと、あなたならきっとC組から這い上がれますよ。あなたは今まで出会ったどの能力者より強い精神力、周囲を巻き込む力、そしてどんなことでも成し遂げてしまう力があります」



國咲の言葉が強く胸に突き刺さる。



「ありがとな。次会った時はもっとすげぇ能力者になってるからな!」


「ふふっ!期待してます」



 國咲は能力者なんて関係ない、ただの女の子の笑顔を最後に見せてくれた。

そして國咲は群衆に消えていった。

しずくちゃんとその場に残される。



「ひゅうがともお別れだね・・・寂しいな」



しずくちゃんがうなだれている。



「俺も寂しいよ・・・でも同じ学園だしまた会えるって」



優しく頭を撫でてあげる。



「・・・うん!そうだね!」


「おーい!しずくちゃーん!」



 どこかからしずくちゃんを呼ぶ声が聞こえる。

見ると、しずくちゃんと同じような背丈の子達がこっちに手招きをしていた。

しずくちゃんの同級生の小頭部の子だろうか。



「あ、みんなだ!」


「元気でね、しずくちゃん!」


「うん!じゃあね!ひゅうが!」



 しずくちゃんはクラスメイトの方へ走っていった。

そして一人になってしまった。

寂しいな。



「おーい!日向くん!」「鳴神くん!」



どこかから懐かしい声が聞こえる。



「あー!流星!神藤さん!」



 2人がこちらに向かって大きく手を振っている。

俺はすぐに駆け寄った。



「2人とも久しぶり!」


「うん!6日ぶりだね!」


「元気にしてた?」



 2人とも少し逞しくなったように感じる。

この中間試験で成長したんだろう。



「中間試験大丈夫だったか?無事にクリアできたんだな!」


「うん!私も白川くんもクリアできた!」


「僕も仲間のA組に助けられてばっかりだったけど、頑張ったよ!鳴神くんは?」


「いやー、めっちゃ楽しかった!俺のとこは未来を視れる女の子がいてさー」



 思い出話に花を咲かせる。

話は尽きることはなかった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



病室



「私、明日も生きてる?」


「・・・大丈夫だよ!」



 未来ちゃんの表情を見てすぐ理解した。 

あぁ、今日で最後か。


 私は明日死ぬんだ。

未来ちゃんが悲しそうな顔をしている。



「・・・じゃあ、行くね」



病室を出ていこうとする。



「未来ちゃん!」



私の声で未来ちゃんが立ち止まる。



「お願いがあるの。手、握ってもいい?」


「・・・いいけど」



 少しの間があり、

未来ちゃんがベッドに戻ってくる。


 未来ちゃんから差し出された、

少し震えた手を握る。



「誰かに触れるとね、安心するの。一人じゃないんだって。それは親子でも恋人でも友達でも同じだと思う。それって互いを思いやってるって証拠って気がするんだ。この想いは絶対消えないんだよ?たとえ何があってもね」



 未来ちゃんは何も言わなかった。

でも手を握っただけで気持ちは全て伝わってきた。

あぁ、未来ちゃんとの日常が永遠に続けばいいのにな。



「またね、未来ちゃん」


「・・・うん。またね」



 そう言って未来ちゃんは病室を出て行った。

私は幸せ者だ、こんなに大切な親友に出会えたんだから。





第二章 縦割りサバイバル編 完



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