〈気まぐれ猫〉出張営業は賑やかな予感。

〈気まぐれ猫〉再開とレオンさんのおつかい。

 摩訶不思議な出会い、と言えば良いのか、この羊モドキスライムの〈つき君〉となんやかんやで、共に過ごす事になってから3日目の今日。

 つき君はかなり現代日本に染まっているという事は、この数日間で理解出来ました。

 私の住んで居た地球に居ませんでした。もしかしたら、違う世界の中に私の知る地球と似た世界、並行世界みたいなものがあるのかも知れません。まぁ、あまり深く考えても答えなんて出てこないでしょうけど。


 今、1番重要な事は〈気まぐれ猫〉が営業出来ない事。屋台通りをそれなりに破壊された為、現状屋台出店は停止中。もう少し復興が進めば再開する予定だとレオンさんからは聞かされているものの。


「暇、ですね...」


 そう、暇を持て余してしまうのです。今し方勉強の終わったリズとステラ、つき君は中庭に遊びに行きました。ウルトラピンクの羊がいるので、かくれんぼ以外で遊ぶと思います。


 この3日間で何軒かの仕入れ先に顔を出しました。福さんの店も、音慈さんの制作所も。

 富士見堂で和菓子を大量に仕入れ、愛美さんの店から〈天使の祝福〉も仕入れ済み。その他にも久しぶりの仕入れ先にも顔を出す事も出来たので、有意義な時間ではあったのですが。

 因みに、仕入れ資金に関して。

 お断りしたのですが、どうしても受け取って貰わないと困るという事で、蜥蜴の売却益の10%を受け取る事になり、その金額に驚愕したものの、持っていて困る物でもないので仕入れ資金として使うことにしました。

 ぶっちゃけ、店舗、余裕で買えますが...。

 まぁ、もう少しの間は屋台で〈気まぐれ猫〉の営業を続ける予定ですけどね。


ーーコンコン。


『アキサメ、少し時間いいか?』


 のんびりと客室でスマホを使い読書をしていると、レオンさんが訪ねてきました。こういう時も人を使わず自分から足を運ぶのは、レオンさんらしいですね。もしかしたら、政務の休憩も兼ねているかもしれませんが。


「ええ。どうぞ、レオンさん」


 領主代行の仕事に追われて、すっかりお疲れの御様子のレオンさん。まぁ、初日から竜襲来というイベントスタートですから、まだ落ち着かないのでしょう。

 カチャ、と静かに扉が開きガルトラム領主代行様が若干憔悴した顔で入室してくる。


「寛いでいるところすまんな、アキサメ」

「いえ。お忙しいレオンさんには申し訳ありませんが、私自身は暇を持て余していましたので」

「屋台か...。修繕の目処もたってはきているがもう暫くはな。

 それでな、アキサメ。良かったら1つ使いを頼まれてはくれんか?」


 ほう。おつかい、ですか。時間もありますし退屈凌ぎにはもってこいかも?


「内容にもよりますが、どういった御用件でしょうか?」

「あぁ。たいした事ではないのだがな、エリスがそろそろ王都に一旦戻るらしい。それに途中まで同行して、王都の南に在る〈ヘケト〉の街に行って欲しいんだよ。その街に住んでる〈ガンドリック〉というドワーフの爺に儂の鎧の修理を頼みたいんだよ。

 ガンドの爺は腕は良いんだが、かなり偏屈な奴でな...。

 生半可な家臣共を使者に立てても門前払いなんだよ。いつも用事がある時は儂自身で行っておったのだが、今はガルトを離れる訳にはいかんしな。

 流石に家臣共から鎧を綺麗に修理しろだの、買い替えろだの言われてしまってなぁ。儂も気に入っているから修理して使いたいんだよ。

 ちょっと息抜きがてら旅行のつもりで行ってはくれんか?」


 王都の南、ですか...。

 勇者君達主人公達と鉢合わせは嫌ですねぇ。

 そんな事を考えていたら、レオンさんにはお見通しだったようで。


「因みに、ヘケトの街の周辺は大して魔物も強くないし、勇者達の訓練なら王都から北に行ったダンジョン都市に行くと思うから、会わないと思うぞ」

「それは、一安心ですね。う~ん...そうですね。旅行がてら行ってみましょうか、ヘケトに」

「お!頼まれてくれるか?」


 特に断る理由もありませんしね。それに...


「えぇ。ついでに計画していた移動販売もやってみようかと。〈気まぐれ猫〉の出張屋台、楽しみですね」

「...そんな事企んでたのか?どうする?馬車なら用意する予定だが...」


 ふふふ。こんな時の為に実はなんですよ、レオンさん。


「いえ、大丈夫です。足は自分で用意出来ますので」

「その大丈夫が、恐ろしく不安なのは儂だけじゃないはずだぞ、アキサメ。頼むから一度出発前に確認させてはくれんか?」

「えぇ、勿論ですよ、レオンさん。

 あ、そうだ。リズやルーチェはどうするのですか?連れて行くなら一緒に見せますが」

「そうだな。リズも色々あったから気晴らしは必要だろう。アキサメが一緒なら心配もいらんしな。ルーチェはサーシャに確認してみるか。この街から出た事も無いだろうから、都合が合えば連れて行ってやってくれ。

 あぁ、エリスも呼ぶか。アキサメ、1時間半後位に中庭で良いか?」

「分かりました、大丈夫です」

「おう、ではまた後でな」


 そう言って客室を出ていくレオンさん。

 私は、少しの悪戯心と好奇心で心を躍らせながら、ロイロに相談する為に扉を開く。


――〈転移扉〉


 さあ、ロイロと〈旅行のしおり〉でも作りましょうか。

 キャンプも楽しそうですねぇ。

 飯盒炊爨なんて久しぶりです。


 久しぶりと言えば、上手く出来ますかねぇ、


 。一応ゴールド免許ですよ、私。


 


 

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