須藤くんのOSS。

俺はいろいろ激らせた。

 俺はようやく最寄り駅である落陽駅まで辿り着いた。身体の重さは相変わらずだが、この間までの酷さじゃない。


 体調不良も落ち着き、熱も下がった。


 普通に歩ける。


 素晴らしい。


 だが色だけは戻ってこない。


 灰色の世界だ。


 音まで分かりづらい。


 これがもしかしたら清春が見ていた世界かも知れないな。


 は、あいつがいけたんだ。余裕だろ。



「おはよ、須藤くん。珍しいね、遅いの」


「ああ、おはよう…笹川さん。久しぶりだね。ちょっとね」



 こいつは確かB組だったか。セミロングで中の上くらいの顔。おっぱいはまあまあある。スタイルは京子寄りのギャル。確か金髪気味に染めてたはず。


 しかし、来る途中でも思っていたが、色がないと色気も何もないな…


 色気とは本当に良く言ったもんだ。


 決してブスじゃないのにな…いや、今まで美少女ばかりでたまにはこういう顔も悪くない。


 まあ少年誌とか漫画とかの白黒の世界の中に俺は居て、そこに出てくる人物に会った、くらいに思えばいいか。


 そう見れば…いやゾンビみたいだな。


 全部グレートーンだしな…


 会話すると違和感が半端ない。


 色の無い漫画は動かないから良いのか…初めて知った…清春はよくこんなの我慢できるな。


 狂ってんのか。

 いや狂ってたな、あいつ。



「ねね、須藤くんの彼女さん達って何で休みなの? って聞いていい?」


「…ああ、いいよ。みんな体調不良だってさ。俺も風邪で休んでたよ」


「…そうなの? ふーん」



 あの理不尽が去った日、あれから三日寝込んだ。


 そしてあいつらからパスも感じないし、チャットはついに全員沈黙。


 もしかしたら正気に戻ってんのかもな。


 ぎゃぁぁぁぁって狂ってんのかもな。


 はは。笑えるな。


 ま、あれだけ犯し倒したんだ。仕返しなんてしないだろ。


 それに清春に訴えても清春が拒否するだろ。俺だって嫌だぜ、そんな女。


 つまり結局、俺のところに戻ってくる。


 万が一の脅す材料、スマホ写真も俺の手元にはないしな。全部家のハードの中だ。クラウドにも上げてない。こういうブツは物理に限る。


 あんなの持ち歩くとか狂気か馬鹿だろう。まあ脅しにはなるが、ポリに言われたら一発アウトだ。


 俺はそんなリスク負わない。


 理不尽がいないから余計に神経質になる。



「ズバリできちゃったとか!」


「はは。俺たちまだ高校生だろ? 清い交際さ」



「そうなの〜? なーんだ」



 作るわけねーだろ。馬鹿かこいつ。


 しかし、いつもなら少しの会話から意図や裏が手に取るようにわかるのに、相手の望む答えが出てこない。


 ゾンビだからか?


 色がないとホラーだな。


 色って結構大事なんだな…正直勃起する気がしねぇ。


 乳首とかアソコとかどーなってんだ。


 エロマンガ風か?


 まあ、取り返すまでの辛抱だ。



「そういえばさ、立花くんって今フリーかな? 須藤くん親友って言ってたよね」


「ああ、親友だよ。幼馴染みたいな感じか。確か…今はいないな」



 なんだこいつ、清春をダシに俺の寝取り女達を荒らす気か? 面倒だから今は勘弁してくれって深読みし過ぎか。


 しかし、また清春にか…ほんとどうなってんだあいつ。



「そっかー。今隣の席でさー。なんか話してると楽しくって。ちょっと抜けてるとこが可愛いって言うか。けど元カノっていうか、須藤くんにみんな行くじゃない? なんでなんだろーって。須藤くんに言っても仕方ないんだろうけどさ」


「…清春、立花には悪いと思ってるよ。実は俺も不思議でさ。心の中では清春にいつも詫びてるよ。でもあんまり彼女達のことは詮索しないであげてよ。彼女達も辛いみたいだし…」



 んなわけあるか。心の中じゃもっとやれっていつも言ってんだ。しかし、こいつ明け透けだな…ああ、プロパガンダが効いてんのか。


 ったく、清春のどこが良いのか…美少女ばかり釣ってくんだよな、あいつ。


 …理不尽の力か…? 


 いや、そうだ絶対。


 じゃなきゃ俺がブスばっか告白されるとか有り得ないだろ。


 何回清春ぶん殴ろうと思っていたか。


 忌々しい。


 ん…? もしかして俺も今からそんなことさせられるとか…? 嫌過ぎるだろ。絶対殴ってやる。付き合ったその日に犯してやる。



「不思議か…そっか。あ、そうそう不思議と言えばさ、立花くん不思議な事言ってたよ」


「…不思議なこと?」


 

 それはあいつの性格とか存在だろ。何でかあいつキレないんだよな。昔から。今理不尽がいないからか、不思議というか不気味で仕方ない。


 狂ってんのか。

 いや、狂ってたな、あいつ。



「なんかねー、元カノ…ってごめんね? 須藤くんの彼女のこと、全員忘れてたの」


「…忘れていた?」



「…あんまりにも思い出したくなかったのか、キョトンとしててさ。まったく嘘っぽくないの…記憶喪失とかかな…ちょっと心配でさ…」


「……!」



 ああ、そういう…はは。ははは。はっはー。そういう事か!



『──これだけの恋の記憶なら渡る力になったかな──』

 


 清春の記憶を食ったのか!


 すげぇ理不尽だな! あいつの力と行いは!


 つーか、あいつら記憶とかどうなってんだ?


 正直自分で手一杯だったから気にかける事を後回しにしていたな…もしかしたらあいつらもか?


 いや、それなら沈黙しないか。


 なら…



「その顔、何か知ってるの…?」


「いや、何も…それは心配だね。ちょっと俺からも聞いてみるよ」



 そうだ…まずは一人ずつ…呼び出して……ああ! そうだそうだ!


 こんなおもしれーことは先にするに決まってんだろ!


 清春が覚えてないなんて信じない違う違うって言うかもしれねーしな!


 これは激ってきたぜ!

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