立花くんと好感度。

僕は左目を閉じた。

「昨日から、なんだろか。これ」



 僕は電車の中で首をかしげ独り言を呟いていた。


 朝から、いや昨日の夜、妹の頭の上に数字が見え出した。


 先にお風呂から出た僕は、どうしても我慢ならず、一緒に食べる約束をしていたアイスに手を出してしまった。


 怒られながらも卵アイスを吸ってしまっていた。


 その時、ばちんと頭の中に何かが響き、急に左目が疼いた。それも一瞬で収まり、妹の頭の上にカシャカシャと数字が現れた。


 呆気に取られた僕に心配して近づいてきた柚冬。


 手をバスタオルから退けた瞬間に彼女の真っ白な肢体が丸見えになった。


 ぺちゃんこのときから知っているから流石に欲情などは湧かないけど、それでも綺麗な形だった。


 卵アイスの先端みたいと言いそうになり、自重した。そもそもそんなに長くない。


 彼女は頬を染め、パタパタと浴室に走っていった。


 頭に数字を乗せたまま。



「これが、ヒットポイント…?」



 僕はあまりゲームに詳しくない。未海や妹が遊んでいるのを隣で見るのか好きだった。


 くのーとか、おりゃーとか。


 そう言う声を上げる彼女達を見るのか好きだった。


 確か勇者と魔王が出てくるゲームだった。



『この数字、何?』


『これ? んー、ひっとぽいんと』


『兄さん、体力です。なくなると死にます』


『死ぬ…』



 体力がなくなる。


 つまり数字が0になったら死ぬ。あの時そう聞かされた。


 数字といえばそんなモノしか連想できない。


 そのゲームの勇者は、なぜに死の淵にも関わらず元気に攻撃できるのか、誰も答えてくれなかったけど。



「そういうモノ。だったっけ」



 あんまり突っ込んじゃいけないんです。そういうモノなんです。昔そう答えていた妹の数字は089だった。


 だいたい電車内の人達は30くらいある。030と表示しているから、多分30。マックスが100なのか、999なのかはわからない。


 そして自分には数字が生えていない。


 鏡で見てもわからない。



「放課後…大島さんに相談するか…」


「おはよ、立花くん!」



「あ、おはよう〜」



 昇降口で上履きに履き替えていたら、クラスメイトや、元クラスメイトに朝の挨拶を次々とされる。声を掛けられたり、肩を叩かれたり、肘で押されたり。


 彼ら彼女らの体力?はおおよそ060。


 電車内の人達の倍だ。


 なら体力じゃないと思う。


 大島さんのいうような、これがえむぴーってやつだろうか。



 教室はもっと悲惨だった。


 何せ、全員に見える。白っぽい半透明の数字が生えてる。教室が閉まると矢印まで出てきた。


 その矢印は飛び交っていた。


 たまに2本伸びてるやつもいる。


 なんだこれ。


 超黒板が見えづらい。


 超邪魔。



「どしたの、立花。飛蚊症?」



 後ろの吉木君に声をかけられた。彼の数字は029だ。いつの間にか手で振り払おうとしていたらしい。


 それを見られていた。



「そんなところかな」


「嘘つけ。若いのに」



 まあ嘘だ。飛蚊症はだいたい今日みたいなピーカン照りだとあまり気にならない。


 そのかわり曇りの日は最悪だけど。

 

 そうだ、片目瞑ってみるか?


 消えた、見えた。見えた、見えた。



「何ウインクしてきてんだ。気持ち悪い。しかも何で両目できるんだよ。何の合図だ」


「ああ、ごめんごめん」



 彼を見ながら検証してしまった。


 どうやら左目を閉じれば大丈夫みたいだ。手術した右目じゃなかったか。不思議現象は右目にして欲しか……彼の数字が027になった。


 なんだろうか。


 減った。なら増えることもあるのだろうか。


 彼から出ている矢印を追うと、早川さんに行き着いた。小柄で清楚な感じの可愛い子だ。



「…何早川見てんだ。狙うなよ」


「そういうつもりじゃないんだけど…」



 何か、あっちの佐野くんと繋がってるんだよね、矢印。矢印間の真ん中の数字は22だ。


 もう、数字が嫌いになりそうだ。


 まあ、片目閉じればいいか。


「ほんと、なんなのこれ」



 

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