第41話 これにて撤収
城壁そばの地下出口から、吹き出す暴風とともに人影が高々と打ち上げられた。
「まさか……アニキ!?」
「……ふぅ。えらい目ぇ遭うたわ」
坊主頭に中肉中背の男。両腕を魔法の
男の背後で吹き荒れていた風は一点に
「シルフィード」
「Kisunery inytekoing.」
指差す先、崩れ残った柱の陰から、二人が重い足取りで姿を現す。
大きくて細長い頑丈そうな箱を背負ったライナーは埃まみれ、カミーユに至っては服まで破れ放題である。
「だ、大丈夫なの!?」
「ケガとかはないし、だいじょぶ……ってかあんまジロジロ見んな」
「ごっ、ごめん!」
「あ、ケンジじゃなくて……ってかケンジもだけど、後ろの黄色い奴!」
永定がびくりと肩を震わせた。
「そういう目ぇで見たんちゃうて! ちょっと
「ちょっと?」
「あ、いえ、ごっつ可愛らしです……」
「うむ。正直でよろしい」
「(何の確認なんだ……)けど無事でよかったよ」
「そっちもね。こっちは――そこのオッサンがおとなしくしてくれれば、もう少し早く駆けつけられたんだけど」
カミーユは坊主頭の男を横目にしかめっ面を作る。
ライナーが疲れ果てた顔で同意した。
「あちこちに罠を仕掛けながら逃げ回られましたからね。さすがは音に聞こえし〝咬豹鼠〟
「ガハハ! さすがに三対一はワシでもキツいわな。それからオッサンちゃうわ」
永年は呵々大笑しつつ目が少しも笑っていない。とはいえ、それで気圧されるライナーたちではない。
「これは連れが失礼を。さて、ミオさんとケンジ君には詳しい説明が必要ですね……烈士同士でのお話も含めて」
シルフィードの拘束を解かれた永年が進み出た。
「話も何も。兄さんらがお宝勝ち取ってメデタシメデタシでっしゃろ。あきまへんか?」
「まー、それはそうなんだけど……」
腑に落ちぬ面持ちのカミーユを見て、永年ははたと膝を打つ。
「素人はんら巻き込んでしもうたんは申し訳ない思てます。必要なら妹らには後できっちり詫び入れさせますさかいに」
「いえ、その点に関しては僕たちにも非があります。こちらで対処いたしますのでお構いなく」
ライナーが言い切るのを待ってましたとばかりに、
「ほうでっか。そらおおきに――っちゅうことで孟三兄弟、これにて撤収!」
長兄の指示が飛ぶや、姉弟が行動に移るまでは実に素早かった。
「えぇっ!? ほ、ほな……またな~」
「……さいなら」
「ガハハ! おつかれさん」
三兄弟は岩や灌木を軽々飛び越えて丘を駆け下り、あっという間に地平線の向こうまで見えなくなってしまった。
「……疲れた」
カミーユがぐったりとしゃがみ込む。ライナーも「はい……」とうなずきつつ、献慈たちの方へ向き直る。
「改めておふたりには謝罪します。我々のリサーチ不足によりほかの烈士の介入を許してしまったこと、並びに民間人である貴方がたの身を想定外の危険に晒してしまったこと、本当に申し訳ありませんでした」
「それについては……ホントごめん」
「Pitallekew.」
三人は揃って頭を下げた。
「いいですって、みんな無事だったんですから。ね? 澪姉」
「……目的のものは手に入ったんでしょ? 私は頼まれたとおりのことしただけだし、べつに気にしてないから」
澪の反応はどうにも芳しくない。
「ん? うん、そう言ってくれるとこっちも気が楽ではあるけど……」
カミーユは首をひねりつつ献慈に耳打ちしてくる。
「ミオ姉、何かあったの? ケンジにお尻触られたとか?」
「ばっ……そ、そんなことするわけないだろ! 多分……俺が出しゃばったせいでゴタゴタがあったから、それで怒ってるんじゃないかと……」
献慈は独断で永和を治療したことをカミーユに説明した。言うまでもなくオッペィレーションの件については伏せておいた。
「揉め事の種を取り除こうとしてくれたわけね。ケンジにしちゃ上出来だ。少しだけ見直したぞ、おぬし~」
「結局上手くいってないし……って、はぅっ!」
「心意気を買わんでどーするよ。遠慮せずもらっとけェ、オラァ~!」
「はわっ、脇腹はやめて……」
じゃれ合うカミーユと献慈をよそに、澪は話を進めようとしている。
「……それで、ライナーさんが持ってる箱が例の『
「ええ。どうにか孟兄弟から守りきることができました。せっかくですので開けてもらいましょう」
ライナーが地面に箱を置いた。カミーユの合図でシルフィードが鍵穴を探る。
「Here'e memessa ytegal. meby'i hyte...」
「罠はないみたい。んじゃ、開けてみよっか」
満を持してカミーユが箱の蓋に手をかけた。
* * *
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