第43話 俺たちも混ぜてよ
入り組んだ路地を抜けてゆくと、見知らぬ通りへ出た。
「お、おかしいな……店を出た方向がああだから、方角はこっちで合ってるわけで……」
「街中で迷子になったからって死にゃしないし、もっと落ち着きなよ」
カミーユと二人、
(迷った……完全に)
「うほ~、あれ大道芸っつーの? ちょっと見て行かね?」
好奇心のまま突き進むカミーユを追いかけるうち、帰り道を見失ってしまった。
(
その澪はライナーに付き添い、今頃は質屋で宝箱を換金し終えていることだろう。
「はぁ~、やっぱミオ姉いないとこうなるかぁ」
「…………」
「あ、べつに責めてるわけじゃなくてさ。土地勘ある人付いてないとライナーも困るだろうし」
「…………」
「っつーかケンジ、何でこっち来たし。……まだミオ姉とケンカしてる?」
「べ、べつにケンカしてるわけじゃ……」
視線を逸らす献慈へカミーユの追撃。
「いやいや、昨日からお互い黙り通しじゃん。いつも人目もはばからずイチャついてるくせしてさぁ」
「い、イチャついてるとか! そういうのは本当……やめてくれよ」
我知らず声を荒げていたことに献慈自身驚いていた。
「おぅおぅ、どした?」
「澪姉は……そういう気持ちで俺に接してるわけじゃないから」
「何それ。本人がそう言ったわけ?」
「い、言っては……ないけど」
聞かずとも察せようものだ――あのひどい出会い方を考慮すれば。
(考えてもみろよ。澪姉からすれば俺の第一印象って、いきなり素っ裸で現れた変態だぞ)
これまでの頑張りでいくらかは挽回できたと思いたい。それでも弟分以上の扱いを期待するのは高望みというものだ。
「はぁ? 聞いてもいねーくせして勝手に決めつけてんじゃねーよ! このウジウジ卑屈野郎がっ!」
「……! そんな言い方はないだろ! カミーユだって俺の事情とか全然知らないくせしてさ」
「事情って何さ?」
「そ、それは……」
二つの世界の間で揺れ動く献慈の心を、カミーユは知る由もない。
「言い訳ばっかしやがって……大事なのはどう思われてるかじゃなくて、テメーの気持ちのほうだろぉが! はっきりしろよー、まったくよー」
(俺の……気持ち……)
想いを伝えられぬまま置き去りにして来た初恋は、もはや解くことの叶わぬ呪いとなって献慈を縛りつけていた。
踏み出そうにも、その足は重く。
「ミオ姉のこと、アンタはどう思ってんのかって訊いてんの」
「それは、その……き、綺麗で、格好良くて……いつも守ってくれる……」
「それ、同じこと商人のオッサンの前でも言ってなかった?」
「……!?
「そりゃあ協力者の弱みを握っ……じゃなかった、素行調査をですねー……」
「今、不穏な
「気のせいだから! っつーか、話を逸らすな! 結局ミオ姉のことどう思ってんの!?」
堂々巡りだ。献慈は売り言葉に買い言葉と、半ばやけっぱちに言い放つ。
「……わかったよ、認めるよ! 好きだよ! 大好きに決まってるだろ!!」
「っ……!?」
「これで満足……ぇっ? あ、だから、カミーユに言ったわけじゃな――」
突如背後から、献慈の手に持った
油断しきっていた。
「おいおーい、君たち青春しちゃってるね~」
得意顔で杖を弄ぶ大柄な男を中心に五、六人の男たちが路地の出口を塞いでいた。
「楽しそうだね~。俺たちも混ぜてよ~」
「何の用……ですか?」
ヒトと獣人の入り交じる集団。ラフな服装と幼さを残す顔立ちを見るに、港にたむろする不良グループといったところだろう。
濁りきった眼差しが向けられる先は献慈ではなく。
「悪いけどボクに用はないんだな~。オレたち、そっちの可愛い子ちゃんと遊びたいんだな~」
「……今のうちに逃げるんだ」
気がつけば連中とカミーユの間に身を滑り込ませている献慈がいた。
「イマノウチニ、ニゲルンダ!」
「うわぁ~っ! カッコイイ~ッ!」
言われ放題、武器は奪われ、さらにはとどめを刺す事実がカミーユの口から告げられる。
「あっち……行き止まり」
「え…………」
詰みだ。
「へっ、こんなアホガキにゃ勿体ねー上玉だぜぇ」
「だな。オレたち〝
「つーかリコルヌじゃん。角ブチ折って売り飛ばすかぁ?」
「スゲー! お小遣いゲットじゃん!」
「お前ら鬼畜だなー。痛くしないように折ってやれよー」
「結局折んのかよ! ダハハハ!」
リコルヌの
(こいつら……!)
沸き上がる憤りとは逆に、献慈の中で違和感が頭をもたげ出す。
常ならば献慈を差し置いて連中に食って掛かりそうなカミーユが、妙におとなしい。
「…………」
(カミーユ……!?)
見開いた目を潤ませて
驚きと疑問が頭を埋め尽くすも一瞬、歯止めを失った激情の前に、理屈や体裁は跡形もなく吹き飛んでしまう。
「アホガキは……お前らだろう」
「……あァ?」
「自分の言ってることの重みを理解してない、大馬鹿者だ――ッ!!」
感情任せの突進。所在なく振り上げた拳。がら空きの胴体。
「うるせぇよ」
「うッ……ぐ!」
前蹴りが腹にめり込んだ瞬間、怒りに我を忘れた愚かさを悟る。よろよろと後退した献慈は路地裏の壁にぶつかってへたり込む。
「この女はオレたちが拾ったんだよォ……ちっとぐれぇ謝礼よこせやァ」
献慈を見下ろすヘッドの男。後方で仲間たちがざわつき始めたことにまだ気づいた様子はない。
それも時間の問題だった。
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