第30話 中間考査とその後で


 俺、山神柚希。明日から中間考査が始まる火水木金の四日間だ。まだ一年生という事もあり、そんなに教科数は多くないが、中学時代とは比較にならない。


 普段から予習復習をしているから赤点を取る事は無いと思うが、万一があるので一応一週間前から二学期に入ってからの分の復習をやって終わらせている。



 いつもの四人、俺と亮、詩織、梨音と学校に向いながら

「柚希、明日から中間考査だね。準備はしてあるの?」

「まあまあだよ。詩織は頭いいから良いけど俺みたいな中の中の人間には考査は嫌だよ」

「何を言っているの、私だって考査は嫌だよ」

「でも詩織、梨音とも一学期の時だって良かったじゃないか。亮だって俺より良かったし」

「柚希、じゃあ毎日考査終わったら一緒に勉強する?」

「梨音、嬉しいけど自分でやるよ」


 せっかく柚希と二人きりに慣れるチャンスだったけど無理かな。


「でも学校の帰りに図書館に寄るのはいいぞ。亮と詩織もどうだ?」

「俺は止めておく」

「私も」

「そうか」


 言い方を誤ったな。これじゃ俺一人でも行くしかないじゃないか。

「梨音、火曜と木曜ならいいよ。一緒にやろうか」

「うん!」


 神崎さんの顔がパッと明るくなった。この人分かり易い。柚希は上坂先輩が好きなのに何でこんなに中途半端なんだろう。

友達範囲という事か、でもこれじゃあ神崎さんの気持ちを引き摺っている様なものなんだけど分かっているのかな。




 明日からの考査期間中は午前中で終わるので瞳さんのお弁当は食べられない。今日も昼休みになり瞳さんと二人でいつもの校舎裏のベンチで食べていると


「柚希、考査中は一緒にお昼食べれないね。だから私の家に食べに来ない?お昼食べたら一緒に勉強しよう」

「流石にそれは…。それに火曜と木曜は梨音と一緒に図書館で勉強する事にしているので」


 えっ、どういう事?なんで神崎さんと考査後に一緒に居るの?勉強に名前を借りたデートじゃない。


「柚希、私とは一緒に勉強出来ないと言っておきながら神崎さんとは出来るの?酷いよ。私柚希の彼女だよね。あの子は友達でしょ。どっちが大事なのよ」

「えっ!いやそんなつもりは。梨音とは偶々そんな流れになったから」

「じゃあ、私ともそんな流れになって」


 参った。失敗した。仕方ない


「分かりました。水曜と考査の終わった金曜は一緒にお昼食べましょう」

「本当は、毎日にしたいのに…。柚希どうすれば私だけを見てくれるの?」


 困ったな。話が深刻になって来た。

「今日は瞳さんと一緒に帰りますよね。明日から考査だけどファミレスにでも寄りますか?」

「えっ、いいの?」

「はい」


 予鈴が鳴り教室に戻ったけど俺は、自分の軽口に嫌悪してしまった。瞳さんと放課後ファミレスデートを約束した俺だけど、やっぱり明日からの考査の前にファミレスで時間を潰すのは時間がもったいない。そのまま勉強に持ち込むか。



 放課後になり下駄箱に行くと瞳さんが待っていた。

「柚希帰ろう」

「はい」


 まだ周りの視線が痛い。中々慣れないな。



校門を出た所で

「瞳さん、ファミレスで勉強しませんか。やはり明日から考査なので、どうしても時間が」

「良いわよ。柚希と一緒にいれるなら何してても良いわ」


 駅まで来た所で近くのファミレスに入った。ここは渡辺さんと話をして出た所で小林先輩に殴られたあまりいい思い出が無い所だけど、この辺ではここしかないから仕方がない。


 中に入ると意外にも同じ学校の生徒が何人かづつグループになって勉強をしていた。これなら俺達が同じ事をしていても目立たない。


「へーっ、結構みんなここでも勉強しているんだ」

「そう見たいですね」


 俺達は同じ学校の生徒達からはなるべく離れた席に座って店員にドリンクバーと飲み物だけでは悪いと思いフライドポテトも注文した。

 ドリンクバーだけで長話する事も多いけど今日はちょっと気が引けた。


「柚希早速始めようか。明日出る教科をやろうか」

「はい」


 今日の授業で明日の考査予定の授業が有ったので丁度教科書を持っていて良かった。

「柚希、対面だと教えにくいから隣に座る」


 俺が返事をする前に横に座られてしまった。結構ぺったりとくっついて居る。教科書にある問題を解いていると


「柚希、あーん」


 瞳さんがフライドポテトを指で摘まんで俺の口に持って来た。何とはなしにそれを口に入れながら勉強をしている。まるで餌付けされているみたいだ。何度かそれを繰り返した後、今度はやたらと俺の腿や背中を触ったりしている。


「あの瞳さん?何か?」

「うん?何の事?」

「いえ」

 問題に集中できない。


今度は左腕に胸を当てて来た。参った。



 ふふふっ、本当は柚希とイチャイチャしたいけど仕方ないから彼の横に座って腿に触ったり背中を擦ったりしている。勉強しにくいだろうけど、彼が私の部屋に来ないのが悪いんだ。


「あの瞳さん。ちょっと勉強に集中出来ないんですけど」

「なんで、気にしなくても良いわよ気にしないで勉強して」

「瞳さんも勉強したらどうですか?」

「明日の考査対象の教科書持っていないから出来ないよ」


「いやいや、明日の分以外でも持っている教科書で勉強出来るでしょ」

「えーっ、いいよ」

「駄目です。勉強の予定でファミレス入ったんですよね?瞳さんしないなら帰りますよ」

「えーっ、もう仕方ないなあ」


 瞳さんはバックから教科書を取り出すと勉強をし始めた。これで集中できる。


 一時間位してから

「そろそろ帰りますか?」

「えっ、まだいいじゃない」

「でもお店にも悪いし」


 さっきから注文を取った店員さんがじっとこちらを見ている。彼女からだと背中の向きになるので見えないのだろう。入る時はいくつかのグループが居たが勉強しているのは俺達だけになってしまった。瞳さんもちらりと周りを見ると

「そ、そうね出ようか」



 駅での別れ際に

「柚希、水曜日は私の家に来てね。お昼も一緒に食べよう」

「はいそうしましょう」

「じゃあ、また明日ね」

「はい、また明日」


 明日は会う予定になっていないが?まあ挨拶代わりかな。しかし、瞳さんどうしたんだろう。最近とても積極的だ。この前、保留にした件を気にしているんだろうか。今日だってあんなに。今はとにかく明日からの考査に集中するか。


―――――


 ふむ、まあイチャイチャしたいのはカップルなら誰だってね。


次回をお楽しみに

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