第3話 天からの授かりし物

 会社からの帰り。コンビニでカップ麺とおにぎりを一つ購入した上木。

 時刻は21時半を過ぎていた。それでも今日は帰宅時間が早い。そう思いながら歩く上木。

「今日も疲れたな・・・」

 上木は今日のことを思い出しながら歩いていた。

 田中課長との面談。それに白瀬さんの言葉。精神的な疲れもあったが、その反面、精神的な癒しもあった。白瀬さんって凄いな。単に仕事のできる人というだけでなく、人格も立派だ。あの人の言葉は、間違いなく僕の心に届いた。課長とは違って。


 上木が自分の住むアパートへと向かう最中さいちゅうだ。

 街路灯がいろとうの下に差しかかったときだった。のヒヤッとする風が吹いた。

「ううっ。寒っ!」

 一瞬、身震いした上木。その瞬間、彼の頭にぶつかった。いや、正しくは、してきた。


「痛ってえっ!」

 上木は激痛に堪えられず、その場にしゃがみ込んでしまう。

「マジで何だよ・・・」

 頭の痛みが治まるには数分かかった。

 ようやく痛みが治まり、ふと顔を上げる上木。すると、彼の目の前に一冊のが落ちていた。


 本を拾い上げる上木。彼は周囲を確認する。

 周囲には一般住宅やアパートが多数にあるが、まさか誰かがこの本を投げてきたのか?だとすると、悪質なイタズラでは済まされない。

「マジで痛いんだけど・・・」

 上木は頭を撫でながら、本を眺める。裏表うらおもてどちらも赤い表紙になっている本。


なんじわれと契約せよ』

 不意に誰かの声がした。

「んっ?」

 上木は再度、自分の周囲を確認する。今のはだ?

 しかし、周囲には誰もいない。頭を打ったせいなのか、幻聴だろうか?


 上木は取り敢えず、本を開けてみた。表装はしっかりしており、何かの図鑑、ないし、日記帳のような雰囲気があった。

 しかし、本の中身を見て上木は驚く。そこには何も書かれていなかった。文字、写真、図面。一切、中身が無い。

「何だ、これ?」

 上木は何か書かれていないのかと、何ページもめくってみる。

 しかし、何も書かれていない。もしや、これは本ではなく、ノートやメモ帳のたぐいか?それにしては、立派というか、高価そうな雰囲気だが。


 上木は街路灯がいろとうの下へ移動する。そこで再度、本の中身を確認する。しかし、どこにも、何も書かれていなかった。

「何だよ、これ?」

 上木がそう思ったときだ。真っ白なページに文字が浮かび上がる。

なんじわれと契約せよ』

 上木が幻聴と思った言葉が、文字として浮かび上がる。

 これには寒気さむけのした上木。彼は目を擦ってみる。今度は、幻覚げんかくではないかと思ったからだ。


なんじの願いを叶えん。我と契約せよ』

 まるで本は、上木に話しかけるように文字を浮かび上がらせる。

「どういうことだよ・・・?」

 上木は目の前で起きていることが信じられない。これが幻覚なのか、将又はたまた怪奇現象なのか?意を決して、上木は本に問いかける。

「願い事を叶えてくれるのか・・・?」

左様さよう』と、上木の問い掛けに対し、文章で答えた本。

「願い事か・・・」

 急に言われても、案外思いつかないものだ。上木は本に


「今、すぐでなくてもいい?」

『構わぬ』と、すぐに返事が浮かび上がる。

 それを読んだ上木は通勤用リュックに本を入れた。まずは自分のアパートに帰ろう。そう思った上木は家路を急いだ。

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