第2話

 僕はゴリ社長に担がれたまま薬草ダンジョンに入った。

 夜のダンジョンも外と同じで暗くなるけど、真っ暗になるわけではなく少し視界が悪くなるだけでダンジョンの方が外より明るい。


 不人気な薬草ダンジョンは夜の間入場料を取られない。

 日が出ている間は兵士が入り口で見張っていて1人1000ゴールドの入場料を取られるけど、夜は兵士がいない。

 入場料は魔物討伐と治安維持の為と言われているけど、本当は領主がたくさんお金を取りたいだけなんだ。




 斥候の男が走って来る。


「社長!ハーブトレントを見つけました!」

「よし!今日はカモンの再教育だ。可愛がってやれ!」

「も、もう辞めたので大丈夫です!大丈夫なんです!」


「がははははは!遠慮するな!ありがたく思えよ!」


 そう言ってゴリ社長はハーブトレントまで走る。

 ハーブトレントは木の魔物で、根を器用に動かして手足として使い薬草を栽培したり、鞭のようにしならせて攻撃してくる魔物だ。


 周りには10体のスライムがいて、ハーブトレントが育てた薬草を食べる代わりにハーブトレントを守っている。


 ハーブトレントとスライムはセットで出てくるのだ。


 ゴリ社長は走りながら僕を魔物に投げつけた。

 攻撃を受けないと自動防御は発動しない。


「うあああああ!」


 ハーブトレントが根を鞭のようにしならせて攻撃してくる。

 その瞬間僕の着ていたマントがうにょんと動いて攻撃を防ぐ。

 更に地面に落ちる瞬間にマントがクッションのように変形して身を守る。


 マント召喚スキルの自動防御が僕を守ってくれる。

 でも、衝撃が強いとマントで攻撃を防ぎきれない。

 1度にたくさん攻撃されると防ぎきれず攻撃を受けてしまう。


 急いで立ち上がるとスライムが僕を囲んでバウンドし、タックルしてくる。

 マントが変形してスライムの攻撃を防ぐけど、数が多い。


「うあああああああああああ!」


 僕はナイフを抜いて必死で攻撃する。

 1体に狙いを定めて何度もナイフを突き刺して何とかスライムを1体倒す。


 スライムが一斉に攻撃を仕掛けてくると、僕は地面に転がって何とか攻撃を避ける。

 泥にまみれ、スライムの粘液を浴び、マントで防御しきれず衝撃を受ける。


「助け!助けてください!」


 その様子をゴリ社長と会社のみんなは笑いながら見ていた。


「がははははは!ありがたく思え!可愛がってやってるんだからよお!てめえが余計な事を言うからこうなるんだよ!がはははははは!」


 周りにいたみんなも一緒に笑う。


「ビビりのカモンにはぴったりの能力だなおい!ひらひらしたマントでカメのように守る事しか出来ねえ!しかも防御力も弱い!お前は何一つまともに出来ねえ無能なんだよ!」


 僕は馬鹿にされ続けた。


「鬼人化も使えねえ鬼人族は意味がねえんだよ!鬼人族はなあ、鬼人化を使えるから鬼人族なんだよ!」


「髪の色が黒くて角も無い鬼人族なんてお前くらいだぜ!お前は種族能力もジョブもスキルも全部落ちこぼれなんだよ!」


 僕は叫びながらスライムにナイフを突き立てる。


「うあああああああ!」


 攻撃を受けながら2体目のスライムを倒す。

 でも他のスライムに攻撃されてよろける。


「おいおい!攻撃を防ぎきる事すら出来てねーじゃねーか!さすが無能のノービスだぜ!」


 死の恐怖を感じながら何度も何度もナイフを突き立てた。

 



 何度も攻撃を受けながら5体のスライムを倒すとゴリ社長が怒り出す。


「カモン!雑魚相手にいつまで時間を掛けてやがる!」


 そう言いながらゴリ社長は魔物を倒そうとしない。

 何度もナイフを突き立てる右腕が痺れて来た。

 左手に持ち替えてナイフを突き立てる。


 時間を掛ければ何とか、倒せる。




「早くしろ!後2体程度すぐに倒せねえのか!汚いスライムを倒すのはお前の仕事だろうが!」


 元々僕は魔物の解体と皮なめしの為にブラックポーションに入社した。

 皮なめしは裁縫のスキルを持っていれば糸や生地だけじゃなく、革も扱えるようになるんだ。


 でも、ゴリ社長が僕の配置を移動し、ダンジョンで壁役をやらされるようになった。

 しかも解体と皮なめしのノルマは配置移動前と変わらず、やったノルマすら奪われた。


 スライムは後2体、それとハーブトレントを倒せば終わる。

 でも、そこにアンデット系の魔物がやってきた。


「げえ!スケルトンとゴーストだ!逃げろ!」

「カモン!しっかり引き付けろ!」


 そう言ってみんなが離れる。


 2体のスケルトンと2体のゴーストが迫って来る。

 スケルトンは子供と同じ大きさの魔物で木の棒を持って走ってくる。

 ダンジョンに入ってすぐの魔物は基本小さい。


 ゴーストはスケルトンと同じサイズだ。

 人型だけど足だけは無くて浮いている。


 この薬草ダンジョンが嫌われる1番の理由はゴーストとスケルトンがいるからなんだ。


 ゴーストとスケルトンは僕に近づくと左手を僕にかざした。 

 ゴーストとスケルトンの左手が光る。


『EXPスティール』


 スケルトンとゴーストは体力・魔力・器用値のEXPを奪おうとする。

 何度も奪われると体力・魔力・器用のがどんどん低くなっていく。

 でも、体力・魔力・器用が10まで下がると奪えなくなる。

 僕は常におとりにされてゴーストとスケルトンにEXPを吸われ続けてきた。


 だから体力・魔力・器用値を10より上に上げられないんだ。

 クラッシュには自己投資の意識が無いと言わ続けた。

 でもゴリ社長にはおとりと壁役をやらされ続ける。

 意見を言えばいじめられる。

 能力を上げたいのにEXPスティールで奪われるからどうしたらいいか分からないんだ。


 ゴーストとスケルトンは何度もEXPスティールを僕に使った後僕に攻撃を仕掛けてきた。


 ゴーストは魔法攻撃を使い、炎と氷の攻撃を僕に放つ。

 マントで攻撃を防いでも痛い。


 そしてゴーストが魔法を撃ち尽くすとスケルトンが木の棒で殴りかかって来る。


「うあああああああああああああああああ!」


 僕は叫び声を上げながら攻撃し続けた。


『マント召喚レベル6→7』


『防御力30→35』


 レベルが上がった。

 スキルは使い続けるだけじゃなく、危機感があった方が上がりやすい。

 ぼーっとしてスキルを使うより意識して使う事でレベルは上がりやすくなっていくんだ。

 僕はいつも怖い思いをしてきた。


 ハーブトレント以外を倒す。


「おい!遅すぎだ!ちんたらやってんじゃねえ!」


 そう言ってゴリ社長が残ったハーブトレントを倒す。


 もう、疲れた。


 手が、痺れる。


「もたもたすんな!薬草採取だろうが!」

「……はい」


 僕はゴリ社長に怒鳴られながら薬草を採取し続けた。


 ゴリ社長はゴーストとスケルトンを倒した後の魔石を拾って自分に使い、EXPを上げていく。

 本当は会社として倒したものを自分に使うと泥棒になるけど、この会社にルールは無い。


 僕は皆が休む中、休むことが出来ずひたすら薬草採取をし続けた。



 僕はポーション王子と呼ばれ成功したクラッシュに憧れてブラックポーションに入った。

 クラッシュは本当の王子じゃないけど、若いのに経営者になって強くて、見た目もカッコよかった。


 けど現実は違った。


 ポーション王子のクラッシュは冷たい。

 

 ゴリ社長は僕をいじめる。


 苦しい。


 奪われるのは嫌だ。


 会社を辞めて、会社から奪われなくなってから……


 僕はどうやって生きて行けばいいんだろう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る