第70話 道は開けた
進んでも一向にゴールが見えない。
あのメタモルシャドウとかいうのはあれから一度も出てこないし、討伐ミッションすらない。
入り組んで曲がって曲がって進んで曲がっての繰り返しで、私はかなりイライラしている。
これは明らかにおかしい。
私の物欲センサーによれば、道は間違えてないはずだ。
ダンジョンマップはミリータちゃんが持っているけど、私の物欲センサーだって負けてない。
焦るんじゃない、マテリ。あなたは報酬が欲しいだけなんだ。
耳を済ませろ、神経を研ぎ澄ませ。
「ふーーーっ……」
私が五感ですべてを感じ取る。
その時だった。
「揺れたね?」
ほんのかすかにズゴゴと音と共にフロアが沈む感覚がある。
もしやと思って来た道を振り返ると、そこは壁だった。
代わりに何もなかった左側の通路の先にはまた四角いフロアがある。
そのフロアは床と天井がやけに離れていた。
つまり一歩でも踏み出せば、私は真っ逆さまに落ちる。
下にはまたどこかへ続く通路があって、天井にもそれらしき穴が空いていた。
あぁ、これはアレですね。
「このアレリア遺跡全体が常にフロアごと動いてる」
そう、まるでパズルみたいにこのアレリア遺跡は内部構造が組み変わっている。
言ってしまえばキューブパズルのごとく、ガシャガシャとフロアが動くんだ。
だからこんなところをさ迷っても永遠にゴールに着かないし脱出もできない。
まさに難攻不落、誰も攻略できないわけだ。
「さてっとぉ……」
私にこんなクソダンジョンに付き合えと?
あのね、目の前に報酬があるとわかっていながら遠ざけられる気持ちがわかる?
お腹が空いていて、ようやく食事にありつけると思ったらメッてされて取り上げられたようなものだ。
討伐ミッション報酬もほとんどない。
ミリータちゃんやフィムちゃんとはぐれる。
誰が何の目的でこの遺跡を作ったのか知らないけどさ。
後世に報酬をこよなく愛する女の子が現れると予想できなかったの?
その時にこのクソダンジョンでイラつくかもしれないと考えられなかった?
「方角よし……角度修正よし……」
焔宿りの杖、ユグドラシアの杖。
二つの杖を合わせて突き出した。
杖から迸る魔力が巨大な炎の玉を作り出して、更に大きく大きく大きく。
私の数倍の大きさになった炎の玉は周辺の壁や床を消滅させていた。
そして――。
「発射ァァーーーーーーーーーーーー!」
まっすぐ放たれた巨大な炎の玉はフロアの壁をぶち壊して直進した。
壊した先の壁もまた壊して、どこまでも貫通していく。
アレリア遺跡全体に響くかのような破壊音が実に心地いい。
そして私も走った。
「この先にあるからぁぁーーーーーーーー!」
そう、私の物欲センサーはこの先に反応している。
削れたフロアを進んで、炎の玉を追いかけるようにして私がゴールを目指した。
その途中で見慣れた子がいる。
「あ、あわわ……」
「あ、フィムちゃん」
「その迷いのないフットワーク……師匠! さすがです!」
タイミング的にフィムちゃんの目の前を炎の玉が通過したんだと思う。
うろたえていたものの、すぐにさすがモードに切り替わるか。これは本物の味。
「ミリータちゃんは?」
「いえ、ボクにもわからないんです。あの、師匠……」
「ん? 何か聞こえる」
遠くから走る足音が聞こえている。
近づいてきたのはミリータちゃんだ。
槌を構えているから一瞬でも身構えちゃった。
「こんのッ……マ、マテリ!」
「ミリータちゃん、どうしたの?」
「今度こそ本物か……? マテリ、帰るか?」
「誰に何を言ってるの? 私にその選択を迫るってホントに? ねぇ」
「……本物か」
もしかしてミリータちゃん、私の偽物に会った?
ひどい質問された気がするけど偽の私は何をやった?
「今の破壊音はやっぱりおめぇか」
「さすがダンジョン内における勘が冴えている」
巨大炎の玉が私の位置を知らせる結果になったか。
最初からこうしていればよかった。
ミリータちゃんは巨大炎の玉が通過して破壊された跡を見て呆れる。
「たぶん報酬が遠のいて、いらついてやったんだろ」
「そ、そんなことないよ。こうすれば二人と再会できるかなと思ってさ」
「まーそういうことにしておいてやるべ」
まったくミリータちゃんはすぐ私に対して欲にまみれた人間みたいな見方をする。
さすがの私でも、こんなことをしたら遺跡全体が崩れかねないってわかって――。
「し、師匠。何か揺れましたよ」
「え?」
「天井から小さな石の欠片が落ちてきました」
「え?」
次の瞬間、ガコンと足場がへこんだ。
そして壁に亀裂が入り、天井も支えられなくなる。
「ろ、老朽化かな?」
「バッカ! おめぇがやらかしたせいで、遺跡全体がもろくなってんだ!」
「ウソォ!」
「く、崩れてきた!」
至るところから轟音が鳴り響いて、確かにこれはやばいと感じる。
私、また何かやっちゃいました?
「これはやべぇ! マテリ、転移の宝珠で脱出だ!」
「え、神器は」
「そんなもんより命が大切だ!」
「えぇー!」
ミリータちゃんが信じられないことを言った。
そんなもんとは報酬のことかな? 命より大切?
「マテリ! 早く!」
「……ごめん、ミリータちゃん。はい、転移の宝珠」
「は? 何をする気」
「先に脱出して! 私には譲れないものがあるッ!」
私は遺跡の奥に向けてダッシュした。
瓦礫が落ちてきても杖で叩き壊して。
「おめぇってやつはぁーーーーーー!」
転移の宝珠を渡したはずなのに、ミリータちゃんとフィムちゃんもついてきた。
なんだ、やっぱり報酬が大切なわけね。
二人に化けて散々迷わせた挙句、勝手に崩れる?
報酬をよこせ。今すぐに。
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