第68話 マテリという奴はなぁ

「マテリ、少し休むか?」

「いや、いいよ」


 気がついたら、オラ達は分断されちまった。

 フィムちゃんの姿がなくて、いつからこうなったんだかわかんね。

 最初こそどーすっかなーって感じだったけど悩んでも仕方ねぇ。

 オラ達が最深部に辿りついて神器を手に入れた後でゆっくりと探せばいいんだ。

 

「ここから先はまた偉い複雑だなぁ。ダンジョンマップがあっても頭が痛くなる」

「ミリータちゃん、フィムちゃんが心配じゃない?」

「まぁな。でも探すより進んだほうがいい」

「そうかなー?」


 マテリが首を傾げている。

 オラとマテリの出会いを誰かに語ると笑い話になるかもしれねぇな。

 当初は宝の匂いがするなんて理由でついてきちまったし、ややオラも毒されてるのは否めねぇ。

 だけど後悔する瞬間があるのが、オラとしても頭が痛かった。

 何せこのマテリは報酬のためなら、あらゆる倫理観や状況判断力が吹っ飛ぶ。

 ブライアスに狙われた時も普通、ちょっとは躊躇するべ?

 それがノータイムでぶちのめして、後のことなんて考えもしねぇ始末だ。

 いや、あの時はオラも調子に乗ったけどな。

 マテリほどじゃねえが、どうもオラはアイテム中毒になっちまったらしい。

 よくねぇことだとわかっていても、マテリが夢中になるとオラにもスイッチが入る。


「はー、クッソだるいねー」

「おめぇが攻略しようと言い出したんだからな」

「とっとと攻略しちゃおう。報酬が待ってるからね」

「そーだなぁ」


 マテリに物欲のスイッチが入った時、オラに向かって導火線の火花が向かってくる。

 そしてオラも目先のアイテムのことしか考えられなくなるんだ。

 毒されてる? 中毒が移った?

 まぁオラもこれは正直に言えばまずいと思う。

 マテリと行動していたら、いつかとんでもない目にあうんじゃねえかってたまに思う。

 ていうかすでに手遅れ感さえあるんだけどな。

 でも、それでも。不思議と離れようとは思わないんだな、これが。

 自分でもよくわかんね。

 マテリっつう奴は決して褒められた性格をしてねぇし何なら最悪かもしれねぇ。

 でも何かに向かって一途に向かうその姿勢はオラも実は尊敬してる。

 オラは子どもだからという理由で店を出させてもらえず、最初はドグ達の下で修業するように言われたんだ。

 修行なら我慢するしかねぇと思ってたが、ドグがオラにやらせるのは雑用ばっかりだった。

 槌に触らせてもくれねぇ。

 オラはいつになったら鍛冶ができる? このまま一生を終えるのか?

 そんな時に現れたのがこいつだった。


「ミリータちゃん、まだ着かない?」

「まだまだ。急がば回れ、だ」


 オラの前に現れたマテリは躊躇なくドグをぶっ飛ばした。

 それも何の前触れもなく、オラは呆気にとられたっけな。

 最初こそこいつ頭おかしいんでねえかって思ったけど、それがクリア報酬のせいだと知って半分は納得した。

 もう半分は今でも頭おかしいって思ってる。

 でもあれがオラにとってすげぇ力になったのは事実だ。

 あの時、マテリが現れてくれなかったらオラは何の決意もできずに下働きをさせられていたんだ。

 ようやく一人前と認められた時にはいい歳になっちまってる。

 そんな風にオラが囚われていた常識を、マテリはぶち破った。

 その時にオラ、思ったんだ。

 自分はなんてちっぽけなことで悩んでいたのかってな。

 マテリはほとんど悩まねぇ。食事だってフィムちゃんは食べる順番を考えて、よく噛んで食べてる。

 マテリの食事は早い。手が止まるってことがねぇ。

 今回のアレリア遺跡探索だって、王都から近い場所という理由だけであっさりと決めちまった。


「ここを左だな」

「ホントに? 大丈夫? ちょっと心配だなぁ」


 相手が兵隊長だろうが騎士団長だろうが貴族だろうが王子だろうが。

 魔界の王だろうが、マテリはいい意味でも悪い意味でも平等だ。

 欲望の赴くままに行動して、結果的にありとあらゆる人間を認めさせちまった。

 そう、マテリはいつだって一途なんだ。


「あれー? 何もないじゃん! ミリータちゃん、ホントにダンジョンマップ見ながら進んでる?」

「マテリ、道を間違えちまった」

「えぇーーー! 最悪! ミリータちゃんってそういうところあるよね!」

「すまん」


 オラ達はマテリについてきた。

 まだそんなに長い付き合いでもねぇ。

 だけどこれだけはわかる。


「マテリ、少し引き返す」

「はぁ、そうだね。帰ろ帰ろ」


 オラが両手に持つのは槌。

 マテリが誰かに頼ったり迷えば絶対に手に入らなかった闘神の槌だ。

 強く握りしめて、帰ろうとしたマテリの背後に立つ。


「マテリ、報酬はどうするんだ?」

「欲しいけど帰るしかないでしょ。ミリータちゃんが道を間違えて台無しにしたんだからさぁ」


 マテリが報酬を放棄する?

 バカにするんじゃねぇ。


「うりゃあぁぁーーー!」

「ギギィアアァーーーーーー!」


 マテリを叩き潰すと黒い影が分散して叫ぶ。

 なんて名前かさっぱりわからねぇが相手が悪かったな。


「ミッション達成……か? いや、オラには報酬なんてねぇか」


 報酬を前にしたマテリのテンションは魔物が真似できるものでねぇ。

 もしマテリがオラの偽物に襲われても、最初から見抜いてるはずだ。

 こんなものに騙されて狼狽するようなタマじゃないのはわかってる。

 まさか討伐ミッションが出たと同時に気づくなんてことはねぇ。ねぇはずなんだ。


「マテリ、オラ達の絆は誰にも壊せねぇ……よな?」


 なぜかそう確信できないオラがいた。

 これじゃいくらなんでもマテリに失礼だ。

 報酬が絡まないとこんな魔物に騙されるなんて、そんなことは。

 なんだか急に自信がなくなってきた。

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