第48話 舐めるのもいい加減にしてくださいね

「ルーシエちゃん、ヒール」

「あ、ありがとう……ございます」


 超久しぶりのヒールリングでルーシエちゃんを回復してあげた。

 腫れていた頬が元通りになって、お父さんも安堵している。

 さて、この場はすっかり騒然としていた。

 いったい誰のせいでこうなったのかな?


「シャルンテ様! しっかり!」

「うぅ……」

「そこのあなたッ! こんなことしてどうなるかわかってるの!」


 取り巻き達が般若みたいな顔で私を威嚇してくる。

 冷静に考えたら相手に非があったとしても殴りかかるのはダメだ。

 しかも相手は侯爵令嬢。ブライアスさんの時みたいになんだかんだでいい感じに収まらないかな?

 いや、ダメっぽい。騎士達が集まってきて、すっかり囲まれた。


「そこを動くな!」

「城門前でいい度胸だな!」


 どうしよう。討伐ミッションが出ない。

 じゃあ、逃げる?

 目の前に報酬がありながら、逃げるなんてとんでもない。

 ぶちのめす? だるい。


「何とか言ったらどうなんだッ!」

「師匠、戦いましょう!」

「滅多なこと言わないで……あっ! ちょっと拘束とかやめて!」


 騎士達が私達に詰め寄って、力づくで押さえてきた。

 私が悪かったけど、そこに報酬があるんだよ?

 仕方ない。こっちも強行突破――


「騒がしいと思ってきてみれば、何をしている」

「ク、クリード王子!」


 颯爽と現れたのは金髪イケメンの王子だ。

 マントを翻して、なかなかの格好つけだと思う。

 この人が杖を二本持った少女を探し求めていた人か。


「こちらの少女がシャルンテ様に暴行を加えたのです」

「シャルンテ! これは……」


 倒れてのびているシャルンテをクリード王子が観察する。

 さすがの取り巻き達も微動だにせず、そしてクリード王子に見とれていた。

 なんか目がハートになってる。報酬じゃあるまいし、その感覚はわかりません。


「シャルンテはその辺の人間に倒されるほど弱くない。なるほど……やはりそうか」

「クリード王子?」

「そこの君! やはり君がそうだ!」


 つかつかと私のところに来た王子がすごい距離を詰めてくる。

 なになに、報酬?


「会いたかったよ、マイプリンセス」

「なんて?」

「あの時、助けてくれてありがとう。ほら、岩のゴーレムの時だ」

「いわのごーれむ?」


 いつだろう?

 そういえば前にそんなのを倒した時に誰かいたような?

 報酬でそれどころじゃなかったけど、間接的に助けた形になっていた?

 それが王子? なんであんなところに王子が?


「君から来てくれて嬉しいよ。あの時の礼を言えなかったからね」

「報酬ですか?」

「なによ! あの女! 王子に向かって失礼ね!」

「そうよ! クリード王子、騙されてます!」

「死ね!」


 外野の野次がすごい。

 あと今、誰か死ねって言った?

 そっか、あそこに王子がいたと気づけばこんな手間をかけずに済んだのか。

 あのお触れは私を探していたわけだ。

 もう少しマシなやり方はなかったのかなと思わなくもない。

 それより報酬。


「実は僕から君に伝えたいことがある」

「報酬ですか?」

「僕のプリンセスになってほしい」

「報酬じゃないんですか?」


 私の疑問をよそに、周囲が静かになった。

 なに? 失言しちゃった?


「僕のプリンセスになってほしい」


 二回も言われた。

 ボクノプリンセスニナッテホシイ?

 えっと、そういう名前の報酬なのかな?

 ボクノ? プリン? セス?

 そういうアイテム名?


「もちろん今すぐに返事がほしいわけじゃない。これから時間をかけてゆっくりと話し合おう」

「……報酬は?」

「報酬?」

「お触れ、出しましたよね?」

「……あ」


 あ、じゃなくてね?

 なに、もしかしてそんな下らないことを言うためにお触れを出した?

 報酬は釣り餌? ホントに?


「き、君は結婚に魅力を感じないのか?」

「つまり私がお姫様の地位を目当てにやってきたと? 王子はそう仰るのですね?」

「あ、いや……違うなら、失礼だった……」

「私がここでハッキリさせたいのは報酬がマイプリンセスなのか? それとも他にあるのか? それだけです」


 静かになっていた場が少しずつ騒がしくなる。

 王子も王子で何も答えない。

 絶句して固まってる。あの?


「ちょっと……何よ、あの女ァァァッ!」

「クリード王子から求婚されるなんて!」

「ありえない! しかもあの態度ォォォ!」

「死ね!」


 一気に罵声を浴びせられた。

 あと今、誰か死ねって言った?

 正直なところ、怒りたいのは私のほうだ。

 お触れに書かれていた報酬も出さず、いきなり求婚とかしやがって。


「もう一度、聞きたい。君は僕の地位に魅力を感じないのか?」

「何一つ感じません」


 また王子が絶句した。ホント何なの、この人。


「お、おぉ……こんな人は初めてだ……ついに、ついに……」

「つまり報酬はマイプリンセスということでいいんですか?」

「……そのつもりだった。でも」

「ちぇりゃぁぁぁッ!」

「ぐうぉッ!」


 王子に杖による突きを放つと、どしゃりと倒れた。

 片手で杖を振り回して、そして床に叩きつける。


「報酬もないこの感触、まったくもって不快です」


 砕け散った床の破片が飛び散って、騎士達の足元に転がる。

 王子に駆け寄る騎士達を尻目に、私の怒りは頂点に達した。


「王子!」

「き、貴様ァ……!」

「あ?」

「うッ……!」


 睨み返すと騎士達が怯む。

 杖を振ると、風圧で騎士達がのけ反った。


「で、報酬は?」


 もう一度、杖で床を破壊したところで騎士達はまた怯んだ。

 とっととその王子を起こして報酬を用意させて?


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