第46話 ミッションだけが報酬じゃないです
「ほーしゅうっ! ほしゅほしゅほーしゅっ!」
ファフニル国の隣国、エクセイシアに来てから私は常に機嫌がいい。
隣国にいた時よりも報酬の羽振りがいい気がしたし、ついテンションが上がって魔物狩りだけでこの場所に何日も滞在してしまった。
普通は周辺の町とか探すはずなんだけど、その必要はない。
マスターナイフがあれば大体の魔物は食材になるし、野菜不足については野草がある。
その辺はフィムちゃんが詳しくて助かった。
「師匠! 野草を採ってきました!」
「ナイスっ!」
フィムちゃんは無尽蔵と思える体力で、ひたすら野山を駆け巡ってくれる。
魔道車内に肉や野草をストックしておいて、いざ長旅になっても安心だった。
そして料理担当はミリータちゃん。私は味見担当とバランスがいい役割分担だ。
「マテリ、そろそろここから動かねぇか? ずっとここで戦ってもしょうがねぇ」
「そうだね。次は王都を目指してみようか」
「次なる修行の場ですね……! 腕が鳴ります!」
とか気合が入ってる子がいるけど、どんな魔物も大体瞬殺なんだよね。
修行という意味合いではあまり身になってないと思う。
でも本人が満足してるのが大切だ。
魔道車を発進させた後、私は報酬をテーブルの上に並べて眺めるのが日課だった。
「はぁ~……一生見てられる……」
「なるほど、師匠。アイテムへの観察眼を鍛えるのですね」
「そうだね……うわっ!?」
フィムちゃんが真似して凝視し始めた時、魔道車が急停止した。
「ミリータちゃん! なにかあったの?」
「誰かが魔物に襲われてる!」
えー、助けないとダメ? ダメだよね。
面倒だからここはフィムちゃんに――
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ミッション発生!
・マジックゴーレム(水)を討伐する。 報酬:エリクサー
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「師匠、ここはボクが」
「っしゃあぁぁーーーーーーー!」
魔道車から飛び出してから頭や手足が大きい水球で構成された変な魔物に突撃した。
エリクサー。これ実は先日、もらったことがある。
体力と魔力を完全に回復する超レアなアイテムだ。
自分で使ってもいいけど、売ったらものすごいお金になる。
使ってよし、売ってよしの優れものだ。
「ファファファファファボアァァァァーーーーー!」
連続した火の玉が直撃して、マジックゴーレムは一瞬で蒸発した。
見たことない魔物だったけど私の敵じゃない。
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ミッション達成!
エリクサーを手に入れた!
効果:体力と傷、魔力を完全に回復する。
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「何個目かのエリクサーきたぁーーーーーーーーーーーーーーー!」
「売れば当面の資金には困らねぇ!」
「さすが師匠……。ボクには荷が重い相手だったということですね」
いや、たぶん瞬殺だけどそういうことにしておこう。
ミリータちゃんは売る気満々だけど、お金に困った時に売ればいい。
食料は何とかなってるし、私達のお金の使いどころは日用品と娯楽費のみ。
たまにいい宿に泊まるのもいいんだよね。
「あの、どなたがわかりませんが助けていただいてありがとうございます」
「え? あ、はい」
そこにいたのはみすぼらしい恰好をしたおじさんと私と同じくらいの年齢の女の子だ。
女の子のほう、二杖流とは素っ頓狂なスタイルでいらっしゃる。
なんだかシンパシーを感じないこともない。
「マテリ、人のこと言えねぇようなこと考えてねえか?」
「えー、そんなわけないじゃん」
ミリータちゃん、恐ろしい子。
ファフニル国では私に影響されて一部の冒険者が始めたとは聞いてるけど、ここは隣国だ。
まさか私に影響されたなんてそんな偶然があるわけない。
「王都へ向かう途中、あのような魔物に襲われて……。あ、申し遅れました。ワシはダクマン、とある町のしがない貴族です」
「私は娘のルーシエ、改めて感謝します」
貴族と聞いて意外だった。
私のイメージでは煌びやかな服を着飾っていて、体形は大体わがまま。
ハマキなんかをくわえて偉そうにしてる。
でもこの人達はそんなのじゃない。
「貴族、貴族ねぇ」
「あ、貴族といってもお飾りですな。爵位も男爵で、今ではすっかり落ちぶれております」
「はぁ、それはそれは……」
「厚かましいお願いとは承知しておりますが、我々を王都まで護衛していただけないでしょうか? あ、代金はもちろんお支払いします」
「それならいいですよ」
貧乏とはいえ貴族、護衛もつけられないほど貧乏。
訳ありかなと思ったけど、報酬があるなら問題ない。
「ありがとうございます……。私達は何としてでも王都へ行かなければいけないもので……」
「うんうん、報酬のほうよろしくお願いしますね」
貴族達を乗せて、魔道車が再び発進した。
私は納得しているけど、ミリータちゃんは少し疑わしそうに運転しながらちらちらと見ている。
確かに訳ありみたいだけど、報酬の前じゃ些末な問題だよ。
「おめぇら、王都に何をしにいくんだ?」
「……実は私の娘こそが王子様が探し求める人物なのです」
「は? なんだって?」
「先日、王都から各町や村へお触れがございました。なんでもクリード王子は二本の杖を持った少女を探しているようで、名乗り出た者には相応の報酬を授けるようです」
「ほーしゅー!?」
王子が報酬?
それが本当ならこの親子の魂胆は読めた。
それらしい格好をして王子の下へ行けば、報酬が貰える可能性があるからだ。
なるほど、これは私にとってもチャンスかもしれない。
「クリード王子は国民人気が高く、お近づきになりたいと考えている女性が多くいます。うまくいけば娘のルーシエも……」
「お父様! 私、ガッツリ玉の輿に乗るわ!」
これはなかなかの話が転がり込んできた。
王子ともなれば、その報酬はさぞかし弾むはず。
なんでそんな意味不明なお触れを出したのか知らないけど、私が乗らないわけがなかった。
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