第30話 取引しましょう

 城内は不気味なほど静かだった。

 どうもアズゼルは四魔将以外の手下がいないらしく、変なエンカウントもない。

 おかげでミッションが発生しないし、アズゼル討伐は思ったよりおいしくないミッションかも。

 いきなりアズゼルのところへ直行してもいいんだけど、その前に寄るところがあった。

 それは地下牢だ。


「そ、そなたは……」

「やぁ、王様。元気にしてましたか?」


 地下牢に囚われていたのは紛れもないこの国の王様だ。

 私を召喚した時の仰々しさはどこにもない。

 見るも無残なほどボロボロの服装で片手がなく、外傷だらけだった。

 さすがの私もこの姿を見てざまぁみろと言うつもりはない。


「お父様、こちらのマテリさんが助けにきてくださったのです」

「なんだと……それは本当」

「いや、そんなことは一言も言ってませんよ」

「え?」


 助けないとは言ってないけど、助けるとは言ってない。

 私が何のためにここに来たか。

 それは交渉するためだ。


「王様。事情は聞いたし大変ですよね。私も過去のことをどうこう言うつもりはもうないんですよ。私はこの国を救いにきたのです」

「そなたのクソスキルで可能だというのか……? クソスキルのそなたが?」

「二回も念入りに言わないでくださいね。クソスキルがここまで来られるわけないでしょ?」

「ぬぅ……ということはやはり有用なスキルであったか!」


 怪我人とは思えないほど大声を出した。

 あのアズゼルはどういうつもりでこの王様を生かしたんだろう?

 私がアズゼルなら普通に殺してるよ。


「そうかそうか! 私の目に狂いはなかった! よくぞ戻った! マテリよ!」

「あの、ふざけてると帰りますよ?」

「この国を救いに来たとは、そなたこそが真の勇者だったな!」

「帰ろ」

「ま、待て! あのアズゼルを倒せるほどのスキルなのだな!?」


 この妄信的なまでのスキルへの信頼はどこからくるんだろう?

 まぁ確かにクリア報酬は神スキルだけどさ。


「勝てますよ」

「言い切るか。ならば、行け! マテリよ!」

「ただし条件があります」

「じょ、条件だと? 金なら多少はくれてやってもいいが……」

「多少って。もしアズゼルを倒せたら、こちらのシルキア様に王位を譲ってほしいんです」


 王様が固まった。絶句してる。

 国を救っても多少の金しかよこす気がないような王様だからしょうがないか。

 私としてはこの国が救われないと普通に困る。

 単純に不便だし、人がいることで発生するミッションだってあるかもしれない。

 それに国が救われたとしても、クソスキル税とかやってる王様がトップにいるんじゃ本当に滅びかねない。

 私にとってデメリットだらけだから、この条件をふっかけたまでだ。


「き、貴様……何を訳のわからんことを言ってる! シルキアのスキルを知った上でほざいてるのか!」

「知りませんし、そこはどうでもいいです。条件を飲むか、飲まないか。それを聞きたいのです」

「そんなもの飲めるか!」

「わかりました。では私はこの国を去ります」

「なにっ! おい!」


 踵を返したら、慌てて引き留めてきた。

 私としては普通にアズゼルは討伐するけどね。

 ただで討伐するのはもったいない。


「そなたなら倒せるというのか! スキルの詳細を言え! それ次第だ!」

「クリア報酬。提示されたミッションをこなしたら、例えば幻のラダマイト鉱石とか手に入ります。はい、これ」

「ラ、ラダマイトだと……!」


 本物を見せると、王様が震えながら手を伸ばしてきた。

 他にもいろんなアイテムを見せつけると、すっかり顔色が変わる。


「ほ、焔宿りの杖……。これ一つで爵位が買えるとすら言われている……。聖命のブローチ……国宝とすれば永遠の繁栄が約束されて……。ご、ごごご、剛神の腕輪ァァァァ!」

「ちょっとさすがに静かにお願いします」

「国潰しの英雄ダンダロスが身につけていたあの伝説のォォ!? に、偽物だ! クソスキルめぇ!」

「まだ言うか」


 私達が倒した四魔将の詳細を伝えることで、ようやく半信半疑だ。

 ここまでもってこられたなら十分、後は揺さぶるだけ。


「このままだと国ごと終わりですよ。仮にこの後、王様がどこかに逃げ延びたとしてもアズゼルは勢力を拡大するでしょうね。

そして王様が召喚したこともバレるでしょう。魔族からも人間からも狙われる日々になりますよ」

「うぬぬぬ……!」

「私も忙しいんでそろそろ決めてください」

「ううぅぅ! うううぁあああぁぁーーーーー!」


 発狂しちゃった。

 そもそもこんな事態になったのはあなたのせいだからね。

 呼吸を荒げて、なかなか苦しそうだ。


「……のむ」

「はい?」

「頼む」

「アズゼル討伐を?」

「頼む……」

「成功したら王位をシルキア様に譲ります?」

「う、む……」

「ちなみに約束を破ったらどうなるか、理解してます?」

「ど、どうなる?」


 破る気満々じゃないの、この人。

 手っ取り早く教えるために、私は焔宿りの杖で使ってない牢の鉄格子を殴った。


「てぇいっ!」


 鉄格子はひしゃげるどころか、千切れ飛んだ。

 囚人を閉じ込めておく場所だけあって、こういうのは簡単に壊せない作りになっているはず。

 それを踏まえた上で王様は腰を抜かしていた。


「う、うむ」


 よくわからないけど、納得してくれてよかった。


                * * *


「シルキア様、城の構造について質問していいですか?」

「は、はい。どのような部分についてお答えすればいいのでしょうか?」


 さすがの私も魔界の王だの混沌を司ると聞いて正面から突撃するほどスキル中毒じゃない。

 アズゼルが王の間に居座ってるなら、私はその下を行く。

 ちょうど王の間の下に位置するフロアは一階の大会議場とのこと。

 私はいよいよアズゼルに挑むことにした。この王の間の下から。 


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