第28話 私は聖女ではありません

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ミッション達成! エンチャントカード・魔族特攻を手に入れた!

効果:武器にエンチャントすることで魔族への特攻効果が得られる。

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「カ、カードォ!?」

「カード! 生まれて初めて見ただ!」


 さすがの私も今までのアイテムと違った異質さのせいで、テンションが素直に上がらない。

 見た目は何の変哲もない長方形のカードだ。

 ミリータちゃんの話によるとこの世界には誰が作ったのか、魔法のカードと呼ばれるものがあるらしい。

 アイテムにエンチャントすることで様々な効果が得られる。

 そしてこの魔族特攻、かつて英雄が身につけていた装備にもあったものだと説明された。

 貴重どころの話じゃなくて、そんなものがあったら苦労しないと誰もが言う身も蓋もない存在だ。


「これ、どうする?」

「もちろんマテリが使うといいだ。効果はファイアボォにも乗るかもしれねぇ」

「私のあれってファイアボォ呼びで定着したんだね。じゃあ遠慮なく……」


 カードを杖に差し込むと普通にスッと入っていった。ちょっとビックリ。

 見た目は変わらないけど、これで魔族特攻が得られたのかな?

 杖を振り回してみたけど、やっぱり何の感触もない。


「魔族って今の鎧戦士みたいなのも含まれてるのかな?」

「明確な定義はわからねぇな。何せ魔族なんてのはずっと存在を確認されてなかったからなぁ」

「そうなんだ。とにかく早く試してみたいなぁ」


 いいアイテムを手に入れて一息つくと、さっきから熱視線を感じる。

 そういえば誰かが戦っていたような?

 脊髄反射で攻撃したから巻き込んじゃったかも?


「はぁ……聖女様……。なんとお美しい……」


 私以外に誰もいないよね。

 死体ならたくさんあるけど、そんな中であの人は何を言ってるんだろう?

 なんか怖くなってきたから関わらないほうがいいか。


「ミリータチャン、行こう……」

「あの! 待ってください」

「ついに話しかけてきたか」


 普通にスルーしてくれるかなと思った。

 駆け寄ってきたその人は私と同じくらいの年齢で、見た目は剣士。

 金髪を後ろでまとめて腰の鞘も合わさると、勇ましい女の子って感じだ。


「な、何か用?」

「聖女様、助けていただいてありがとうございます。しかし私の礼など必要ないかもしれません。あなたにとって人助けなど呼吸のごとく当然の行為……。私のような人間のエゴだと思ってくださいませ」

「う、うん」

「私はファフニル国の王女シルキア、この国を取り戻さんと奮起したのはいいのですが力及びませんでした。聖女様がご降臨していなかったら、私の命はありませんでした。その上で今一度、お願いします。

これは王女として、国を想う人としての願いです。聖女様にこのようなことをお願いするのは憚れます。人助けはあなたにとって呼吸……。ですが、私は言います。どうかこの国をお救いくださいッ!」

「う、うん」


 王女以外のフレーズが何一つ入ってこなかった。

 しかも思わずうんとか言っちゃったよ。

 どうせアズゼルを討伐するのが目的だからいいんだけどさ。

 でもこれ、万が一にでもミッションが発生しなかったらと思うと確実に安請け合いだよ。

 そっか、王女様か。

 あの王様の娘なのに、人に頭を下げることは知ってるんだ。

 あの父親はどこに常識を忘れてきたんだろう。


「あぁ! やはりお救いしていただけるのですね!」

「やはりとか言わないでください」

「現在、アズゼルは王の間にいるはずです! しかし残り四魔将の一人、リマックマは不可解な術を使います。あの術に惑わされては聖女様といえど……」

「マスコットみたいな名前してますね」


 あの王様の娘だけあって、ベクトルは違えどやっぱり変な子だ。

 でも自ら剣を手に取って戦っていたんだから、絶対に悪い子じゃない。

 そして報酬もないのに命をかけられる精神は私からすれば理解できない境地だ。

 それからシルキア王女様は私に根掘り葉掘り質問してくる。

 聖女としての心構え、そして聖女とはなにか。私が聞きたいわ。

 突っ込む暇もなかったけど、なんでここでも私が聖女扱いされてるのさ。


「聖女様。あちらがお城です」

「あそこに報酬が……じゃなくて諸悪の根源がいるんですね」

「はい。特にアズゼルはこの世に君臨すれば世界を滅ぼしても余りある力を持つと言われています。そんなものを呼び出す危険性を知っていながらお父様は……」

「王様はご無事ですかね」

「それは……」


 私は嫌いだけど一応、父親の心配だけはしておこう。

 聖女なんかじゃないけど最低限、人を元気づけるのも悪くない。

 何より国を救えば、そこら中にミッションが起こる可能性があるからだ。

 そう、私にとって不都合なのはアズゼルとかいうのが支配しているせいでミッションが減っちゃうこと。

 混沌の魔王だろうが何だろうが、私の前に立ちはだかるなら等しく報酬だ。


「くーくくくくまっくまっ! ようこそぉ! 人間ども、私が」


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新たなミッションが発生!         

・リマックマを討伐する。報酬:リマックマのぬいぐるみ

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「ファイボォッ!」

「ひぃッ!」


 姿は見えないけど、つい脊髄反射でファイアボォしちゃった。

 でも惜しかったみたいで、なんか悲鳴が聴こえたな?

 どこかなー?


「く、くくくまっくまっ……なかなかいい勘をしていますねぇ。しかしこの私の姿を」

「ファファファファファファアアアァァァッ!」

「さ、ささ、最後まで話を」

「ファイアボォォル!」

「ぬぉぉっ!」


 チッ、惜しい。

 こそこそ逃げ回りやがって。

 とっとと当たって報酬になったほうが楽になれるというのに。

 次こそ当ててやる。

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