第70話 勇者対英雄

(もしこれが俺の望んだ英雄なら…使えるかもしれないな)


カイトと剣で打ち合いながらエイトは考える

まだ確証はないが、相手は腐っても勇者

油断していれば、英雄如きはあっさりと負けてしまう

今まともに戦えるのは前世の知識のお陰だ


ミュウとエイトは前世の世界であらゆるゲームに挑戦してきた、しかしただプレイしただけではない

それに伴った知識もある


それが今勇者カイトとまともに戦える理由の1つでもある


先ずは1つ目


「くそ!なんで当たらない!!」


それは動体視力、そう言ったゲームをプレイするにあたって、上級者へと上がって行くと必ずこれが必要になる


一瞬の油断が命取り、ゲームオーバーに繋がりかねないので、僅かな隙をも見せてはならないのだ


それが今カイトの剣捌きを目で見る事ができ躱し、いなし、反撃にも繋がっている


「ハァ!!」


「クッ!!」


2つ目は瞬間的判断力である


動体視力が良くても、躱すだけでは意味がない、ゲームでもそうだが、攻撃して相手の体力、ライフポイントを削らなければならない


エイトはカイトが動いた瞬間の隙を瞬時に考え、ほぼ無意識で攻撃している

これによりカイトは連続して攻撃する事が難しくなり、苛立ちが増す


そして3つ目…


「雷光一閃斬り!」


一瞬光ったとカイトが認識した瞬間

既にエイトはカイトの後方にいて

そしてそれに反応する前に全身にダメージを負う


(…やはり使える…これなら今の俺でもカイトに勝てる)


最初の戦いは担任の先生やカイトのハーレム集団達の妨害を気にしながら戦っていたが

今はその脅威はさほどない

(まだ恐れはあるが、先程よりはマシ)


「ゴホッ」


口から血を吐き出し、その血を見てカイトはこちらを睨み付ける


「モブのクセに…勇者である僕に怪我を負わせるなんて…!!!」


「悪夢の斬撃、ナイトメアスラッシュ」


「な!?消えた!?」


後ろを振り向き、剣を構えたカイトだったが

一瞬で消えてあたりを見回す


「どうせ後ろだろ!!」


そう言って剣を後ろに向けて斬ると

風だけを斬る"ぶん"と言う音だけしか聞こえず戸惑うと


「そうだよ?後ろだよ?」


「ガバ!?」


エイトはカイトの正面にいたが、カイトが背中を向けてくれた為、カイトの予想通りの背後からの攻撃となった


「常闇の剣」


(クソ!これ以上斬られてたまるか!)


エイトがまた仕掛けて来た為後ろに下がろうとすると…


「な!?う…動けない!?」


身体が固まったかの様に、身動きが取れなくなってしまった


「俺の剣がお前の影を刺している、それによってお前は身動き1つ取れはしない。」


カイトは見えないが、エイトが前から見ると自身の剣がカイトの影に刺さっており

まるで金縛りの様にピクリとも動かない


「この卑怯者!正々堂々勝負しろ!」


「どの口が言うんだよ、卑怯者。」


カイトが言える口ではないのに、良くもまぁ言えたものだ、そう思いながら

エイトはトドメをさす為に剣を構えた


「おい!良いのか!僕は勇者だぞ!そんな事をしてタダで済むと思っているのか!婚約者であるミュウが黙ってないぞ!」


カイトは命乞いと言う名のマウント自慢をする、その姿がとても腹ただしく

怒りが増す


「先生にあんな酷い事をして!お前は退学だ!ザマァwこれでミュウは僕の物だ!お前の様なモブは女にもモテないで1人惨めに死ね!」


「……言いたい事はそれだけか?」


「僕のパパとママが黙ってないぞ!お前なんか即刻死刑だ!貴族である僕に平民の汚いモブ風情がイキがるな!お前の親も皆殺しだ!」


最後は脅しまでかけて来たが

今のエイトにはどうでも良い事だ

親は助けたいが

姉妹とは既に冷めてきっている


「ミュウは僕の物だ!モブは黙って無様に撥ねられて死ね!」


「天下無双"千本桜"ぁ!!!」


「ピギャアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


散った花は2度と元には戻らない

その散る姿はとても美しく

そして儚い


エイトの斬撃はまさにそれで

縦横無尽に飛び交う姿は桜の花びらの様に咲き誇り

最後の斬撃で散り終わったかの様な名残惜しさを残しながら


カイトは奇声をあげながら力尽き、その場に崩れ落ちる


「勝負ありだな…いや、これからが面倒くさいのか。」


先程から聞こえるブーイングをする女達を見ながら、エイトは溜め息を零して

剣をしまった


——————————————————————

カイト エイトの斬撃を喰らい

    再起不能(リタイア)














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