第35話 2人の秘密

海斗に付き纏われてから早数年、今日はカラオケに誘われたが、2人はお金がない為、断った


と言うのは建前で、本当はカラオケに行きたくないのと、とある用事が2人にはあったのだ…それは


「…ぴゃぁ」ぴょこん


橋の下、とある段ボールの中にいる小さな動物が、かわいい声をあげながらこちらを見つめた


「遅くなってごめんな。」


「すぐにご飯にするからね?」


そう言うと先程買ってきたミルクと餌を器に装ってあげる


「ぴゃあ!」タタッ


小さいながらも素早く駆け寄ってきて、伸びている爪が脚に刺さる


「おいおい、痛いよ?」ふ


「もう、せっかちなんだからぁ」フフッ


その懸命(けんめい)な姿がより愛おしく、2人は笑顔で餌をあげる


「ほら、誰も盗らないからゆっくり食べな?」


「誰か来ても私達がいるから平気よ?」


そう言うとちびちびと食べ始め、2人はその頭や身体を撫でた(勿論後で手は洗う)


「みゃ.みゃ.みゃ…みゃぁ!」


「はいはい、まだあるわよ?」


「本当、その小さい体の何処に入るんだよ?」


そう言いつつも、しっかりと餌はあげる

2人とも笑顔ではいるが、その瞳は悲しみに満ちていた


「…ごめんね、本当は家で飼いたいんだけど……」


「許してもらえなかったからなぁ」


2人がこの仔を見つけたのは中学卒業の日海斗が珍しく1人で帰った為、2人はゆっくりと帰っていた時に見つけたのだ


それから数ヶ月、飼い主が見つかるまでの間、職員の人達に見つかり殺処分にならない様に、2人はここでひっそりと育てていた


「…もし、俺たちが一人暮らしだったら。」


ペット飼いOKな家ならもしかしたら


「飼えたかもしれないわね。」


しかしそれはたらればの世界、現実はこうで、2人は飼えず、ここでひっそりと育てている


それでも2人にとっては幸せだった

この仔は日頃のストレスから解放される癒しがある、この仔は心の支えの1つと言っても過言ではない


「ぴゃあ!」タタッ


「おっと…」


「フフッ、ありがとう。」


食べ終わったのか、こちらに近づき、足元で自分の体を擦り付ける

マーキングの一種だが、これは多分

「ありがとう」と言っているのだろう


(おしっこをかけられてないので、そうであって欲しいと言う気持ちもあるが…)


「さて…ちょっと付き合ってもらうよ?」


「ふ.ふ.ふー…お楽しみはこれからよ?」


「ぴゃあ?」


2人が不敵に笑うと玩具(健全)を取り出して…


「ぴゃあ!」ぴょん!


喜んで飛んでくるのを躱しながら、遊ぶ


「ほらほら、こっちこっち!」


「フフッそれー!」


走り回るのではなく、座りながら自分達の手の届く範囲で遊ぶ

それでも小さいのでこの仔は少し走り回るが、とても楽しそうだ


「ぴゃ!ぴゃ!ぴゃあ!」ぴょん!


「天使」


「癒し」


無邪気な姿で動き回る姿に癒されながら、暫くの間楽しんだ


——————————————————————

「ぴゃあ…ぴゃあ…」スースー…


「…寝ちゃったか。」


「元の場所に戻して、私達も帰ろ?」


遊び疲れたのか、可愛い寝息を立てながら眠るので、起こさない様にそっと運ぶ


気がつけば夕日も傾き始めていた

2人は玩具と餌を片付けて、そっと段ボールで出来たベットに起こさない様に置く

そして簡易布団を被せて、そっとその場から立ち去る


橋の下の日陰の為、雨の日でも濡れず、他の人に滅多に見つかることもない


「明日も来るからな。」


「良い子で待っててね?…シルフィ。」


「…ぴゃあ。」


そう言うと2人は小さい仔猫のシルフィに言ってその場から去る


…その光景を誰かが見ているとも知らずに………


「………」カチッ


————————————————————

海斗へのヘイトや早く本編へと言う皆様へ

まだまだ続くのでもう暫くお付き合いください。


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