17話
「――施しを受けて当たり前と思っている寄生虫共、良く聞け! ここにいるのは、ヘイムス王国側の商工ギルドから斡旋された奴らだ! 喜べ、テメェ等みたいなカスに、仕事と住居を与えてくれるそうだッ!」
「――な……っ。俺たちを、売るってのか!?」
「ふざけないで、私達は物じゃないわ!」
クズの一方的な言葉に、難民が声をあげて抗議する。
その声は一人二人――やがて伝播するようにドンドン大きくなっていく。
そんな民衆から投げかけられるなじり声に、クズは怒りに震えながら――。
「……黙れ」
「ああ⁉︎ なんか言ったか、人でなし!」
「黙れって言ってんだよ」
「黙るのはあんたの方よ、極悪人ッ!」
「虫唾が走るんだよ、クソボケ共がぁあああッ!」
無表情だったクズが馬から降り――大地に剣を突き刺す。
「今のテメェ等は物なんて上等な存在じゃねぇ、精々が寄生虫だッ!――錬成ッ!」
大地に突き刺さった剣から魔力が流れ――ボコボコと土が隆起していく。
それはクズの怒りを体現しているかのように大地を揺らし――難民達を囲う塀となった。
「ひぃいいい……ッ! なんだ、この魔力は……ッ!」
「あ、足も……固定されてるぞ!」
当然、逃げられないように足下も固定されている。
「……待たせたな。連れてってくれ」
「……いいんですかな? 誤解を解かずに」
「俺から何を言っても、無駄だろうよ。――寄生虫に言葉は通じねぇ」
「寄生虫状態のまま引き取るのは、我々の矯正が大変なのですがな……」
剣を鞘に収めたクズが馬に乗ると、商工ギルドの代表の一人が――顎髭を撫でながら言った。
(確かに、この腐った精神のまま連れてってくれってのは都合が良すぎるか……)
そう思ったクズは、代表に「寄生虫状態から簡単に戻るとは思えねぇ。だが、あんたらの好きにしろ」と告げた。
「ありがとうございます。――難民達よ! ギルバート殿を恨むのは筋違い、恥さらしの行為じゃ!」
「な……っ。こんな奴隷狩りみたいな奴を恨むなってのか、ふざけんな!」
「恥は貴方達の方よ! 人でなし!」
「――黙れ! 永遠に働かずとも食事が出てくると思ったか! 人に寄生し、施されて当然という態度を平然と取る者が恥でなく何というかッ!」
「それは……俺たちは、一時的に……っ」
「言い訳を重ねるな! 本来、貴様等は船で死んでいた可能性だってある! 命を救ってくれた上、貴様等の為にギルバート殿は――最下級傭兵にまで身を落としたのだぞ!」
「……え?」
商工ギルドの代表の言葉に思わす声を漏らしたのは、失落の飛燕団の団員達だった。
「彼は実力に見合わぬ最下級傭兵として『どんな依頼もこなす代わり、三百人の難民を従業員として受けいれて欲しい』と我々に頭を下げて回ったのじゃ! 貴様等が施しを受けて当たり前と、恥を晒している間にな!」
「そんな……義兄様が?」
「クズ君……。そうか、脱退して地位を捨て……。失落の飛燕団傘下のクランを新たに作れば、実力の信用はそのまま、ギルドでの依頼料は格安になるって事かい」
不在だったこの二週間。
マタとナルシストは、クズがどんな意図を持って行動していたのか――察してきた。
「ギルバート殿は全ての依頼をやり遂げた! 挨拶代わりにと違法商人を手土産に、そして帝国側領主の不正や帝国民、ヘイムス王国民への虐殺や違法奴隷を得ている証拠までヘイムス王国へと届けた。帝国の領主は罪を認め、帝都へと送還されるに至った。――お陰で我が王国は今後、帝国に対して強く当たれるッ! ここまでの心意気を見せる傑物に対し、貴様等はどんな顔で文句を言うか! その間、貴様等は何をしていたか思い出せ!」
「そんな……あの悪徳領主が」
「私達は……ただ、辛くて……」
「貴様等は本来、労働奴隷になっていた。――それでも、ギルバート殿は貴様等に配慮を求めた。衣食住を与え、安全を保障してくれと。そして真面目に働き、奴隷としての販売予定金額……概ね四百万ゼニー分を自力で稼げば、貴様等を自由階級にしてくれとな! 何も技能を持たぬお前等を受けいれ、我々が一から技能を叩き込むという手間を受けいれた理由は、ひとえにギルバート殿の功績によるものだ! 彼が感謝こそされど、恨まれるいわれがどこにあろうか!」
難民達も、傭兵団も言葉を発さない。
「貴様等の衣食住を与え、生きる為の技能と自由まで与えてくれるよう願った恩人に対し、なんという言い草かッ。恥を知れ!」
まだ納得がいかない、あるいは頭がついてこないのだろう。
難民達は唇を噛み、屈辱に震えていた。
だが、もう暴徒のように抵抗するつもりはないようだ。
沈黙が場を支配する中、馬に乗るクズは――ハッと鼻で笑った。
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