1-5
「うわ。」
レイがぬかるみに足を取られて転びそうになった時、ハルヒトが片手でレイの腕を掴み、体を支えた。
「大丈夫か、気をつけろよ。」
「ありがとう。」
小雨の中、2人が歩き続きているそのうちに、段々と視界が晴れてきた。
「あともうちょっとだな。」
そして次第に雨も晴れ、2人はやっとの思い出密林を抜け出した。そして2人の目線の先に映ったのは荒野や密林とは違う、何とも賑やかな街であった。
初めて見る街の光景に、レイは驚きあちこちを見てはすごいと感嘆の声を漏らしていた。そんなレイの姿にハルヒトは笑いながら街の中へと入っていく。すぐ後に続いてレイも街の中へ入り、すれ違う人々を避けながら必死にハルヒトの後を追った。
「...手繋ぐか。」
「うん。」
ハルヒトがレイの手をしっかりと掴み、レイも離さないようにとなるべくハルヒトにくっつくように歩いた。
「どこに行くの?」
「買い物しに行くんだよ。その格好のままじゃなにかと不便だろ。」
「...?」
レイは知らないようだったがレイが今しているワンピースよような格好は、この世界では奴隷を意味する格好であった。
「それに、ローブももう使いもんにならなくなっちまったからな。」
レイが被っていたボロ布はどうやらローブであったようで、雨にさらされたローブは真っ黒に汚れてしまっていた。
「その辺に捨てといてくれ。」
ハルヒトに言われた通り、レイはローブをポイッと地面に捨てた。それが道行く人に気付かず踏まれていった。
「えーと服屋はどっちだったっけな。」
ハルヒトはレイを連れてあっちに行ったりこっちに行ったりウロウロしていたが、やがて1軒の大きな看板が吊り下げられたお店の前までやってきた。看板には〈絡繰御服亭〉という文字が飾られている。
マサヒトは絡繰御服亭の戸を開け、中に入るとそこには文字通り沢山の服が丁寧に並べられており、奥には店主と思われる人が立っていた。
「いらっしゃいませ。」
その人はにこやかな笑顔を浮かべて、ハルヒトとレイを交互に見、頷いた。
「子供服はあちらの奥にあります。どうぞゆっくりご覧下さい。」
2人は言われた通りに奥の方へと進むと、少し小さめの服が沢山並べられているところへと来た。
「欲しいのはあるか。」
ハルヒトがレイにそう聞くとレイは服の前で突っ立って微動だにしなかった。見かねたハルヒトが、色んな服を物色しながらレイに言う。
「ほら、なんでもいいんたぞ。このフリルがついたやつとか。あとは〜...ブラウスだっけか。他にも沢山あるぞ。」
「うん。」
どうにか興味を持ってもらおうと一生懸命服を手に取る春人。しかしレイはどれも興味無さそうにあしらい、隅から隅まで服を見ていた。と思えば、ある一着の服を手に取って、ハルヒトに手渡した。
「これがいい。」
「これか...?」
レイがハルヒトに渡したのは、白いシャツに茶色のベストが着いた服。今ハルヒトがしている格好ととても似通っているものであった。
「本当にこれでいいのか?」
「これがいい。ハルヒトと一緒でしょ。」
ハルヒトは調子が狂うのか、だがレイが選んだ服ならばとそれをしっかりと手に持った。
「で、上は決まったが...下はどうするんだ。なんでもいいか。」
「うん。でも動きやすい方がいい。」
「どうしてだ?」
「転んだりしたら危ない。」
レイは密林で転びそうになったことからそうハルヒトにつげた。ハルヒトも確かになと言い、ズボンを一着、そして歩きやすそうなブーツを一足持って店主がいる方へと引き換えしていった。
「ハルヒトは?」
ハルヒト自身が何も買おうとしていないので、レイがそう尋ねると、ハルヒトは適当に一枚の布を服の中から引っ張り出して言った。
「俺はローブの変えさえあればいい。」
そしてハルヒトは品物を持って店主の前にドカッと置いた。店主は嫌な顔一つ見せず、品物の札を見て紙にペンで何かをメモしていた。
「相変わらずこういう絡繰りは好きになれねえな。」
実の所この店主はレイと同じ絡繰り人形であった。しかもレイと違う所は、こういった単純作業だけを繰り返す量産型である、という所だ。
「お会計5940ギアになります。」
ここの通貨はギアで統一されており、小さな硬貨でやり取りされている。ハルヒトは懐から白くジャラジャラと音を立てる袋を取り出し、それを乱暴に机の上に乗せた。
「はいよ、釣りはいらねえ。」
そして買った服を手に掴み、レイの服を渡した。
「今ここで着替えて行くぞ。試着室があるだろうからそこで着替えてきな。」
ハルヒトに言われた通り、レイは綺麗に整えられた試着室の中で、己が選んだ服を身にまとった。格好はシンプルで、動きやすい服装にレイは満足し、試着室から出てくる。試着室の外ではハルヒトがローブを身にまとってその場に立っていた。
「着替え終わったか。そしたら次にやるべきことをするぞ。」
「わかった。」
「...」
レイの相槌に、ハルヒトは少しばかり顔を顰めたが、一瞬のことで直ぐに絡繰御服亭から出て行った。
悠久の絡繰り御伽噺。 東 瑚斗寧 @kotone_12
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