サボテンが咲いている

天宮さくら

サボテンが咲いている

 日当たりが良い窓際に置いているサボテンが花を咲かせた。どっピンク色のけばけばしい花びらを眺めていると、購入した瞬間の感情がまざまざと思い出される。

「百均のサボテンなのに、花なんて咲くんだ」

 朝食のライ麦食パンとサラダを咀嚼そしゃくしながらぼんやりとつぶやく。

 水やりは気が向いた頃にするだけで、あとはずっと放置している。特に成長している風もなかったのに、まさか花を咲かせるとは。永遠に停滞している植物だから部屋の隅をいろどるのに最適だと考えたのに、認識が甘かった。

 物の少ない殺風景な白い部屋に、ぽつんと存在する緑色。そこにどっピンク色が追加された。百均のレジに並んだ時には想像できなかった見栄えに、朝っぱらから戸惑ってしまう。苛立ちを覚えつつも、こうして感情を乱される自分にどこかあんする。

 ──花が咲いたなら、このまま放置でいいのだろうか?

 なんとなく気になり、スマホで「サボテン 花」と検索する。せいで記事を読み飛ばしていると、気になる文章を見つけた。

『サボテンの花は咲いたらみましょう。枯れるまで咲かせていると、サボテン本体が枯れる原因になります』

 枯れてしまう。この事実にスマホを持つ手がほんの少し震えた。

 慌ててサボテンに手を伸ばす。棘に気をつけながらどっピンク色の花を指先でつまんで、むしり取ろうとするけれど、そこで手が止まる。

 ──私はいつまで抱えているのだろう?

 高いところから落下するかのような感情の急落。動揺はなくなり、冷え切った感覚だけが全身を包み込む。彼女から離れて何年経った? 数えるのも馬鹿らしい程に、遠い思い出に成り果てた。それを私はこの先もずっと一人、大事にするつもりなのだろうか?

 一日花を放置したところで、すぐすぐ枯れるわけでもないだろう。そう考え直し、サボテンを放置して出勤の準備を始めた。



 私が働いているのは大型スーパーの一区画を借りて商売している化粧品売り場。テレビで大々的に広告を流している化粧品から、雑誌でしか紹介されていない化粧品まで、幅広く取り揃えている。化粧品売り場の店員ということで、服装は黒一色。マスクで顔の大半が隠れてしまうのに、化粧は毎回バッチリ決めて出勤しなくてはならない。

 スーパーが開店して一時間後、やっと売り場を開放する。コロナ対策の一環で営業時間を短縮してからいまだに戻していない。誰もが営業時間の制限に慣れてしまったし、時間を短縮することで人件費をカットできた。もう二度と戻らないのではないかと予想している。

 今日は平日。しかもスーパーのポイント還元イベントをしていない。お客さんなんて滅多に来ないとわかりきっている。退屈をまぎらわすように化粧品サンプルを仕分けながら、一緒に売り場に立っている同僚の荒川あらかわさんと雑談した。

「そういえば榊原さかきばらさん、この間できた喫茶店に行かれました?」

 私は首をかしげつつ彼女に視線を向けた。荒川さんは私とは違ったタイプの美人で、全身に可愛らしさをまとっている。年齢は確か二十代後半。けれど、二十代前半と紹介されたら信じてしまう。そのくらい若々しいぼうを持っている。

「この間できた喫茶店というと……パンケーキ専門店?」

 私の回答に荒川さんは乙女のような笑顔でうなずいた。

 先月、スーパーの角スペースにパンケーキ専門店がオープンした。若者を取り込みたいのだろう、店の前にかざられている食品サンプルは、いかにも若者が好きそうな形をしていた。大仰おおぎょうなくらいに生クリームが乗っけられているパンケーキ。胸焼けしそうと不安に思いつつ、食べてみたいと欲求がいた。

「先日あそこのパンケーキを食べに家族で行ったんですけど、見た目よりも軽くて美味しかったですよ! おすすめです」

 荒川さんの笑顔に苦笑してしまう。彼女は二十代後半。私は三十代半ば。習慣で代謝たいしゃの違いを頭の中で計算して、あんなにも大量の生クリームなんて食べられない、と判断した。

『さーちゃんは太りやすいんだから、気をつけないと』

 親友の声がよみがえる。あれは、二人で近所にできたケーキ屋さんに行った時の言葉だ。私がシフォンケーキにえられた生クリームを丁寧にすくって食べていたら、そう言われた。

『さーちゃんは美人さんなんだから、カロリー計算はしっかりしなきゃ』

 彼女の言葉が私の人生をしばりつけている。

「興味はあるけど、あんなにも大量の生クリームを一度に食べたら太っちゃうわ。怖くて無理よ」

 笑いながら返事すると、荒川さんは「えー」と可愛い声を出した。

「榊原さんはもう少し太っても大丈夫ですよ。いつみてもスタイル抜群! うらやましいです」

「スタイルをたもつためにかなり努力しているのよ。カロリー計算、食事制限、ランニングや筋トレ、定期的にエステ。それプラス、化粧品の研究でしょ? お金がいくらあっても足りないわ」

 私の自虐じぎゃくに荒川さんが困ったような笑顔を浮かべる。彼女は三年前に結婚して、今は二歳になるお子さんがいる。対して私は独身の一人暮らし。彼氏がいた時期もあったけれど、今は完全にフリーだ。だからお金の使い方が自分磨きばかりに集中する。そのことを寂しいと思えない自分はかなり視野が狭いのだとわかっている。

 不幸せではない。ただ、どこか息苦しさを感じるだけ。

 それから少ししてお客さんがやって来た。荒川さんが対応する横で私は化粧品サンプルの整理をしつつ、ぼんやりとパンケーキを口に入れる瞬間を夢想した。



 仕事から帰宅し、ランニング用の服装に着替えた。今日は朝一の出勤だったので、まだ太陽が地表を照らしている。蛍光タスキは必要ないだろう。シューズを履く前に姿見で全身を確認し、鏡越しにちらりとサボテンを見た。

 相変わらず、どっピンクな花が咲いている。

 あれを買ったのは、親友が死んだと知らされた日の夜。ランニングコースにある百均にふらりと立ち寄り、買って帰った。あの時はなんとなく心許こころもとなくて、何かに頼りたくなったのだと思う。……もしかしたら彼女を忘れないようにしたかったのかもしれない。これだけ私生活に彼女が染み付いているのに、今更忘却ぼうきゃくもクソもないと思うのだが、それでも……離れがたかった。

 サボテンの花を摘むかどうか、まだ悩んでいる。ここから緑色の植物がなくなると想像すると、寂しくはある。けれど、いい加減、なくしてしまってもいいのではないかと思い始めてもいる。そろそろ解放されたい。頑張り続けている自分がむなしいし、私が求めていたのは美ではなかったような気がしている。

 ……ぼんやりしていても仕方がない。私は思考を切り替え、走りに出かけた。


 * * *


 私が親友の根津ねづ静美しずみと出会ったのは中学一年生の時。同じクラスになって存在を知った。静美は人見知りの激しい私が気に入ったらしい。彼女から「友達になろう」と声をかけてきたのがきっかけで仲良くなった。

 静美は、とても美しかった。同級生とは思えないくらい端正たんせいな顔立ちをしていて、髪の輝きはわく的。背景にバラを背負う、なんて表現が良く似合う女の子だった。

 そんな彼女はスタイルがモデル並みだった。中学一年生の時点で身長が一六五センチ以上あったし、その後も伸びて最終的に一七八センチになった。私も比較的大柄おおがらではあったけれど、一七二センチで止まった。だからいつも静美を見上げていた。

 静美は私の苗字みょうじ・榊原からもじって私のことを「さーちゃん」と呼んだ。

「さーちゃんはどうしてもっと美しくなろうとしないの? みがけば絶対美人さんなのに」

 それが静美の口癖だった。中学入学当初の私は食べることが大好きだった。特に間食が好きで、学校にお菓子をこっそり持ち込んで楽しむなんてことをしていた。それなのに運動嫌いときたものだから、体重は平均よりも重いのは当たり前だった。そんな自分の体型は大嫌いだったけれど、お菓子を食べるのを止めるくらいなら太っててもいいと考えていた。

 ぼうなんていつかおとろえるものだし、人生そんなに長く生きるつもりもないし。だったら好きなものを食べて死んでいく方が幸せじゃないか。

 中学生が抱くには達観たっかんしすぎた死生観を胸に秘めて生きていた。

 静美は私とは違い、今を輝かせるのが大好きだった。彼女は自分が美しい人間であることをよくよく理解していたし、友達候補である私にも美しくあって欲しいと願っていた。

 彼女と仲良くなるにつれて、美容の知識が増えていった。スタイルが良くなる運動、一日に摂取しても良いエネルギー量、それを消費する運動量、体に良い食べ物とダメな食べ物。自分をよりよく見せるための化粧、最新美容アイテム、自分に似合う服装の選び方。今の私の基礎はこの時代に築かれた。

 静美は学校の校則で禁止されている化粧をいつも薄くしていた。それが凄く似合っていて、見惚みほれるくらいだった。けれど、それを目のかたきのように叱る女性教員が数名いた。中学生が化粧なんて早すぎる、肌が痛む、自然が一番。そんな論調で彼女を責めた。けれど、男性教員は何も言わなかった。むしろ性的な目で見ていたのではないだろうか? 時々、彼女を贔屓ひいきにする教員もいた。

 静美は男子生徒からは憧れの視線を向けられ、女子生徒からは警戒された。だから私を親友に選んだのだと、今ならわかる。

 少しずつ「美しいことは武器になる」と教え込まれた私は、美の魔力に取りかれていった。間食を減らし、運動して、化粧に挑戦し、毎日体重を測った。結果が出ると嬉しくて、勉強よりも美容に夢中になった。変わっていく私に静美は喜び、二人の仲はどんどん深まっていった。

「さーちゃんは本当に太りやすい体質なんだね。気をつけないと」

 二人でパフェを食べた翌日、静美にそう言われた。当時中学三年生。私のお腹周りにあった贅肉ぜいにくはあらかた消え去り、静美と同じように薄く化粧して学校に行くようになっていた。体重管理は徹底的にしていた。だからこそ静美とパフェを食べに出かけたのに。

「どうして? ちゃんとカロリー計算して食べたよ? 別に問題なんか……」

「ほんの少しだけだけど」

 静美がそっと私の両頬を両手で包み込んだ。その瞬間、彼女の甘い香りがこうをくすぐり、心臓が変に鼓動した。端的たんてきに、そして下品に表現すれば──濡れた。

「ほんの少しだけ、顔が大きくなったような気がするの」

 静美のまつ毛が間近に見えた。つけまつ毛だと知ってはいたのに、その優美さに目が離せなくなった。

 彼女の視界いっぱいに私が写っている。彼女の瞳の中にいる私が私を見ている。中学入学時には考えられなかったくらいに美しくなった自分。静美の言う通り頑張ったから手に入れることができた美貌。それを好いてくれる、静美。

「ねえ、さーちゃん。一緒の高校に行こ? それで、二人で美容関係の仕事して暮らさない? 私、さーちゃんともっと一緒にいたいな」

 静美の願いを拒絶するなんて考え、カケラも思い浮かばなかった。

 それから私たちは勉強をそこそこ頑張って、近所の女子高に入学した。学校には寮があって、私と静美は迷わずそこに入った。毎日毎日、まるで結ばれたばかりの恋人のように、一緒にいた。学校生活の中で男性化していく女子生徒を横目に、二人仲良く美しさを求め続けた。腰のくびれはどのくらい欲しいか、胸の形はどれが理想か、太ももの太さはどこまでなら許容範囲か。髪を伸ばして、どのような髪型が一番可愛く見えるのだろうかと研究した。マニキュアは透明な色以外にも青、茶、紫、緑、黄なんて色も塗った。口紅よりもグロスが好きで、いろいろなメーカーの商品を二人で使い回した。アイシャドウは学校の休みにしっかり塗って、携帯で写真を撮りまくった。

 服は共有した。当時、私は静美の服を着れるようになっていた。背丈も近かったから、新しい服をたくさん買うよりも二人でシェアする方が金銭的に楽ができた。それに、静美が自分の一部になったかのようで嬉しかった。

 あんなにも静美にべったりな日常は高校時代だけだった。学校を卒業後、静美は服飾関係の専門学校に行き、私は化粧品を取り扱う会社に入社した。一緒に暮らしたかったけれど、地理的にできなかった。

 それでも休日になれば一緒に遊んだ。マニキュアを塗り合い、互いの唇に口紅を塗って、頬にチークを乗せた。マスカラをつけ合って、香水を共有し、髪を美しくった。

 このまま一生、二人で楽しく生きていけると期待していた。


 * * *


 ランニングから帰り、サボテンを見つめた。どっピンク色が暗い部屋から浮かび上がるような形で存在感を放っている。走っている間にこの花をどうしようか必死に考え、決断した。

「もう、枯れていいよ」

 そっと声をかける。けれどサボテンは返事をしない。当たり前だ、植物なのだから。話しかけてきたら気持ち悪い。でも、もし何か言うとしたら、その声はきっと──。

 考えるのを中断して、シャワーを浴びに風呂場へ行く。脱衣所で着ていたものを全部脱ぎ捨て、鏡に映る自分の上半身をまじまじと観察する。

 静美が美しいと褒めてくれた肉体。隅々すみずみまでサイズを測り合ったあの頃の体型を維持し続けている。そして、彼女がいなくなった今でも守りたいと躍起やっきになっている。彼女はあっという間に美容を捨ててしまったというのに、りちに彼女の理想を演じ続けているのだ。

 彼女のことを思うと自然と体がうずく。その反応に嫌悪を抱いたのはいつからだろう。それが誇らしかった時は随分と前に過ぎ去った。彼女は変わり、死んだ。私はそのまま、変われないでいる。

 今度の日曜日は、静美の一周忌。このタイミングで咲いたサボテンの花は何を意味しているのだろう?

 ……もう、忘れてもいいのかもしれない。

 自分で自分の胸を触りながら、熱を発散しようと妄想した。


 * * *


 私が社会人三年目の頃、静美が妊娠した。相手は専門学校の教員だった。勉強を教えてもらう内に盛り上がっちゃって、と言われた時はどうしようかと思った。彼女の両親はもちろん激怒した。けれど、静美の子供を見てみたかったようだ。めはしたけれど、二人は結婚した。結婚式は挙げなかった。

 子供ができたら疎遠になるというのは本当だった。毎週遊んでいたのに、隔週になり、月一になり、隔月になった。そのことがとにかく寂しくて、私は転職して彼女から距離を取ることにした。

 離れれば寂しさを忘れられる──あんを信じて遠くに引っ越したのに、日が経つにつれてどんどん静美にかけられた言葉が私を縛っていった。

 体重管理をし、程よい筋肉をつけ、カロリーを計算し、体に悪いものは口に入れず、自分の美しさを最大限発揮できる化粧と服装を心がける。少しでもおこたれば、記憶の中の静美が私の両頬をつかんで瞳を覗き込んでくる。

『さーちゃんは太りやすいんだから、気をつけないと』

 声が蘇るたびに私は濡れる。彼女が愛おしくてたまらなくなる。あの高校生活に戻りたいと渇望かつぼうする。けれど、彼女は変わってしまった。私が好きだった静美はもういない。彼女は消え去った。

 私が引っ越して三年後、久々に静美と会う約束をした。

「私の可愛い子を見てほしいの」

 その一言で、会うと決めた。

 静美と会うためだけに実家に帰り、ランチをしに出かけた。待ち合わせ場所は子連れオッケーの店で、店内には大勢の女性が子供と一緒に来ていた。店員に声をかけ、静美が予約した個室に移動した。その間、心臓の音が周りに聞こえているのではないかと不安になるくらい、緊張した。

 部屋の中にいた女性は、中学入学したての私を見るかのような体型をしていた。対して、子供は私が大好きだった静美の面影おもかげが強かった。でも……男の子だった。

 その後の会話はいまいち覚えていない。元気にやっている、夫婦仲はいい、仕事したい。そんなことを言っていた気がする。子供の名前は忘れてしまった。確か旦那さんから一字もらった名前、だったはず。彼は静美の周囲を楽しそうに走り回り、その都度つど彼女は手を伸ばして座らせた。それを何度も繰り返していた。

「この子を追いかけるのに体力が必要で、気がついたらこんなになっちゃった」

 無邪気に笑った静美に私は苦笑しか返せなかった。

 あれ以来、一度も彼女には会わなかった。みにくい昔の自分と似た静美を見たくなかったから。私の心にいるのは美しい彼女。私に美を教えてくれた、かけがえのない親友。それだけで十分で、それ以上は欲しくなかった。

 そして去年、静美は死んだ。交通事故だった。子供の担任が運転する車の助手席にいて、そこに対向車のトラックが突っ込んだ。その担任が男か女かは知らない。ただ、プライベートでの事故だったのは間違いないそうだ。一度だけ、彼女の旦那だという男性から連絡をもらった。昔馴染なじみの私なら何か聞いているかも、と期待したのだろう。生憎あいにく何も知りません、と返事したら、それっきりになった。


 * * *


 ──背景にバラを背負ったかのような美しさを持つ美人だった。

 注文したパンケーキを待ちながら、そんなことをふと思った。

 私が今いるのは先日荒川さんと話したパンケーキ専門店。美への追求を断ち切るのにパンケーキをしょくすのはいいかもしれない、と考えたのだ。

 久々のエネルギー過剰摂取に心臓が既に早鐘を打っている。そんなことをしたら酷く後悔するんじゃないかと恐れている。けれど、私が美を保ちたいと願った理由は一年前に失われてしまった。いや、一年じゃない、もっと前だ。一生そうあればと期待していたけれど、あっさり失ってしまったあの時から、ずっとこうしたい自分が心の奥底で疼いていた。

「お待たせしました。シャボンパンケーキです」

 店員がテーブルに置いた期間限定のパンケーキを見て、変な声を出してしまう。直径十五センチくらいのパンケーキが三枚重ねられ、大量のハチミツがかかった上に生クリームがマグカップよりも高く乗っている。周囲には丸くて薄い飴細工がいくつも刺さっていた。

 ──この飴細工が棘の形をしていたら、まさにサボテン。

 そんなひらめきに一人お腹を抱えて笑う。周囲にいたお客さんがげんな視線を寄越よこしたけれど、かまわなかった。これっぽっちも気にならない。ひとしきり笑った後、ナイフとフォークを手に取る。

 静美と同じ体型に、ずっとなりたかった。

 何から何まで彼女と同じになって、彼女好みにいろどられて、彼女の隣で美しくあり続けたかった。彼女にだったら私のすべてを見せても怖くない。その代わり、彼女の全部も見せて欲しい。私の秘められた部分を静美にあげるから、彼女の秘められた部分を私に頂戴。……そんな欲望が、出会った時からずっと燃えている。それは、彼女が死んだ今もそう。ただ、それは叶わなくなった。だからといって後を追うつもりはない。

 私はまだ、彼女と同化できていないもの。

 愚案かもしれない。ただ、私はこれから変わっていける。彼女が美しくあったのなら美しく、彼女が太ったのなら太っちょに。彼女の隣に誰よりも相応ふさわしい体型であり続けたい。

 希望を抱きながら、パンケーキを一口頬張った。

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