終 夜にレジャーやホップをする

美雪

 美雪は、館の前で過激派を殴り倒していく精密女の光景を、何か映画でも見ているような気持ちで眺めていた。

 安心だと思った。

 あの女がいる限り、館の中にいる敏弘、孟徳、すずめは安全だ。警察の二人も、銃を構えていたが、使う機会も訪れないだろう。

 気にかかっていたのが彩佳とふくみ。二人が警察と協力をして犯人をどうにか出来ることよりも、上手く仲直りができているのかどうかが、わからない。彩佳のことだ、無理かもしれないというところまで、美雪は想定をした。

 電話がかかってきたとき、その考えが杞憂であることを知った。

 久喜宮が犯人を取り押さえて、身柄を引き渡した。更新計画も進んでおらず、区長にも承認されていない、と。電話の相手は、ふくみだった。時々、彩佳と軽口を叩きながら、そんな報告をしてきた。

 美雪は、笑ってその電話を切った。

 それから暴動が終わるまでは、さほど時間はかからなかった。首謀者ともいえる犯人が捕まったことで、それらの暴力がなんの意味もなさないことに、気づいたのだろう。多数の逮捕者を出したが、幸いにして死人はいなかったと発表された。区役所の方も同様で、人質として監禁されていた職員も全員無事だと聞いた。

 それから館で二日ほど過ごした。施設から、別のチームの調査員が何人か来て、事後処理を手伝ってくれたが、彼女らは一瞬で施設に戻った。次の仕事があるのだと言った。

 館は解体されると言う話になった。中央コンピューター任せの政治体制に問題が有ることが露呈した結果、すぐさまそういう決断となった。館はおろか、中央コンピューターも破棄される運びになり、美楽華区は隣の区に吸収合併されることとなった。

 その結果として、上層と下層は潰され、一つにまとめられるらしい。スラム街も掃討された。結果的に、スラムの人間が恐れていた形の更新計画に、自らの方法で持っていってしまったのは、ある程度のアイロニカルさがあった。

 すべての仕事を終えて施設に戻り、それから数週間後。年が明けてすぐくらいに、セナからメールが届いた。

 父親とはそれなりに和解し、美楽華区を出ることになった。つまりは転校するのだという。何処へ行くのかは、敏弘の都合らしいが、機会があればまた会いましょう、と文末にはあった。

 孟徳やすずめも、何処かで頑張っているらしいと、精密女の話で知っていた。すずめとは少しだけ話したときに知ったが、すずめの流す音楽は、美雪の好みに近かった。暇があれば彼女の出演するイベントを見に行こうと考えていた。孟徳は、まあどこかで元気にしていればそれでいいやくらいに思う。彼は美雪に、自分のバンドの音源を送信してくれたが、いつか聞こうと思って、すぐに忘れてしまう。

 あれから、ふくみも元気そうだった。

 頻繁に彩佳と、連絡を取り合っていた。

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