消えることのない痛み

サクセスストーリーは魅力的です。
知恵と力を駆使しての成り上がりや、愛する人との穏やかな生活。
しかし、失敗と転落もまた魅力的です。
悪役の破滅。あるいは主人公の挫折。

本作が描くのは後者。転落の道です。

主な視点人物でもある王太子。彼は王妃としての資質十分な婚約者を捨て、セクシーだけど浅慮な下級貴族の娘と結婚します。
ここから王太子が断罪され、捨てられた婚約者が幸せを掴むのが「婚約破棄もの」の定番。
しかし幸か不幸か王太子は断罪されず、だからこそ苦しむことになります。

本作の魅力は王太子が受ける苦しみそのもの。そして強烈な自業自得、いわゆる「ざまあ」感です。
悲劇を見ながら溜飲が下がるというか、巧みないいとこ取りというか。
不思議な読書体験です。

王太子はどうしようもない無能や価値観が破綻した悪党ではありません。
それなりに賢く、同じくらい愚かで、決定的なところで過ちを犯した。
等身大の人物とすら感じます。
しかしその過ちは取り返しがつかず、公的な立場を失い、私生活も瓦解していきます。

思わず同情しそうにもなりますが、別視点が挟まることで、やはり自業自得。自らの行いが招いた結果に過ぎない。
そう再確認させられるのです。

苦痛と後悔を描いており、読み手を選びます。
けど更新が気になって仕方がない。
強い磁力を感じる作品です。

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