第106話番外編 新国王(元公爵)side


 マクシミリアンが死んだ。

 公開処刑という不名誉な形で。男爵領の領民を道連れにして。




 人身売買は重罪だ。

 マクシミリアンも知っていた筈だ。

 なのに何故その手を染めたのか……。


 理由は分かっている。領民を食わせるためだろう。分かっていて支援しなかったのは私が。いや、私だな。マクシミリアンが男爵領に行ってから暫くすると国王陛下父上は退位した。その時に、「この先、何が起ころうとビット男爵領を助ける事はまかりならん」と仰った。こうなる事を予想されていたのか、それとも……そうなるように誘導したのか。


 恐ろしい方だ。

 老齢の身だというのに。

 隠居先で色々と暗躍していらっしゃる。


 勘の鋭い者なら何かしらの意図を感じた筈だ。

 だからこそ、大臣達は何も言わない。


 マクシミリアンが奴隷貿易をどこまで知っていたのか。

 最初は元チェスター王国人だけが対象だった。それが自領の犯罪者が対象になり、密告によって売られる者が出てきた。密告で「有罪」と判断された者達は容赦なく売りに出されるという事態が多発したのだ。判断をしていたのはマクシミリアンではない。別の者だ。恐らく、前国王陛下父上の配下の者だろう。

 男爵領では領民達が互いを監視し合う体制がいつの間にか出来上がっていた。皆が疑心暗鬼になり、隣人を信用できないまま奴隷貿易を止める事も出来ずにいたのだ。



 マクシミリアンの人生とは一体何だったのだろうか。


 王太子として生まれ愛に生きた生涯?

 周りに流されたままの人生?

 前国王陛下の復讐道具?

 

 私には微塵も理解できない。



 ビット男爵領はあんな有り様だったが、意外な事に男爵領の周辺の領はかなりマトモだった。反面教師とでもいうのか。ビット男爵領から逃げ出した数少ない領民からの情報、そして日々おかしくなっていく男爵領を間近で見るたびに「あんな奴らと一緒にはされたくない」という意識が働いたようだ。領主も領民も一丸になって領地の発展に力を注いでいる。領主なんか「あの愚か者マクシミリアンと同じだと思われるのは末代までの恥だ」と言って必死に領地経営に努めているとか。

 そのせいもあってか、ビット男爵領の周りの領の治安は驚くほど良い。主要産業も少しずつだが出てきている位だ。まったく、何が幸いするか分からないものだ。



 


「フェリックス陛下、皆様がお付きです」


「今、いこう」


 今から元チェスター王国をどうするかを話し合う会議が始まる。他国の外国官達を交えての国際会議だ。開催国がティレーヌ王国というのが何やら陰謀めいていると思うのは私が捻くれているからだろうか? 一応持ち回りだと言う話だが……。



 問題だらけの大地だ。


 独立させるのか、それとも分割して周辺国で吸収するのか。

 どちらにしても数年かけて決める内容だろう。


 前国王陛下父上が生きている間は決まらないかもしれない。


 元チェスター王国人がどれだけ生き残れるのか。

 それは神にしか分からない。


 



 


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政略より愛を選んだ結婚。後悔は十年後にやってきた つくも茄子 @yatuhasi2022

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