第80話事件7
「帰る? 本気で言っているのですか?」
理事長はリリアナを王族扱いする気がなくなったのだろう。侮蔑を含んだ目を向けている。
「だって、私は関係ないじゃない。悪いのは彼らでしょう?」
「公爵令嬢に危害を加えようと計画した首謀者が『関係ない』はないでしょう」
「実行したのは彼らよ!私じゃないわ。それに、結局無事だったじゃない!」
「そういう問題ではありません。犯罪を計画した時点で貴女も彼らの仲間です」
「計画したからって何? 私が火をつけた訳じゃないし、公爵令嬢を攫おうとした訳じゃないわ」
「なるほど、貴女は法律に疎いようなのでお教えしますが、誰かに危害を加えるための計画を立案するのも犯罪行為に入ります。それと『実行していない』と言うのは言い訳ですよ。貴女が彼らに計画を持ち掛けた事は明白。世間ではソレを『犯罪教唆』と言うんです。実行したしないは関係ない」
「なっ!? 私は王女よ!王族に向かってそんな口をきいていいと思っているの?」
「王族という身分であれば犯罪を犯してもいいという法律はありません。王女であっても犯罪を犯せば『罪人』です」
「そんなことないわ! 王族は国で一番偉いのよ!」
「王国で一番偉いのは『国王陛下』です」
「同じでしょう!」
「全く違います」
「嘘よ! だって今までそんな事言われなかったわ! お母様だって『王女の身分は女の子の中で一番よ』って言っていたもの!」
「ええ。それは間違っていないでしょう」
「ほら!」
「王国の“女子の中では”と言う意味でなら、王女という身分は最上位です。ただし、王国一高い身分は『国王陛下』であって貴女ではない。王族は国王陛下の付属物に過ぎません」
自分の娘が理解不能な生き物に思えて仕方がない。
ここまで言ってもリリアナは余り理解していなかった。その表情は「訳の分からない事を捲し立てられた」顔だ。これには部屋にいる他の者達でさえも顔を顰めている。男子生徒達ですら絶句した顔で見ているというのに、リリアナだけがそれに気付かない。
「お父様! お父様もこの人に言ってちょうだい!」
「……何を言うんだ?」
「私が
理事長にあれだけ諭されたと言うのにリリアナは一つも理解していなかった。そして、本気で「おかしいこと」だと思っている事も分かった。
「理事長の言っている事は正しい。リリアナ、王族である事は免罪符にならない」
「お父様! どうして!? 私は
リリアナの言い分は滅茶苦茶だった。「自分は悪くない」と本気で言っているのが分かる。法律を学んだ筈なのに、それが自分には当てはまらないと思っているようだ。そんな筈もないというのに。娘をどうやって説得すればいいのか分からない。理事長にあれ程分かり易く言われても理解できない子だ。父親の私が言った処で理解できないだろう。
「よくも……そんな世迷言が言えたものだ」
地底から湧きあがるかのような怨嗟の声が聞こえた。
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