第74話事件1


 学園から突如連絡がきた。

 

 リリアナを含めた何人かが問題を起こしたようだ。「至急、学園に来られたし」と連絡を貰った。リリアナが癇癪を起こして学園の備品でも壊したのか?とも思った。もっとも、そんな些細な事で学園側もわざわざ早馬を使って知らせたりはしないだろうと、思い直した。



 

「何?何があったの?」


 サリーも困惑している。


「分からない。だが、学園の使者はかなり慌てていた。不測の事態が起こったと考えた方がいい」


「リリアナに何かあったの!?」


「それも分からないんだ。詳しい話は学園に来てからするとの一点張りで……」


「なら急ぎましょう!」



 サリーに急かされて馬車に乗り込んだ。黒塗りの装飾品を一切省いた馬車が用意されていた事に不安がよぎる。リリアナの事で頭が一杯のサリーは気付いていないようだが、王族とバレたら困る事態が起きたとしか思えない。リリアナは何をしでかしたんだ……。

 



 学園に到着すると、裏口から入るようにという指示があった。嫌な予感がする。王太子夫妻と知って「裏から入れ」と言われたのだ。

 何が起こったんだ!? 

 尋常ではない!

 そして、恐らくその中心にいるのはリリアナだという予感がした。

 

 

 日頃使っていない裏門は木々に覆われていた。


 入口の前には私達を待っていたのだろう一人の教師が待機していた。


「王太子御夫妻、ここからは私が案内いたします」


 そのまま奥へと案内された。

 廊下はうす暗く、学園にこのような場所があった事を初めて知った。裏口は校内の端にあり、人も通らない場所だから仕方ないのかもしれないが……前を先導する教師は一言も喋らない。それが一層問題が深刻であると物語っているようだった。暫く歩いていると、教師の足が止まった。どうやら目的の場所に着いたようだ。教師はノックを二回して静かに扉を開けた。


「王太子御夫妻、どうぞお入りください」


 言われるまま部屋に入ると、リリアナが不貞腐れた顔で座っていた。他には同級生だろうか?数名の男子生徒とその家族、数名の教師、この学園の理事長、そして何故か医師団が居た。医者だけじゃない、看護師まで待機しているとは何があったんだ!? 

 

 それに……この部屋の雰囲気は異常だ。


 緊迫した面持ちの教師達と、侮蔑を隠そうともしない医者と看護師。男子生徒達は揃って青ざめ今にも倒れそうな感じだった。深刻な問題が起きたのは嫌でも分かるのだろう親達は黙って息子を見つめるしかできない状況だった。この異様な雰囲気の中でリリアナだけは不貞腐れた顔をしていた。

 


「全員、揃ったようですな」


 厳かな声の主は理事長だ。


「王太子御夫妻も椅子に座ってください」


 促されるように用意された椅子に座った。

 

「私は、王立学園の理事を務めているアントニー・ブラントです。この度、保護者の皆様を御呼び出ししたのはお子様方が問題行動をおこしされたからです。それも我が学園始まって以来の不祥事とも言える犯罪行為」


「犯罪ですって!? 言い掛かりよ!」


「……リリアナ王女、今は理事長である私が話しているのです。静かに聞いている事もできないのですか」


「なっ!?」


「保護者の方々に貴方達の犯した過ちを説明している途中です。リリアナ王女にとっては問題にもならない行為なのかもしれませんが、世間一般では『犯罪』とみなされるのです。私はそれを保護者に伝えると共に貴方達の処罰も決めなければならない。いいから、黙って聞いていなさい。ここは王宮ではないのです。リリアナ王女の幼稚で愚かな行動を許す者は一人もいないという事をいい加減理解しなさい」


「~~っ……」


 怒りで顔を真っ赤にしているリリアナはそれでも理事長を睨みつけるのを止めなかった。

 犯罪行為とはなんだ!?

 リリアナの他にも生徒がいるのだから集団で何かを行ったと考えるべきだが……何をしたんだ?



 



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