第52話王女の縁組6
忘れていたわけではない。
自分の行動の結果が多くの人々の人生を狂わせた事を。
外務大臣に言われたから……と言うのもあるが、娘の将来を考えて修道院を調べた。リリアナが不自由なく過ごせる場所を確保する必要があった。修道院の中には規制が緩く献金によって優遇措置が取れる所もあるからだ。
そんな中、貴族籍の女性がこの十五年の間に修道院入りするケースが相次いでいるのに気が付いた。貴族女性が修道院に入る場合は何かしらの理由がある。まるで駆け込むかのように修道院入りしているのだ。気にならない訳がなかった。何かしらの素行の悪い貴族女性が居る場所に娘を住まわす訳にはいかないという判断からの調査だった。
調査の結果は最悪の一言に尽きた。
十数年前の出来事を鮮明に思い出すほどに。
私達夫婦の罪だ。
嘗ての友人達の元婚約者達にも被害が拡大していた事に気付かなかった。
自分の
嫁ぎ先で愛され幸せに暮らしていたから。
昔よりも美しく満ち足りた笑みをしていたから。
だから――
ある貴族令嬢は嫁ぎ先から暴力を受けて逃げるように修道院のドアを叩いた。
ある貴族令嬢は親よりも年上の貴族の後妻になり数年後に夫が亡くなると継子達に身一つで追い出されて修道院の門をくぐった。
ある貴族夫人は「娘の教育失格」を理由に離縁され実家にも戻れず修道院に入った。
過去の所業の結果を見せつけられた。
「実家や婚家に冷遇された末に修道院入りした貴族女性が多いのだ。貴族家庭で起きた騒動だが、それは私とサリーによってもたらされた悲劇だ。学生時代の友人の元婚約者達の多くは居場所を失いシスターになっている。彼女達は私達夫婦を恨んでいる筈だ。その憎悪がリリアナに向けられる恐れがある。そんな場所に娘を置くわけにはいかない」
「ならどうなさいます? 一生王宮で面倒をみるおつもりですか?」
「それが出来ないから相談しているんだ。リリアナを
「……無茶な事を仰います」
「無茶は承知の上だ」
「その嫁ぐ家がないのですよ?」
「この際、高位貴族に連なる家ならどこでもいい。困窮している家の一つや二つあるだろう」
「どれほど困窮しようとも王女殿下を娶りたい家はありません。ここは修道院に入るのが一番無難です」
「それをすればリリアナの身が危ないだろう!」
「ならば、危ない身の上にしなければ宜しいのです」
「そんな方法はない!」
「修道院に王女殿下の名前で寄付をしては如何ですか」
「……それで彼女達の心は晴れると思うか?」
「そんな事で晴れる筈はありませんが何もしないよりは遥かにマシです。寄付をきっかけに交流を持っていくしかないでしょう」
正論だった。
ぐうの音も出ない正論だ。
国内外で結婚相手がいない状態なのだ。致し方ない。実質、王国の政治を担う二人の大臣から「王女を娶りたい高位貴族はない」とまで言われた以上、どうにもならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます