第40話美容手術1


「嫌!嫌よ!こんな顔!」


 今日もリリアナの悲鳴のような叫び声が聞こえてくる。

 殴られた顔は元には戻らなかった。鼻はおかしな方向に曲がり、片目が潰れ、歯を何本も無くしている。嘗ての美しかった面影すらない。サリーはリリアナの顔を見るのも辛いようで部屋に引き籠っている。

 

「お父様、何とかして! 私を元の姿に戻して……お願い……」


 勝気な娘がこれほど弱弱しい姿を見るのは初めてだった。リリアナの事件は一通りの決着がついた。弁護士を通してコクトー子爵家には相応の詫びを申し出た。「子供同士の諍いの結果ですが、非は息子にもありますので」と言う言葉を貰った。流石に王女を訴えるような愚かなマネはしなかった。弁護士から話を聞いた時はホッとした。私とて知り合いに毒杯を渡したくはない。

 

 ただでさえ、リリアナを悪く言う声が多いのだ。


 

『王女様の無知が原因で幼い命が奪われた』


『己の欲求に忠実とは、一体誰に似たのやら』


『王族としての教育はどうなっているんだ?』


『今回の事は偶然でも何でもない。何時か必ず起こる事だった』


『茶会やパーティーで我が物顔で振る舞っていましたもの。何時かは仕出かすと思っていましたわ。あの王太子妃の御子ですもの』


『見た目だけでなく中身も母君に似ているのだな。礼儀知らずで意地が悪い』


『今回の件も“自分は悪くない”と言い触らしているそうじゃないか。まったく王女のせいで人が死んでいるというのに被害者気取りとは』



 確かにリリアナはお世辞にも賢い子ではない。感情的で短慮なところが目立つ。

 けれど、悪意を持って人を害する娘ではない。好き好んで人を傷付ける娘ではない。

 無知なだけだ。

 子爵令嬢の事も本人なりに良かれて思っての行動だ。王宮のケーキを友達にプレゼントした。自分の好物のもの。それは、皆も好きに違いない。そう思っての事だった。


 悪いことをした、という自覚は一切ない。訳も分からず暴行を受けたと本気で思っている。

 何度も説明して諭したが理解してくれない。今の今まで禄に叱られた事がなかったせいか「悪い事への定期」が曖昧だった。


 サリーの教育は誰が見ても偏っている。それを、こんな形で分かりたくはなかった。娘はあまりにも歪だ。「幼いため善悪の区別が出来ない」という言い訳はこれからは通用しないだろう。


 まだ七歳。人格が固まりきっていない年齢だ。まだ軌道修正できる筈だ。王族に相応しい教育を受ければまだ間に合う。



「お父様!お父様!痛いの!顔が痛いの!」


 あれから三ヶ月経つが未だに慢性的に痛みを訴える娘。医者は「精神的なものではないか」と言うだけで何の解決にもならない。


「鎮静剤を打て」


 リリアナが暴れる前に付き添っている看護師に命じた。暫くするとリリアナから寝息が聞こえてきた。眠る姿が痛々しい。世間はリリアナの自業自得だと言うだろう。それでも私にとっては可愛い娘だ。なんとかしてやりたい。



 


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