第31話公爵夫人(元婚約者)side

 

 きっと殿下も私と同じ考えだとばかり思っていました。

 まさか、彼女の手練手管の術中に嵌まるなど誰が想像できますか!


 驚いたのは私だけではない筈です。


 高位貴族の殆どが驚いた事でしょう。


 しかも、殿下はサリー嬢をただ甘やかすだけ。成長を促す事もなければ、注意をする事もない。何処までも溺愛し褒め称える。王太子殿下の寵愛を得ていると注目を浴びるサリー嬢は増長していきました。

 最高権力者である王太子殿下の寵愛を一身に浴び、愛される事が当然だと思うようになっていました。相手は今までと違って王太子殿下です。サリー嬢も他にあった関係を全て断ち切ったようでした。

 もっとも、関係があったのは殆ど高位貴族の子息ですからね。

 彼らも婚約者と結婚する事を理由にして別れに応じていましたが、一番の理由はサリー嬢の相手が「王太子」だったからにほか有りません。子息達も殿下が寵愛する女性と関係を持っていた事は口外しないでしょう。そんなことをして割を食うのは自分達だと知っていますからね。サリー嬢もそこら辺は大上手く行動なさっていました。殿下は最後まで気が付きませんでした。それもどうかと思いますが……恋は盲目とはよく言ったものです。


 問題は、王太子殿下の寵愛を受けて彼女が「自分は他と違う選ばれた存在」と考えるようになった事です。



 何故か私はサリー嬢に敵視されていました。

 王太子殿下の婚約者だったからでしょうか?

 随分と毛嫌いされておりましたから「恋敵」と思われていたのかもしれません。私と殿下の間には「恋情」というものは存在していなかったのですが……。

 

 思えば、その頃からですね。

 サリー嬢の存在を快く思わない高位貴族が増えたのは。

 彼女が下位貴族を使って高位貴族を攻撃してきたのですから仕方ありません。


 私も何度もサリー嬢を諫めましたが聞き耳を持ってくれませんでした。これは殿下も同じでしたね。何度、苦言を呈したか分かりません。殿下はそれをサリー嬢に対する暴言とでも思ったのでしょう。諭さなければならない立場の殿下自身がサリー嬢を擁護する有り様。それが余計に下位貴族を増長させる原因となっていました。学生だから、という言葉では許されない程に。


 同年代の下位貴族が軒並み表舞台に立てないのはそのせいです。何事にも限度というものがあります。それを超えてしまったのですから致し方ありません。中には今後の活躍が楽しみな学生もいたのですが残念でなりません。


 これだけの被害を出したというのに、サリー嬢は「友達だから助けろ?どうして?自己責任でしょう?」と言って知らんふりをしたというのですから、呆れるしかありません。急に梯子を外された彼らの心境は如何ばかりか。



 彼女の性格は王太子妃になってからも変わることはなく、リリアン王女にも受け継がれてしまったようです。


 コクトー子爵家の悲劇。

 幼い兄妹に起こった出来事は貴族社会を震撼させたことでしょう。

 



 王太子殿下が愛する女性と結ばれたいと言い出した時に糾弾するべきでした。


 目を閉じると在りし日の光景が今も鮮明に思い出されます。

 

 


 

 


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