第22話公爵夫人の評判 


 ガッシャ――ン!!


 王太子妃の寝室から騒音が聞こえる。

 また癇癪を起こしているのか。


 今度は何だ?


 

「今日はどうしたんだ?」


「……はい。セーラ・コードウェル公爵夫人の話を若い侍従達が話していたようで……」

 

「コードウェル公爵夫人の事を?」


「はい。正確にはコードウェル公爵家の事なのですが……」


「何があった?」


「……コードウェル公爵夫妻が数年前に破綻してしまった外交契約を再度結び直したという話です」


「そうか」


「これは、外務大臣がコードウェル公爵夫妻に頼み込んだ一件でして……」


「私に気を使う必要はない。コードウェル公爵夫人の功績を無に帰したのは私の責任だ」


「殿下……」


 侍女長にも苦労を掛けている。

 王太子妃だけでも大変だというのに、そのミニチュア版がいるんだ。気が休まる暇もないだろう。

 

 



 セーラ・コードウェル公爵夫人。

 この国でその名前を知らない者はいないだろう。

 他国でも名を馳せている「賢婦人」だ。


 王妃よりも、王太子妃よりも有名な女性。

 この十年の間、彼女の名声が聞こえない時はなかった。


 

 コードウェル公爵夫人の発案で領民の教育制度を開始した。

 七歳から十二歳までを義務教育制度とし、領民であれば誰もが無料で学校教育を受ける事が出来る制度だ。

 そのために、私財を投じて市井の学校を建てた。

 お陰で子供は読み書き計算が当たり前に出来るようになった。

 

 コードウェル公爵夫人の発案で領民の保険制度を開始した。

 誰もが一割負担で医療機関で受診できる制度だ。

 そのために、私財を投じて病院施設を建てた。

 お陰で死亡率が激変した。感染病が流行した時もコードウェル公爵領だけが最小限に抑える事に成功している。

 

 コードウェル公爵夫人が図書館を建てた。


 コードウェル公爵夫人が美術館を建てた。


 コードウェル公爵夫人、コードウェル公爵夫人、コードウェル公爵夫人……。



 王家に嫁がなくとも彼女は活躍する。


 夫のために。

 家族のために。

 領民のために。


 どこまでも強く美しく賢く……。


 彼女の輝かしい功績。

 その話は数知れない。


 この十年で思い知った。

 私は彼女にずっと支えられてきたのだと。


 

『マクシミリアン王太子殿下、どうぞ愛する方と末永くお幸せに』


 

 賢い彼女の事だ。

 私の後悔などお見通しだったのかもしれない。




 



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