66 神の特別指導・3日目


~ローロマロ王国~


「もう無理……! 動けない」


 イヴと出会い、ローロマロ王国を訪れてから早3日が経った。


 ここに来た初日に俺達は閻魔闘技場という場所で、戦士と呼ばれるこの王国独自の者達の戦いを観戦した。イヴとハクからこの戦士達の戦い方を良く見ろと言われた俺達は、初めてエネルギーとやらの存在を聞かされたのだ。


 イヴ達の言う事はずっと意味不明だったが、最後のヘラクレスとラグナレクの一戦によって俺達は、そのエネルギーの力というものを本当に少しだけ垣間見る事が出来た。


 そしてその翌日。

 前日にイヴが言った“特別指導”とやらがこの日の朝から始まり、俺達は3日経った今も尚人気の全くない荒地で特別指導を受けている所だ――。


「幾らかまともにはなってきたが、如何せんまだまだだねぇ。それにしても今時の若造は体力が無さ過ぎるわ」

「そんな事ないわよ。グリム達はそこらへんの騎士魔法団よりも動けているわ」

「アンタは甘いんだよシシガミ。そこらへんレベルと比べてもダメだ。私らの相手は深淵神アビスなんだからねぇ」


 体力が底をつき、地面に倒れている俺とエミリアとフーリンを見ながらイヴとハクはそんな会話をしている。


「でも3人共、大分エネルギーの流れを感じ取れているわね。グリムとフーリンは常に相手のエネルギーの流れを見て、次の動作の先を読む事。そうすればヘラクレスの様に最小限の力と動きで相手を捌く事が出来るし、自分も余計な体力を使わない上に余裕を持って相手に攻撃を繰り出せるわ」


 ハクは簡単に言うし頭でも理解はしてる。だがこのエネルギーの流れを読むのが結構大変なんだよな。そもそも今までそんな事知らなかった挙句にまだ慣れていないという事もあるけど、これは感覚を掴むまでかなり神経を使う。


「エミリアはまだまだだねぇ。アンタは2人と違って魔法を使うんだから、先ずは自分の魔力とエネルギーの流れをもっと自分でコントロール出来る様にしな。そんなのじゃ私の“精霊魔法”なんて到底扱えないよ」

「う、うん……。絶対出来る様に頑張る……」


 呼吸を荒くし地面に項垂れながらも、エミリアはイヴに力強く言い切っていた。


「だったら何時までも寝ていないで全員動きな。特別指導を続けてやるよ。ヒッヒッヒッヒッ」


 こんな調子で俺達はこの3日間、ひたすらエネルギーの流れを習得する為に特訓をしているんだ。


 このエネルギーというのは、人間ならば誰でも存在するものらしい。もっと言えば命ある動物やモンスターや草木までもエネルギーが宿っているらしい。簡単に言えば魔力と波動と似た感覚だ。だけど

このエネルギーはもっと人体に身近なものであり、誰もが当たり前に持って生まれているものだそうだ。これは他にも“生命エネルギー”やら“気”やらとも呼ばれている類らしい。


 イヴとハクの話によれば、ローロマロ王国の戦士達はこのエネルギーの扱い方が最も優れているらしく、エネルギーの流れを感じて見て読む事が出来れば自然と相手の次の動きが分かる様になると。


 しかもこれが出来ると、ヴィルやヘラクレスの様にラグナレクの核をも感じ取れるらしい。更に自分のエネルギーも感じてコントロール出来る様になれば、それは自ずと魔力や波動の力も高める事になるそうだ。


 人間にならば誰しも当たり前に備わっている力こそ故、改めてその当たり前の力を感じ取りコントロールするのは難しいらしい。だがこの力は間違いなく俺達を強くしてくれるものだ。だからこそ俺達はイヴとハクの地獄の様な特別指導をこうして受けている。


 いつの間にか強制で始まったけど。


 でも、何としてでも今より強くならないといけない。そうしなければ俺はまたヴィルに勝てないからな――。


「さぁ、とっとと動くよ。エミリアは引き続き私と魔法の特訓。グリムとフーリンも引き続きシシガミと戦いな」


 言わずもがなイヴの特訓は超スパルタ。朝から晩までみっちりだ。本当に休めるのは寝る時だけ。


「次こそ魔力をコントロールするんだから……!」

「口はいいから手を動かしな!」


 マンツーマンで指導されながら、エミリアとイブは再び魔法の特訓を始め出した。そして俺とフーリンもハクとの特訓を再開する。


「どっちからやる? 2人まとめてでもいいけど」

「くそ。相手がハクとは言え、ここまで舐められていると思うとちょっとムカつくな」

「間違いない。確かに俺達とハクの実力差があるのは認めるが、真剣勝負はサシが決まり。俺からやるぞグリム」


 前に出たフーリンは天槍ゲインヴォルグを構えて戦闘態勢に入った。


「先ずはフーリンからね、分かったわ。さっきも言ったけど、エネルギーの流れを常に意識してね」


 ハクが静かに手を合わせた次の瞬間、合わせた手をバッと広げたハクの手から“剣”が現れた。これも特別指導初日まで知らなかった事実だが、ハクは剣術の腕が1番凄かった。初めて見た時は“槍じゃないのかよ”と心の中で突っ込んでしまったが、どうやらあの天槍ゲインヴォルグはフーリンが最も槍に適しているから槍を与えたそうだ。


 まぁ言われてみればハクは槍使いなんて一言も言っていない。俺の勝手な思い込みだ。


「何時でもいいわよ。かかってきなさいフーリン」


 こうして、エミリアがイヴとひたすら魔法の特訓をする中、俺とフーリンもハクとひたすら戦っている。兎にも角にもエネルギーの流れを完全にものにしないと勝負ならない。俺達が必死で攻撃を繰り出し続けても全てハクに躱され受け流されてしまうんだ。それも涼しい顔で。


「今のいい感じだったわよフーリン。エネルギーの流れをものに出来れば、波動も更に高まって貴方はより強くなれるわ」

「はッ!」


 この後、俺達は連日の如く体力の限界まで特訓をし、イヴとハクによる俺達への特別指導3日目が終わったのだった。

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