最終話 平凡な幸せ
最近俺は良く付けられている。
相手はバンパイアだ。
どうやら、俺の血は美味いらしくユキネを含みバンパイアからよく誘われる。
その対価がお金だったり品物だったり、中には体をなんて存在もいたがそれは断った。
今の俺は三人の暮らしが楽しく、これ以上何か欲しいとは思わない。
ルナもマリンも贅沢はしないし、しいて言うなら『美味しい物』に目が無い位しかない。
街で治療と施しをしていているが、相変わらず『勇者』と呼ぶのを止めない。
出向くのが大変だから施設を作りたいと帝王に提案したところ許可が下りて『治療の為の施設』『生活に困った者への支援施設』『児童保護施設』を作った。
世界の事は親友に任せた。
俺には、それをどうにか出来る器は無かった。
俺という男の器はこの程度。
精々が目の届く範囲の人間を幸せにする事位しか出来ない。
セレスには『三人への償い』として毎月お金を送金すると決め続けている。
『セレスには要らない』と言われたが、これは俺なりのけじめだ。
最も、三人もS級冒険者、お金には困っておらず、便りによれば、少し働いては遊ぶを繰り返しているそうだ。
まぁ幸せならそれで良いか。
別に勇者として大成しなくても生きていくのには困らない。
大切な家族と、小さな幸せを大切に生きていく。
そんな人生でも良いじゃないか?
◆◆◆
「ゼクト、このニンジン、凄く甘くて美味しい」
「本当に頬っぺたが落ちそうですね」
「これは庭に埋まっていた奴な、皆で種まいたやつだ…美味いだろう?」
まさか、俺がセレスみたいに家事をするようになるとは思わなかったな。
魔王との戦いから逃げて、勇者の責務から逃げて…幼馴染から逃げた先に待っていたのは…
何処にでもありそうな平凡な幸せだった。
「あのニンジンが、これなんだ…」
「自分で作ったからこその美味しさですね」
「そうだな」
きっとこれは、本来なら俺ではなくセレスが過ごす幸せな未来だったのかも知れない。
もしかしたら彼奴は俺には勇者が務まらないと解っていたから、こういう未来と交換してくれたのかもな。
「どうしたの?」
「また難しい顔していますね」
「何でもない、ちょっと親友の事を思い出しただけだ」
ありがとうな…親友。
ふいに俺は親友の顔を思い浮かべ、セレスに会いたくなった。
酒でも飲むか…笑いながら最高の酒でも持っていこう。
それが良い。
FIN
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