第30話 俺の居場所が無い街②

父さんの言う『出来るだけ早く』と言うのは今すぐという事ではなく『住み着くのは駄目だ』という事だった。


やっている事はクズだが、親子の愛情はあるようだ。


「とりあえずは1か月位は居ても良いからな、家を借りるなら村長に話をつけても良いが、俺は嫌われ者だから、出来る事なら自分で頼んだ方が良いかも知れないな」


「まぁ考えさせて貰うよ…」


父さんはチワさんが寝た後、母さんとの経緯について話始めた。


相変わらずのクズだと思ったが、まさか自分の妻まで売り飛ばすとは思わなかった。


セレスが口籠って言わなかったが、かなり酷いな。


俺も男女関係は色々とクズだが、父さんは更にクズだ。


『女癖の悪さ』これが無ければ良い父親だったのに…


今はそれに追加で、金遣いも相当悪そうだ。


今更、責めても仕方が無い。


しかし、自分の息子と同年代の女の奴隷を買うとは思わなかったな。


今現在、母さんはセレスの妻になって幸せそうだし、良く考えたら

『セレスは昔から母さんが好きだった』あるべき姿になったという事だ。


そう言えば


『僕、静子おばさんと結婚したいな』


そうセレスが言った時に


『そうか、セレスお前が15歳になる頃には彼奴は良いババアだ…それで良いなら金貨1枚で譲ってやるよ』


そんな話を父さんがしていた記憶がある。


歳とって飽きた妻を若い男性に譲るのは村社会では可笑しくない。


特に嫁不足が深刻な村では良くある話だ。


※ これは本当に大昔にあった日本の一部の村の風習から書いています。


まぁ、なるべくして、ああなった、それだけだ。


まさかセレスが本気とは思わなかったけどな。


なんだ俺は!


元からセレスが母さん狙いだと解っていたなら。


『追い出す必要無かった』じゃないか。


馬鹿な事をしたもんだ。


今現在、俺の父さんは俺が勇者になった時の支度金を使い果たし、持っていた土地もかなり手放したそうだ。


最後のお金でチワさんを購入して地道に働きだしたそうだ。


土地を開墾してかっての2/3位の土地を新たに手にしてやり直しているとの事だ。


チワさんは獣人。


体力は普通の人間の何倍もある。


「俺は浮気を止めてチワ一筋だ…良い女と酒と仕事、俺はそれだけで幸せだ」


そう笑う父さんの腕や顔には凄い引っかき傷があるから…こうなる迄が大変な道のりだったのかも知れない。


「なぁ父さん、一つ教えてやろうか?」


「どうしたんだ? なにか深刻そうな顔をして」


「父さん、そう言えばチワさん妊娠していたよな?」


「ああっ!それがどうした」


解らないのか? 知らないのか?


「獣人は子だくさんだから、三つ子、場合によっては六つ子すら生まれる、生活大丈夫なのか?」


「マジか?」


「ああっ」


顔が真っ青になっている。


これが獣人の最大の欠点だ。


この分じゃ知らなかったんだな。


まぁ突っ込まないでおこう。



しかし、セレスは凄い奴だった。


あの状況で、村にせっせと仕送りをし、そのお金を元に村は開発されていったそうだ。


しかもセレスが『英雄』となった事で領主がお金を出し開発が進み、セレスの活躍から『英雄の故郷』という事で、今では観光収入まであるらしい。


「あいつ、すげーな」


「本当に凄いだろう? 昔はお前と一緒に俺にくっついて歩いていたのによ…今度顔出したら、酒でも飲もうぜ、一緒にな!」


「それは、難しいかもな」


「何故だ! あいつお前とも仲が良いし、俺にも懐いていただろう?」


「父さんだけじゃなく村の人全員な! だが父さんは嫌われたよ! 今のセレスの妻は母さんだからな!自分の好きな人が売られたら流石にセレスも怒るだろう」


「ハァ~? ガキの頃言っていた、静子と結婚するのが夢って本気だったのか? だったら奴隷商に捨て値で売るんじゃなかったな!まさか本当にマザコンでババコンだったとは…」


いや、セレスだってババアなら誰でも良い訳じゃない。


少し気持ち悪いが母さん限定だろう。


『静コン』が正しいのかも知れない。


…待て、すっかり忘れていたが…セレスは俺の義理の父親じゃないか?


確かに元は美人だよ、母さんが綺麗なのは解る。


だが、良い歳したババアだぞ! 


確かに俺の母親は綺麗なのかも知れない。


確かに俺の母親は美人だ…


だが、俺から言わせると『綺麗なおばさん』だ。


行き遅れや出戻り女どころじゃない。


BBAババアだ。


自分の年齢のやく倍。


考えられないだろう。


だが、セレスは幸せそうに俺の母さんの横で笑っていた。


確かに彼奴は幼い頃に母親を亡くして、俺の母さんを良く見ていた気がする。


そうか、何でも出来る彼奴の最大の欠点。


それがこれだったんだ。


そう言う事だな。


『何で俺は忘れていたんだ』


小さい頃から、そういうシーンを何度も見ていたじゃないか?


早くその事に気がついていたら、先に俺が母さんとセレスを取りもっていたら、最初から問題なんて起きずに、全てスムーズだったんじゃないか?


※この世界の人族の寿命は50歳~60歳 村社会では嫁不足等の要因から配偶者を若い男性に譲る事がある世界です。


※しつこいようですが、昔の実際にあった風習から書いています。


母親の愛が欲しかった思慕の心が、そうさせたのかもな。


言い方は悪いがあんなババ…おばさんが若い男に財産や地位目立てじゃなく、本気で愛されるんだ、可笑しくもなるか。


あの母さんの顔…母親の顔じゃなく完全に『女』の顔をしていた。


ちゃんと、しっかりとお金を払って奴隷として買っているし、寝取ったりしもしてないし、実の母親でも無い。社会的に問題はない。だが、そんな男は財産目当て以外じゃ知らない。


貴族の女が偶に若い男を財産と権力で…そういう嫌な話でしか聞いたことが無い。


元々この村の掟には、女性が少なく『嫁不足』だった頃に年配の女性を『若い男が結婚も出来ず性的に辛いだろう』という理由で譲る風習があった。


だからこそ、父さんが、まぁクズだがセレスに母さんを譲るような事を言っていた訳だ。


30歳にもなれば普通は女として終わっている。

(※寿命が50歳から60歳の世界観です)


だからか、謝礼は本当に微々たるものだったという話だ、父さんの金貨1枚は吹っ掛けすぎだ。更に言うなら、幾ら嫁不足でも10代の若い男がババアと暮らすのは辛いらしく…使われた例は極めて少ない。


粗暴な若者で嫁のきてが全くない無い男で大昔に1~2回使われたという話しか聞いた覚えが無い。


『30歳位のおばさんを嫁に貰って喜ぶ10代の若い男』


そんな奴はセレス位しか恐らくいないんじゃないか…


「そう考えたら彼奴すごいな」


地味な感じだが、彼奴は彼奴でそこそこのイケメンだ。


「多分、セレスは、それじゃねーような気がする、彼奴はこの村や、そうだな思い出が好きなんだよ!…多分、その証拠に、お前にも手を差し伸べてきたんだろう?俺から言わせたら英雄よりミスタージムナ村だよ」


そうか、確かにそうだ。


「そうだな…」


「それでゼクト…お前もセレスに助けて貰ったクチだ、セレスの為に村の発展に力を貸すか?」


「確かに恩もあるが、それは別の事で返すつもりだよ、三人もつい押しつけちまったしな!」


「お前、まさかヤルだけやってセレスに押しつけたのか? 最低だな!」


「そこ迄の事は流石にしていない」


「そうかなら良い…お前の決めた道だ、頑張れよ!」


父さんが真面なのか可笑しいのか解らなくなった。


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