第23話 自由と今そこにある危機
俺は三人の幼馴染と共に近くの教会に来た。
「教皇様より話は聞きました。聖なる装備の返却をお願い致します」
「すまない」
「「「すみません」」」
「本当に呆れたものですね?!勇者や聖女、剣聖に賢者。その栄光を捨て去るなんて、今迄の歴史に居ませんよ? 怪我がもとで1人か2人という話は聞いた事がありますが、全員がその栄誉を捨てる?実に嘆かわしい!これで勇者パーティで残っているのは四職でも無いセレス様だけですね」
「ちょっと待て! セレスは辞められないのか?」
「はぁ~ゼクト、お前はもう只の村人だ!これからは言葉に気を付けるようにセレス様とお呼びなさい! あの方は勇者パーティのリーダー、お前と違い『英雄』です!そして私も司祭様と呼ぶように、良いですかゼクト…誰かがその責任から逃げれば、誰かがその責任を負わなければならないのです。可哀そうに貴方が逃げたから、その責任はセレス様が全て負わなければならない。お前達が背負う運命を1人で全部背負われた。女神から与えられた責任を果たさず逃げた貴方の顔等、私は見たくはありません!さぁ立ち去りなさい」
子供から大人まで全員、教会にいる人間がまるで俺達を非難するような目で見ている。
俺は何も言えない。
それは三人も同じでただ、ただ黙っているしか無かった。
◆◆◆
冒険者ギルドに来ると受付嬢に呼び止められた。
「ゼクト様、パーティの名前の申請をお願い致します」
何を言っているのか俺には理解が出来なかった。
「何を言っているんだ? 俺は希望の灯のリーダーだ!」
「希望の灯は勇者パーティです。ゼクト様他3名は、その称号を失いました、その為『英雄』の称号を持つセレス様が暫定でリーダーになっています。もし入られるなら一旦解除されていますのでセレス様にお願いしてパーティに再度入れて貰って下さい」
全てを押し付けてしまった相手にどんな顔して『入れてくれ』と言えるば良い…言える訳ないだろう!
しかも俺は彼奴を追放しようとしたんだぞ…
「ゼクト、このままで良いんじゃないか?」
「そうだわ」
「そうしよう…」
「そうだな」
俺達新たなパーティ登録はせず、お金だけ降ろして、その場を立ち去った。
パーティ登録すらしない。
恐らく、三人はもう冒険者すら辞めようと思っているのかも知れないな。
近くの宿屋をとった。
今後について話し合う必要がある、そう思ったからだ。
「それで、皆はこれからどうしたい?」
「私はもう第一線の冒険者は退きたい…田舎に帰るか地方に行くかしてオーク辺りを相手にする生活が良いな」
リダが早くもそう言いだした。
「そうね…一回村に帰りたいわ、少しゆっくりしてから色々考えたいわ」
マリアも同じような考えなのだろう。
いや、もしかしたらマリアは冒険者すら辞める可能性があるかもな。
「私もとりあえずゆっくりしたい、私は事務の仕事を探そうかな…村に帰るのは賛成、ジムナ村はのどかだから、あの近辺でそういう仕事があると良いな」
『メルはもう冒険者を辞める』そう考えた方が良い。
「そうだな!一旦、旅行がてら村に帰って、そこから先の事は後で考えるとするか!それじゃ」
俺は全財産、金貨120枚(1200万)をそれぞれに30枚ずつ分けた。
これでもうお財布も別だ! 同じパーティからも外れたから実質俺達の絆という物はかなり希薄になった。
問題は、俺達の関係だ。
此処迄来たら聞くしかないだろう。
「三人に聞きたい、俺との付き合いはどうしたい?」
俺は勇者の権利が無くなった。
一夫多妻は法律的に認められるかどうか解らない。
本来なら『一度でも勇者パーティに属していれば』特典として貰える権利だ。
オークマンなんて奴は子供時代に先の勇者の『荷物持ちをしただけ』なのにこの権利を貰った。
だが、俺達は自ら『勇者パーティ』の権利を手放した。
恐らくは、この特典も無くなった筈だ。
この3人のうち1人としか結婚は出来なくなった。
「ゼクトはどうしたいんだ? 一体3人のうち誰を選びたいんだ?まぁ、選ぶのはマリアだよな?元の関係を考えたらそうだよな」
リダがそう言ってきた。
確かにそうだな。
多分、村人のままなら俺はマリアと結婚していた可能性が高い。
実際に村の周りの人間もそう考えていた。
「そう? だけど、ゼクトがもし私を選ぶなら、婚約者じゃなく女友達から始めたいわ!皆で一緒に結婚する話から、セレスの元に行く話まででて、二転三転してどうして良いか解らないわよ。折角自由になったんだし、これからはゆっくりできるんだから、時間を掛けて考えたいわ」
こう言われても仕方が無い。
俺はそれだけの事をしたんだ。
「私ではない事だけは確かだよね?リダ?マリア?どちらを選ぶにしても祝福するよ!」
メルがそう言うのは当たり前の事だ。
今の俺には王女との婚姻や貴族との婚姻はもう無い筈だ。
それ以外にも、泣いていた此奴らを見たらもう魔王討伐の旅は無理だと思った。
男女としてじゃない!
解ってしまった。
幼馴染として、此奴らが死ぬ未来は見たくなかった。
多分、そう言う事だ。
だから、こういう道を選んだ。
俺はこの先をどうするかまで考えていなかった。
まさか、こんなに早く皆が抜けられるとは思っていなかったからな。
もう勇者と三職ではないからこれから一緒にいる義務はない。
三人も俺も『一緒に居ない』『他の相手を選ぶ』そういう選択がこれからはある。
魔王討伐の旅は恐らくは最低でも数年、場合によっては10年を超える時間が掛かる。その時間を一緒に過ごす人間だからお互いに、他に選べる選択肢はなかった。
だが、これから俺たちは自由だから…きっと本当の意味での恋愛が出来る。
彼女達が再び俺を選ぶのか?それとも別人を選ぶのか?解らない。
三人にも俺にも、これからは時間が沢山ある。
ゆっくり考えれば良い事だ。
「そうだな、全て最初からやり直せば良いんじゃないか?取り敢えずは、皆が村に帰りたいならそうしよう。今迄と違い時間は沢山あるんだから、それからゆっくり時間を掛けて考えていけば良いんじゃないか」
「「「そうね」」」
今の俺達には時間も自由も山程あるんだからな。
◆◆◆
俺達の元に冒険者ギルドの職員が走ってきた。
「たった今魔族がこの街に入り込み暴れています!S級冒険者のゼクト様達に討伐の緊急依頼が来ています!」
勇者パーティでは無くなった。
だがS級冒険者である以上緊急依頼は断りにくい。
このタイミングで凄く厄介だ。
「相手は何人だ? どんな種族だ」
「相手は1人、人間型です!その他、詳細は不明です」
可笑しい!
詳細不明な訳ない。
冒険者ギルドなら、しっかり調べてからこちらに話を持ってくる筈だ。
緊急依頼はA級以上の冒険者なら受けないとペナルティがある。
今の俺達4人でも1体だけならどうにかなるだろう!
声が聞こえたのかリダ、マリア、メルがこちらを見ている。
「緊急依頼だ、行くぞ!」
「「「了解」」」
俺達は依頼を受け、魔族の元に向かった。
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