第8話 自供と解決策
「まあ、そうだね。どうしてしちゃったのかな」
陽子が私の下着に悪戯をしていたことが発覚してしまった。なかったことにならないようなので、陽子が気がすむまで話を聞いてあげることにした私は、そう陽子に曖昧に促した。
陽子は私の問いかけにぎゅっと膝の上で両拳を握って、恐る恐ると言う風に話し始めた。
「さ、最初は……見るのも意識してたし、触らないようにしてたんだ」
そうして陽子が話すのによると、元々陽子は私のことが大好きだったけど、小学三年生の時、私が中学生になって部屋が別々になってから、寂しくて、私を求める気持ちから自覚なく毎日自慰をしはじめたのがはじまりらしい。
まあ、子供の時から何となく気持ちいいから触る、みたいなのは普通にあるからね。落ち着かないのを誤魔化すのにする子もいるだろうね。そこまではいいよね。
それが習慣化していき、心と体が成長するうちに私への思いが恋であると気が付いたらしい。いやそれは恋ではないのでは? と思うけど、ここで突っ込んでも仕方ないのでここもスルーする。
姉妹だし私がそんな気がないことは明白だから、思いを伝えることもかなわず、募った思いを日々むなしく消化することしかできない日々が続いたらしい。
あの、さっきからめちゃくちゃ赤裸々に言ってくれているけど、そんな詳しく自慰のこと言わなくていいんだけど? 顔が赤いしちらちら私の事見てるけど、これなんかまた別の陽子の異常性癖に巻き込まれてない?
まあとにかくそう言うことで、陽子は表面的には大人しく私の妹として、裏面的には常に私の事ばかり思っていたらしい。そしてついに問題の私の下着に触れたのは、自分の生理が始まった時らしい。洗ったけど自分の汚れた下着が見られるのが恥ずかしくて、洗濯機の奥にいれようとひっくり返した時に私の下着を持ってしまったのがきっかけだったらしい。
生理中に高まった性欲のせいで普段ならしないことをしてしまい、それからも恐々と罪悪感を持ちながらも犯行を繰り返し、だけど私が全然気づかないので一年もたつころからほぼ毎日当たり前に使っていたとのことだ。
とんでもない自供がでてきてしまった。じゃあ私の手持ちの下着はほぼすべて使われていることになる。知りたくなかった。
確かに私もそのくらいから自分の下着が見える様に洗濯機に入っているのは家族でも恥ずかしいと思うようになったし、そのあたりの感情の流れは女子としても身内としてもとても理解できる。
でもそうか、生理が始まった時期は申告されなくても一緒に住んでいればわかる。つまりその一年後から今までずっとか。うーん。
私としてはね、ドン引きだし気持ち悪いけど、どうせ触られようと汚されようと、その後洗濯してから私が着るんだしいいっちゃいい。
そう言う変な意味じゃなければ、例えば旅行先で替えがなくなったと言うなら家族だし下着を貸し借りしても全然平気なタイプだ。陽子だからじゃなく、母でも平気だし。
だからもうしないって言ってくれるなら、実はしていたとしても私がしてないと思って心置きなく過ごせるならそれでよかったのだけど。
こんなに詳しく知ってしまうと、どうしよう。陽子の性欲の強さを改めて知ってしまうと、しないでね、の一言で収まる気が全然しない。
私も陽子ほどではないけどするし、むらむらしてきたらしないと我慢できないのはわかる。今まで使ってたお気に入りのおかずを全部とりあげられるのは困るだろう。どうしたものか。
「陽子、恥ずかしいだろうによく自供してくれたね」
「……うん。私が悪いから」
今はその気持ち、素直に受け取ります。お姉ちゃんだからね。
「だから私も恥を捨てて赤裸々に陽子に話すけど、私もするよ。自分で。だから気持ちはわかる」
「え? おねえも?」
「念のため言うけど、人の下着を使うと言う意味ではありません」
「はい」
「で、ようはね、性欲はあるよ、誰でもね。恥ずかしいけど、いけないことじゃないし、卑下することじゃない。それはいいね?」
「……おねえ」
しちゃ駄目だったとか無理に抑圧して、変にこじらされても困る。と言うか現状がすでにこじらせた結果な気もするけど、とにかく、どスケベな人間からスケベを取り上げても仕方ない。
「ただね、それで人に迷惑をかけたり、悪いことをしちゃいけない。わかっているね?」
「……うん。ごめん」
「もうしないって言うならそれでいいんだけどさ。でも、我慢できるかが問題だよね。我慢できそう?」
「……」
「……」
無理そうだね。ここで嘘つかれても問題解決にならないし、できると思ってもやっぱ無理でしたっても駄目だし、自分のできることをわかっているのはいいことだ。
本音を言えば、私じゃない別のおかずで満足してほしいのだけど、それはおいおい解決するとして、とりあえず目先の問題だ。知った以上私の下着をつかってほしくない。妥協点としては……。
「例えばだけど、下着一式で我慢できるなら提供してもいい」
「えっ……う、ううん。その。やっぱり、脱ぎたてって言うか、その日一日身につけたやつが……な、なんでもない」
「なんでもなくねぇんだけど、詳しく聞きたくないから、とりあえず無理なのね」
割とまっとうな妥協点だと思ったけど、そうか。性癖的に物足りないなら仕方ない。
「うーん、じゃあ、一昨日、陽子、私が肩触っただけでイッてたよね」
「は? そ、そんなわけねぇだろ」
「肩触るだけでいいならしてあげてもいいけど」
「……も、もう一声」
え、調子に乗ってきた。やべぇやつだな。うーん。でも毎日してるんでしょ? 毎日それ以上付き合うのはきつい。私にだってそう言う気分の時とそうじゃない時があるし。
「具体的に要求を言ってみな。もちろん付き合うとかなしで、私の下着を使うかわりになるおかずって何が思いつく?」
「……お、おねえを、見せてもらう、とか? あ、ちが、へ、変な意味じゃなくて。その……服着てても、ただ見てるだけでいいし、見ながらなら、十分ていうか」
なるほどね、私であるなら服を着た姿であってもおかずになるから、見ながらするなら下着がなくてもいいと。
自慰の立ち合いじゃん。それは変な意味を超えて変態なのよ。どスケベをこえてど変態なのよ。
いや、あのね、気持ちが分からないではないんだよ。あくまで想像の中ではさ、そう言うシチュエーションを想像しておかずになるって言うのは全然理解できる範囲なんだよ。
でもそれを実現したいかって言ったら全然別の話で、そうなるともう変態なんだよ。痴漢ものが好きだとして、実際にされたいかって言われたらされたくないのよ。
「……部屋を汚さずに、静かにするなら、まあ、いいよ」
「えっ!? ほ、本当に!?」
とは言え、代替案も思い浮かばない。私の物に干渉しなくて私の手もとらないなら、私が何かしてあげるとかよりずっといい。さすが陽子と言うべきか、私が妥協できるぎりぎりを攻めてきたな。
「と言っても無理にじゃなくて、どうしても私の下着をつかいたいくらい性欲が高まってるなら、それでよそで悪いことするよりは、私を見るくらいいいよってこと。わかる? 約束できる?」
「で、できる!」
「お、おう。ま、そう言うことで。解決。この話は終わり。はい、お休み」
めっちゃ元気に笑顔で返事をされたので引きつつ、これでようやく解決だ。いやー、長かった。早く寝よ。
私は立ち上がって陽子の肩を引きながらそう挨拶する。陽子はもじもじしながらも立ち上がり、私の手が肩から離れても動き出さず、私の胸元からそっと伺うように顔をあげた。
「あ、あの、おねえ……あの、い、今からでも、いい?」
「……うん、まあ、いいけど」
この流れで、青い顔して人の部屋に来ておいて今から我慢できないくらい自慰がしたいですって、性欲えげつないにもほどがあるでしょ。
と思ったけど、お風呂で邪魔したのは事実だし、さっきのやり取りでも興奮しているみたいだったからそうなるのか。
断らないけどさぁ、妹じゃなくて一人の人間として好かれる努力する、みたいなこと陽子言ってた気がするけど、気のせいだったかな。
陽子は私の許可を得ると、落ち着かなくきょろきょろしてドアが確実にしまってるのを確認して、鍵もちゃんと閉めてから、そっと私のベッドに戻って座った。
「ちょっと待った。何を普通に人のベッドでしようとしてんの。ありえないから」
「え、でも、座らないとできないし」
「部屋からクッションでも持ってきて、その、ゴミ箱の有る場所、ゴミ箱どけて入って。壁にもたれられる方がいいでしょ」
「ご、ゴミ箱の場所で!? 私なんか、人間のクズってこと!?」
「そんな意図はないけど」
ないけど陽子は多分クズだね。私もクズだからクズ姉妹ってことだね。わははは。うけない。
「いいから早くして、こっちは暇じゃないんだから」
「わ、わかった」
陽子は駆け足で部屋を出て、小さいハート形のクッションをとってきて、ゴミ箱をおいている本棚の横のゴミ箱をよけてそこに座った。
私の部屋は入って左側にウォークインクローゼットがある。隣の陽子の部屋と左右対称で、クローゼット同士がぶつかる方体で。その入り口の横に本棚を置いているので、お互いの音が聞こえにくくなっている。クローゼットの扉にもたれて壊れても嫌だし、ドア側は廊下に音が響いても困るだろうと、これでも優しい提案のつもりだ。
陽子はクッションにお尻をすりつけるようにして座り心地を確保してから、おずおずと、躊躇いがちにまずは衣類の上から自分を触り始めた。
それから5分くらいでイッたのでもう終わりかな、と思ったのだけどそれからスイッチが入ったように大胆になって30分くらいやってから陽子は震えながら帰っていった。
あまりにふらふらなのでちょっと心配になってそっと服を着た背中にふれたらまたびくっとしたので一人で帰らせた。
「あ」
そうしてようやく一人になってから気付く。汚いからと終わった陽子にウェットティッシュを渡して手を拭かせたけど、そのゴミ、めっちゃ自然に避けた私のゴミ箱にいれていったな。
クッションは回収して行ったけど、今後はゴミも回収してもらおう。
そう思いながら、私も落ち着かないままベッドに入った。そのあと、さすがに私も我慢できなくて、してから寝た。
翌朝は自己嫌悪がやばかったので、よく考えたらしてるとこ見る必要なかったし、今日から気を付けようと心に決めるのだった。
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