第67話 そんな顔されたら、ますますイジメたくなる

前回のあらすじっ!

 次はどんな演技をすることになるのか、内心、ビクビクしております。できれば、イケメンが言うようなセリフはやめてほしいです。以上っ!




「さっそく!次の演技に移ります!次は紅林さんを後ろから抱きしめて、耳元で『俺のそばから離れるな』と、イケメンボイスで囁いてもらいます!」


「なんでそれをチョイスしたんだよ!」


(リューくんよ、どんな場面でそんな言葉を言うんだ!?)


 そんなことを思っていると…


「さ、さぁ、凛。私は準備できてる」


 そう、後ろを向いて気合の入った声で言われので…


(美羽が今回も、嫌だとは思うが、俺のために体を張ってくれてるんだ!やるしかない!)


 そう自分に喝を入れ、美羽を後ろから抱きしめる。そして耳元で……


「俺のそばから離れるな」


 と、イケメンボイスになるように言う。


 すると…


「〜〜〜〜〜〜〜〜」


 と、またもや耳まで真っ赤にして、声にならない声で悶える美羽。


(さ、さすがに抱きしめるのはやりすぎた!)


 抱きしめている体勢をやめ、謝ろうとすると…


「「「「キャァァァァァァ」」」」


 またもや周りが叫び出す。しかも、前回の演技よりも観客が多い気がする。


(えっ!なんでこんなに見てんの!?これ、見せ物ではなくて、ただ、店長に許してもらうためにしてるだけなんだけど!)


 と、思っているが、周りの人たちは……


「ヤ、ヤバい!あれは!“俺執事”の第2巻で『脅迫状の送り主が、“お嬢様を人質にする”と脅迫して来た時、お嬢様を引き止めるためにリュー様が言った言葉!』それを選択するとは…………グッドです!」


「う、羨ましい!羨ましいぞ!あの女ぁ!私と変わってほしい!いや、変われぇぇぇぇ!」


「ヤ、ヤバすぎる!演技力が高すぎる!こ、この動画も全国のリュー様ファンに拡散しなければっ!」


 そんなことをどこかの人たちが話していたが、叫び声や凛が“やりすぎた”と後悔していたため、凛の耳には届かなかった。


 また、復活した美羽が…


「こ、これもヤバい!ま、まだ顔が真っ赤になってる!ドキドキも止まらない!り、凛の顔が見れない!」


 そんなことを呟いていたが、凛の耳には届かなかった。




 しばらくすると、店長が鼻血を出しながら…


「こ、今回も良きでした。ご馳走様でした」


「なにが!?」


(そんなことより、血を止めろよ!)


 今も、とめどなく溢れている鼻血なんか、ないかのように話を続ける。


「では次に移ります!」


「まだやるのかよ!」


(もう嫌なんだけど!)


 とは、思うものの、俺に終了の権限はないので、付き合うしかない。


「紅林さん!まだ付き合えそうですか?無理そうなら私が変わりますよ?」


「そ、それはダメ!私がやる!」


「りょーかいしました!」


(なんか店長のテンションが高いな!そして、美羽よ…ホントは今すぐ辞めたいんだろうけど、俺の悲鳴が上がる演技にまだ付き合ってくれる。やっぱり持つべきものは幼馴染だな)


 と、美羽に感動していると…


「では!さっそく!つぎの演技は、紅林さんの目を見ながら顎クイをして、キメ顔で『そんな顔されたら、ますますいじめたくなる』と言ってもらいます!」


「リューくんのアホぉぉぉぉ!」


(いつ、どこでこんなセリフ言うの!?えっ!イケメンってみんな、こんなセリフを日常的に言ってるの!?)


 そう疑いたくなるが…


「り、凛……次も……大丈夫!」


 と、美羽が言うので…


(やるしかないか!)


 そう思い、美羽に近づいてから、顎クイをする。そしてキメ顔で……


「そんな顔されたら、ますますイジメたくなる」


 と、俺が美羽に言うと…


「〜〜〜〜〜〜〜〜」


 今度も美羽は顔を真っ赤にして悶える。


 俺はホントに申し訳ない気持ちから美羽に謝ろうとするが…


「「「「キャァァァァァァ!!!!」」」」


「うるせぇぇぇぇ!!!!」


(俺の演技が悲鳴をあげるレベルなのはわかったから!それならもう見ないでほしいんだけど!もう、俺の心のライフは0だよ!?)


 と、思っているが、周りの人たちは……


「ヤ、ヤバい!あれは!“俺執事”の第3巻で『お嬢様の苦手な数学をリュー様が教えている時、お嬢様が“勉強したくない!”と言い、駄々をこねた時に、お嬢様を黙らせた言葉!』それを選択するとは…………グッドです!」


「あの女ぁぁぁぁ!私と変わらんかぁぁぁぁ!」


「ヤ、ヤバすぎる!演技力は高いし声も良き!こ、この動画も全国のリュー様ファンに拡散しなければっ!」


 そんなことをどこかの人たちが話していたが、叫び声や凛がそろそろ精神的にダウンしてきたため、聞こえてくることはなかった。


 また、復活した美羽が…


「も、もう……無理……。ドキドキが止まらない………。り、凛になら…イジメられても……いい……かも」


 と、言っていたことも聞こえなかった凛であった。

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