第24話 2回戦からベスト8まで

2回戦

 巌谷0対13松濤(5回コールド)

 巌谷00000|0

 松濤3280×|13


3回戦

 桜上水0対松濤10x(6回コールド)

 桜上水000000 |0

  松濤121204x|10x


 東東京予選の2回戦から登場した新設松濤野球部、中学時代公式戦不出場の桜が巌谷を5回無安打ノーヒット、さらに都立の桜上水を6回無失点に抑える。

 ……だが大差のついたゲームで全力投球を続け試合中にも試合後にも勢源やチームメイトから説教、説得を受けるも桜は無反応。


  勢源「能ある鷹は爪を隠すとかねぇのかおまえは?」

  桜「……」


 攻撃は2試合とも早いイニングから先発投手を打ち崩し試合の趨勢を決めた。ホームランも2試合で4本という新参チームにはありえない好結果。このチームの才能は通用する。

 2試合とも結果、内容とも相手を寄せ付けなかった。1年生主体のチームが快進撃を開始した。


 観客の注目を浴びていたのは『打撃王』中原潔の息子である中原だった。中原は打席に立つたびカメラのシャッターを切られ、そして守っている三塁に打球が飛ぶたびに歓声が上がる。そういう球場内のちょっと異常な空気にはすでに中原は慣れていたようで淡々とプレーしていた。2戦トータル7打数3安打(いずれも単打シングルヒット)に1盗塁、無失策ノーエラー。それが中原の残した成績だ。まぁ平凡だ。うちのクリーンナップとしては。

 父親と同じ野球さえ選ばなかったらこんな珍獣あつかいされずに済んだはずなのだが、二世は意に介さずこう言った。

「親の七光り呼ばわりなんて気にしない。俺は俺だ。観客の反応レスなんて知ったことじゃねぇ。それに桜と違って俺はこんな雑魚相手に本気なんて見せない。決勝、青海相手にとっておくことにするよ」

 だそうな。


4回戦

 松濤14対2平田義塾(7回コールド)

   松濤6010106|14

 平田義塾0001001|2


 得点力については大会前から自信があったチーム松濤だが、実戦で打線がつながり効果的に得点を重ねられるかは疑問があった。俺や比叡、中原、アダムと好打者はそろっていたが、それだけで2戦連続でコールド勝ちできるほどの得点力に結びつくはずがない。

 塁に走者ランナーを溜めなければ単打シングルヒットで得点を奪えない。打ではなく打を形成しなければチームとして機能しているとはいえないわけだ。

 キーポイントは9番打者の片城だ。


  勢源「下位打線(7番~9番)が大事になる。下位からチャンスをつくって上位が打つパターン。そして出塁したらホームに還って得点しなくてもこちらのアドヴァンテージになるんだ。残塁してもアウトにならず併殺されなかったら打順が一つ先に廻ることを意味する。うちの1番は今屋敷なんだから、試合中1打席でも屋敷に打順が廻ればそれは=こちらにとってのチャンス、あちらのとってのピンチを意味するってわけだ」

  片城「安打製造機な屋敷先輩の前にランナーを溜めるためにも下位打線強化は重要課題でした。僕は相手バッテリーの配球を読むことに長けていた。中学のときからそれだけは本当に研究してましたから……。あとは狙い打ちでヒットを放ち、ボール球に手を出さなくなれば出塁率は向上する……ってことになりますね。机上の空論ですけど」


 片城はその空論を実際に実行してみせた。

 この試合ヒット2本を含む3出塁。9番打者に打てるバッターがいれば上位で塁を埋め下位で還すことも、またその逆も望めるということになる。結果は見ての通り松濤打線爆発なわけで非常に心強い。

 中学時代3年間中体連でもシニア等でもまったく出場記録がなかったこともあり桜・片城のバッテリーは2試合無失点+打撃成績がそこそこという好結果を残し高校野球ファンという正体不明な人種のの耳目を集めてしまったようで、毎日自己検索エゴサしていても(するな)少しずつこの二人の名前がヒットすることが多くなりまだ注目されていない俺はジェラシーを感じなくもなかったりする。

 投手陣もしっかり試合をつくっている。


 この試合まではほぼ1年生なチームが高校生相手に投打ともに通用している内容だったのだが……。


5回戦

 継星学院7対12松濤

  継星学院500000101|7

    松濤11111214×|12

 5回戦では桜が見事炎上、初回にワンアウトもとれずに6連打を浴びる(大会初のイニング複数失点)。この時点でエースの降板も……というか松濤の敗退もありえたのだが指揮官・勢源は泰然自若、そのまま桜を続投させた。残る二人の投手が桜以下なわけだから結局背番号1と心中するはらだったわけだ。

 桜は回を追う毎に復調し6イニングまで投げきった。好調な打線は毎回得点でビハインドを取り返し6回裏に俺に窮した相手が投げた山なりのボール(イーファスピッチってやつだ)を適時打二塁打タイムリーツーベース。逆転に成功する。球数が多く制球に苦しむ場面が多かった桜は6回が終わると降板し7、8回をアダムが、9回を勢源が投げ前年度ベスト8の継星学院の反撃を最少失点で抑え勝利。大会初出場チームがベスト8までコマを進めた。

 松濤高校ベンチには野球部部長の羽前千歳(露出過多)がいるにせよ大人が不在のチームで、1年生の勢源は選手兼任監督プレイングマネージャーなんて高校野球史上おそらく初の役割を淡々とこなしている(藤真じゃないんだから)。

 大会前には勢源個人がマスコミから学校を通し取材を依頼されたがもちろん断った。

「決勝が終わったら応えますんで」

 まっ、受ける意味なんてないしな。

  勢源「たとえ無策無能と他人に思われようと指揮官として当面になるつもりだ。チームとしての方針、ゲームプランっつぅのか、そういうのはあらかじめ決めてあるから現場で俺は機械的に采配するだけだ。奇策や博打に頼らなければ決勝まで勝ち上がれない戦力ならそもそも青海には勝てねぇ。そうだろ屋敷? 俺やアダムもマウンドには上がるが、大事な場面では桜に頼る。これはもう前提」

 松濤はベスト8まで残った。

 あと2回勝てば決勝戦で順調に勝ち上がっている青海大学附属とぶつかるだろう。決勝で勝てば全国だ(そこはあんまり興味ない)。

 そしてここまで勝ち上がった以上、俺たちはもう大会に参加しただけの1年目のチームなんて甘いあつかいを受けたりなんてしない。

 というか前提として大会まえに置鮎から点を奪い法王大に勝った事実は都内のほとんどのチームに知れ渡っているわけで。

 松濤の4試合分のデータは共有され参照され解析され対策は打たれる。

 それでも俺たちは勝つしかない。


ベスト8

 松濤9対4愛新

  松濤301201011|9

  愛新011001001|4


 勝った。

 球数制限のこともありこの試合桜は登板を回避。代わって先発したアダムが投打ともに予想外の活躍を見せ(4失点完投+二塁打ツーベース2本)松濤高校を勝利に導いた。

 アダムについて言うなら大会前後に他の競技からオファーが殺到し、陸上連盟のお偉いさんやバスケットボール部の面々が「考え直せ!」「おまえの才能は野球では活かしきれない」などなどの文言でチームから引き離されそうになりアダム自身もうんざりしていたがこのナイジェリア人ハーフは小学校のころからどんなスポーツ、格闘技をやらせても上手くこなせてしまうチート的存在だったので、逆に指導者や周囲の眼がうざったく感じ競技を転々としていたらしい(野球をやらせた同級生に感謝しなくては)、そのアダムが都大会のベスト8で春夏通算13回甲子園に出場しているとかいう強豪愛新高校相手に9イニング投げきったわけだが……。


  アダム「本当にしんどい。もう投げたくない。どうして無観客でやんねぇの? プレッシャーでしかない。やっぱ外野がいいよ外野が。守備機会少ねぇし。声援とか送られても耳ふさぎたくなる……」

 試合中ベンチで愚痴ってみんなに呆れられていたのだが……ベスト8まで勝ち上がったチーム相手に9イニング投げきり打点を稼いだ。エースの桜を温存してしかも投手としてのアダムの価値が高くなる。最高と断言できる結果ではないか。


  勢源「都大会ベスト8の勝利投手なんだぞおまえは。しかも1年生! 勝利は蚊トンボを獅子に変化えるはずなんだがおまえ本当にブレねぇな」

  アダム「知らねぇよ」


 アダムは本当に目立ちたくないらしく移動中もチームの後列を選び身を縮めているのだがその長身で存在感がなくなるはずもなく、そしてこの試合の活躍でただの大男ではないことが都内の高校野球界にさらされてしまい試合後球場内でよそのチームとすれ違った際なにもしてないアダムに気圧される謎のイベントがあった。

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