第20話 中原事変(改訂)
*
勢源は教えてくれた。
「中原の親父の話ならしてやるよ。通称『打撃王』。あいつの父親の中原
「通算ホームラン444本、打率.310。遅咲きの選手だったからメジャーには挑戦しなかったが(大学→社会人経由)。
「それにあの独特の打撃フォーム……俺も真似したよ。歴代最強候補の一人だ。全盛期はマジで手のつけようのないバッターだった。キャリアハイ53HRだし4割達成しかねなかった化け物だからね」
「……え、屋敷は知らないの!? 中原引退したの最近だよ。おまえ本当に日本人?」
プロ野球とか全然見ない俺だ。
そうか……中原の親父はそんなにすごい選手だったのか。
だからあいつ態度がくそデカかったのね。
*
(練習試合から数日後、練習のない日の放課後に中原の番号で俺のスマホに着信があった。しかしかけてきた相手は父親の中原潔だ)
中原「屋敷慎一君だね。威名が天下に鳴り響いているよ」
俺「すごい選手だったんですね中原さん! 俺世代じゃなかったんで知らなかったっすけれど」
中原「現役辞めたのは3年前なんだけれど
俺「(沈黙)はい」
中原「息子が『お世話』になったみたいで」
俺「息子さんが俺の才能に嫉妬するのは仕方ないですよねぇ。チームメイトが置鮎からヒット打ったら頭バグっちゃうのもわかります」
中原「だからといってチームメイトに金握らせて『俺に野球を教えろ』っていうのはちょっとね。あとでお宅を訪問して頭を下げさせましょうか?」
俺「別にそのことは謝らないんでもいいですよ。金その場で破って捨てましたからね(合法)」
中原「……屋敷君がどんな教育を受けたか気になるところだが……」
俺「あいつのことわからないでもないんですよ。強い奴にはあこがれますし、自分もそっち側に立ちたいんだろうなっていう心理はね」
中原「勝負事に身を置いているなら当たり前の感情だ」
俺「最強になりたい。青海は松濤が倒します」
中原「若いのに大した度胸だよ。弁解の余地を残していない。負けたときの言い訳はしない?」
俺「俺がチームの目標を決めたんで。負けたら鳥葬にでも処してもらいましょう(文化の盗用)」
中原「どうして俺が自分の子供にバッティングの指導をしないかわかるかね? 18年プロでやってた俺が」
俺「打撃を極めたゆえに同じ高みに立たせる困難が理解できるから?」
中原「それも一つの要因だ」
俺「中原さんのあの打法がピーキーすぎてあいつにゃ無理だから?」
中原「それも一つの要因だ。俺の意思としては……あいつに野球なんてやって欲しくない」
俺「戦いの螺旋から逃れたいみたいな?」
中原「まさにそうだ。仮にあの子が高校野球というカテゴリーで強者になったとしても、そこからプロに行くまで、そしてプロになってからもずっとずっと壁にぶつかり続ける。例外なく壁はある。あいつには壁を乗り越えるための根性がない」
俺「中原さんが助言してさしあげたらよろしいのでは?」
中原「あいつは俺の言うことをきかないんだ。そういう性格してるだろ?」
俺「今回のことで察しましたけれど」
中原「一つ定説があるんだ。スポーツという世界において『スタープレイヤーの子供はスタープレイヤーになれない』」
俺「確かに……そうですね。親と同じ競技やらせて同じくらい大成する二世選手はいない」
中原「例外は極少数だ」
俺「サッカーだとマルディーニ親子がいますけれどね」
中原「不思議だろ? 肉体的に優れた遺伝子を受け継ぎ、教育に金銭を惜しまず、なにより優れた親から指導を受けられるのに選手は一流になれない。なぜだと思う?」
俺「家がリッチだと逆境に弱い性格に育つから?」
中原「だと俺は思っている。試合もそうだが環境や、チーム内での過酷な競争を思うと、両親から手厚い保護を受けて育った子供は性格的に選手として正しく成長できない」
俺「大人から正しい指導を受けただけで選手は育たない。環境がちょっと悪化すると大型生物が絶滅するみたいな?」
中原「まぁそんな理屈かな。適者生存ってやつか」
俺「……あいつこのとがかわいそうに思えてきましたよ」
中原「あいつが自分から変わろうと決意してくれるなら、もちろん応援するつもりだよ」
俺「ブラーヴォ! グロースアルティヒ!! マーヴェラス!!!」
中原「ところでどうしてあいつに教えようとしなかったの?」
俺「見こみがなさそうだから」
教育こそが史上最高の能力。
現生人類は少数の天才が発明や発見をしたから繁栄したのではない。
優れた人間が自分のアイディアを他人に説明し真似させることができるコミュニケーション能力があったからこそ文明は広がったのだ。
俺はただのプレイヤーではない。人に教える立場にある。
とはいえ時間は有限。バッティングを教える相手は選ばせてもらう(勢源の『勝つためにはまずは守備から』というのは正論を超えた正論なので)。
俺はもう8人の後輩からピックアップを済ませていた。
俺の特訓につきあってもらうのは2人だ。
息子さんが悪いプレイヤーってわけじゃないんだけどねと中原潔氏に対して擁護はしておいた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
よろしければ★と♥お願いいたします。
感想もお待ちしております。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます