memory.1 警視庁刑事部奇怪捜査研究所
凶悪犯が相手でも、鉄砲を抜いた警官が行き着くのは地の果てと決まっている。
逆を言えば、地の果てに行く気があるなら鉄砲はいくら抜いても良い。
ガキの頃、鉄砲を凶悪犯に向けてぶっ放したいと思って警官になった俺が行き着いた先は、成る程、たしかに、地の果てだった。
「ぼっろ……」
東京都の某所にある合同庁舎の地下駐車場にエレベーターで降りて、駐車場の奥まったところにある危険物搬入用と書かれた扉の虹彩認証をクリアする。
扉の先にある安っぽい階段は降りる度に革靴と金属の床がぶつかってわざとらしく音を立てる。
安い芳香剤の臭いに耐えて『奇怪捜査研究所』と書かれた扉を開けば――
「本日より着任しました。
「やあ新人さん!
――女の子だ。いや、めちゃ童顔のお姉さんだ。
どういうことだ、これは。
「う、うす。どうもっす。あの、他の方は?」
「他の皆さんは今も捜査に駆け回ってるから、今日ここにいるのは私と神埼さんの二人だけですよ」
「あの、その、せめて、所長さんとか管理職の方は……」
「はい、天ヶ瀬所長はお留守です。ですので副所長の私が残りました。あなたの相棒にもなるので、よろしくお願いします」
「副所長?」
スーツ姿はなるほど管理職に見えなくもないが、いかんせん本人がどう見たって高校生からそこらの女の子だ。もしかしてキャリアか何かで、とてつもなく童顔とかそういうのだろうか。転属直後の身でキャリア組のお守りはちょっときつい。
「警視庁刑事部奇怪捜査研究所、通称“
彼女がそう言って取り出した警察手帳は本物だ。
「警視……正?」
俺がわずかに怯んだことを悟り、乙女はくしゃりと笑う。
彼女は先程と打って変わって砕けた調子で話し始めた。
「うっふふ、びっくりした~? 年ばっかり食ってるから階級も上がっちゃってね。まあ気になることがあったら何でも聞いてよ。私の年齢以外はね」
「おっ、それって電話番号は聞いて良いってことっすか」
乙女はそれを聞いて口をポカンと開けたあと、俺の脇腹を肘で小突いた。
「……おう、良い根性しとんなあ小僧」
結構とっつきやすい人らしい。
「うっす、だからここに飛ばされました」
眼の前で乙女さんが『ブボッ』とおよそ名前にそぐわぬ音を上げて吹き出した。
吹き出すのみならず腹を抱えて笑い出し、約十秒。
なんとか落ち着いた彼女は顔を上げて、俺の肩をポンポンと景気よく叩いた。
「君がなんで飛ばされたか知りたくないかい?」
「良いんですか? それ、話しちゃって」
「ああ良いの良いの。そもそも君の人事も左遷ってほど左遷じゃないんだ。そもそも君がここに来たのはうちで取り扱っている事件に絡む事情でね」
そう言って彼女は薄手のファイルを取り出して、俺に差し出した。
奇捜研事件ファイル。薄い黒革のファイルにはそう書いてある。
「まずはこれ読んでよ。ギンネコ怪奇ファ~イル。君が発砲した事件についても途中に載せてあるぞ」
俺がここに飛ばされた理由。
どうやらそれは拳銃をぶっぱなしただけじゃないらしい。
そう聞かされたら読まずにはいられない。
俺は銀色の猫が刻印された黒革のファイルを開いた。
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